ベネッセ教育総合研究所
特集 問われる個人情報の保護と活用法
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情報取得は「目的」が必要

― 全面施行によって、大学はどんな影響を受けるとお考えですか。

宇賀
 個人情報の取得や利用について、従来とは異なる対応が要求されるでしょう。例えば、これまで学籍簿を作る際などに、安易に性別や本籍などを書かせていた場合もあるでしょうが、これからは本当にその情報が必要か見直さなくてはいけません。
 また、推薦入試やAO入試の参考資料として、高校から成績やクラブ活動の成果を知らせてもらうなど、第三者から個人情報を取得する場合は、事前に本人に通知したり承諾を得る必要はありません。しかしその場合でも、取得後はすみやかに利用目的を本人に通知しなくてはなりません。

― 大学では今、学生の個人情報を一元化して教職員が共有し、指導に活用しようという動きがありますが、利用目的が制限された場合、こういうこともできなくなるのでしょうか。

宇賀 指導といっても進路指導、教学指導、精神衛生面上の相談など、それぞれに目的があるはずです。
 情報を一元化するのはかまいませんが、そのことで、ある部門の職員が自分の業務と無関係な情報まで見られる仕組みになっているのであれば問題です。どうしても目的外で利用したいのであれば、本人の同意をとらなければなりません。また、大学の情報というと、どうしても学生や受験生の情報を考えがちですが、教職員の個人情報もまったく同じ考え方で扱う必要があります。

― 大学案内などの発送業務で、外部の委託業者に志願者の住所などを知らせる場合はどうなるのでしょうか。

宇賀
 大学が個人情報を入手した時は、大学の業務上の目的で入手したわけです。従って、あらかじめ志願者に通知している利用目的の達成のために個人情報を知らせる場合は、その委託業者は第三者と見なされず、本人の同意も必要ありません。
 しかし、本人の同意なしにその目的以外のために第三者に提供することは認められません。これまで学生の利益になるだろうということで、同窓会などに学生の個人情報を渡していたケースもあったと思いますが、今後は本人の同意なしにはできなくなります。

― 大学が学生の成績を親に報告するようなケースはどうでしょうか。

宇賀 少なくとも、20歳を過ぎた学生の場合、親は法定代理人としての資格を失いますし、未成年とはいえ18歳に達している個人の情報を無断で父母等に送るのはやはり問題です。個人情報の保護という理念の下では、親子を一体化する見方は非常に危険だといえます。

― 親にも知らせることを本人に通知するだけではだめなのですか。

宇賀
 成績は学生の個人情報です。たとえ親であっても、第三者ですから本人の同意は必要です。ただしその都度了解をとらなくても、例えば入学時に、4年間の成績を保護者に送付することについて包括的な同意を得ていれば、問題はないと思います。もし自分の同意なしに親に成績を送付されたと学生が訴えた場合には、個人情報保護法違反となる可能性が出てきます。

― 募集戦略の一つとして学生の進路情報を出身高校に提供する場合も、必ず学生の同意が必要になるのですね。

宇賀
 第三者提供に関しては、基本的に本人の同意は不可欠だと考えるべきです。ただ、本人が特定できないように統計処理した形であれば、同意は必要ありません。しかしその場合も、就職先の企業名や性別などから本人が特定できるような場合は、個人情報と見なされるので、注意が必要です。


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