VIEW21 2000.9  特集 危ぶまれる生徒の学力

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★学力向上のための取り組み例★
事例2:低学年次の学習指導を充実させる

「生活実態調査」に基づいて入学直後のガイダンスを充実
静岡県立清水東高校

静岡県立清水東高校
設立1924年。普通科、理数科からなる共学高校。全校生徒935名。'00年度入試では、東京大6名、静岡大35名、静岡県立大15名をはじめ、国公立大に191名が合格。私立大は慶応大16名、早稲田大18名、上智大5名など多数の合格者を輩出。部活動では、サッカー部が全国大会優勝5回の実績を持つ。


 静岡県立清水東高校ではこの12年間、1、2年生を対象に('97年度以降は3年生も)、生活実態調査を続けてきた。これは春と秋に1週間ほどの期間を設けて、生徒に1日の生活記録を付けさせるというものだ。例えば自宅での予習・復習は、単に「自宅学習」と書かせるのではなく科目ごとに記入させるなど、その内容はかなり細かいものとなっている。これにより、生徒の学校外での生活ぶりが、つぶさに把握できるというわけだ。
 ただし、同校の西野耕二先生によると、'95年度までは前年度の数値と比較して「今年の生徒はよく勉強する(あるいは勉強しない)からこうしよう」といった判断材料にするぐらいで、それほど精緻な分析はしなかったという。長年蓄積してきたデータを基に家庭学習時間の推移を調べてみようと思ったのは、'96年度新入生が入ってきたときだった。
 「新課程になってから生徒の質が変わったという話は聞いていました。実際に1年生を担任してみると、確かに違う。まず教師に対する接し方が友達感覚になり、学力面でも落ちてきているように感じました」
 生徒の変化を数字が如実に反映し始めたのは、'98年度入学生あたりからだ。一般に高校1年生の理想の勉強時間は1日3時間と言われている。同校の1年生春の調査(普通科)を見てみると、'97年度までは3時間以上の生徒の数は3分の1を超えていたが、'98年度以降徐々に減っていることが分かる結果となっている。
 この生活実態調査の効用の一つとして、今の生徒に何が足りないのかを客観的なデータで把握できるということが挙げられるだろう。数字に生徒の弱点が明確に現れるからこそ、的確にその対策を取ることができるとも言える。また、ある教師が「生徒のこの力が弱いのでは」と感じていても、それが教師全体の感触であるとは限らないため、新たな取り組みにはなかなか結び付きにくいということもあるかも知れない。しかし、生徒の弱点が客観的な数字として現れていれば、その対策の必要性を教師全体で共有化することができる。

各2時間、国英数のガイダンスを実施

 生活実態調査の結果を踏まえ、今年度から清水東高校では、従来から実施していた新入生対象の教科ガイダンスの充実化に乗り出した。授業の受け方や予習・復習の仕方などを生徒たちに体得してもらうことを目的としたものだ。
 「今の生徒は中学校時代に学習習慣が身に付いていません。出される宿題の量は減っているし、中学校の授業は生徒が家庭学習をしてきていないことを前提として進められている。そういう学習に慣れてきた生徒が、いきなり高校の授業を受けたときに戸惑うのは当然です。だから生徒にはできるだけ早い段階に、中学校と高校の違いを意識してほしいんです」(清水湘一先生)
 これまで同校のガイダンスは、講堂に生徒を集めて、1教科15分程度で説明するという形式だった。だが今年は、社会と理科は従来通りだが、国語、数学、英語については4月11日と12日の2日間に特別の時間割を組み、教科担当の教師がそれぞれ各教室を訪れてレクチャーするという方法を採った。各教科とも1クラス2時間が割り当てられた。
 教科ガイダンスの際に、国語科の教師が力点を置いて説明したのは、授業中のノート作成の仕方だった。同科の藤原恵里子先生はこう話す。
 「高校の先生の板書は、中学校までと比べてそんなに丁寧ではありません。重要な用語を箇条書きする程度です。ところが、最近の生徒の中には、その箇条書きを写すだけという子も少なくないんです。自分なりに工夫するという力が落ちてきているんですね。そのために、後でノートを読み返しても理解できず、それが授業についていけなくなる原因の一つになっています。そこでガイダンスでは、模範的なノート作成例を見本として生徒に配って、予習・復習、授業時間中のノート活用法を教えました」
 英語科もやはり重視したのはノート作りだという。2時間を1時間ずつグラマーとリーダーの時間に分け、実際に模擬的に授業を進めながら、生徒に指導していった。
 「ノート作成と言っても、そんなに特別なことではないんです。予習としてあらかじめノートに英文と訳を書き込んでから、授業に臨むという昔ながらのやり方を説明しただけ。でも、今の生徒はそれが習得できていないんですよね」(宇佐美貞雄先生)
 数学科では、ノートの取り方はもちろん授業を受ける上での心構えを生徒に説いた。
 「高校の数学は、1回の授業で進む分量が多いので、事前に教科書に目を通して、試しに問題を解いてみる必要があること。そして授業中は、教師が示したポイントは必ずノートにメモすること。その際に、ペンの色を変えるとよいといったことを話しました」(足立和則先生)


写真 西野耕二
静岡県立清水東高校教諭
西野耕二
Nishino Kouji
教職歴22年。国語科担当。教務部長。「次の世代のことを考えられる生徒を育てたいですね」

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