VIEW21 2000.10  特集 SIづくりから始まる学校改革

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 '03年度から始まる新課程に向けて、多くの高校が新カリキュラムの検討を始めています。先生方の高校では、単にカリキュラムの見直しにとどまらず、SIの構築を含め、より抜本的な改革に向けて動き出しているとお聞きしています。今日はその背景について、ぜひ教えていただきたいのですが。

関根 きっかけは生徒の変化ですね。我々教師は、入学してきた生徒が卒業するまで持ち上がりで学年を担当することが多いので、3年1クールという感覚があるのですが、'96年度入学生を見たとき、前の3年間で受け持った生徒と全然違うなあという印象を持ったんです。その感触は、それ以降の年度に入ってくる生徒に対しても同じでした。
 それで'99年の6月、高崎高校に赴任してきた新任の先生方に以前からいる先生方を交えて、座談会を行いました。と言っても最初のテーマは生徒の変化ではなく、4月に着任して以降の授業、ホームルーム、部活動などでどう感じたかを語ってもらっていたんです。しかしそのうち自然と“今どきの生徒”を巡る話題に移りました。そこで出された先生方の認識を整理してみると、次の六つになります。(1)的確な自己表現(プレゼンテーション)能力が身に付いていない、(2)問題解決能力、物事に臨機応変に対処する力が貧弱である、(3)正しく言語を駆使し、筋道立てて考える力が備わっていない、(4)社会的通念や常識を持ち合わせていない生徒が多い、(5)自分のことしか考えない利己的な生徒が増えている、(6)指示待ち型が多く、自分から進んで行動することが苦手である。
 また、生徒を対象に行った意識調査の分析からは、生徒の「自分を見つめる」という視点の脆弱化、自我形成の弱さが浮き彫りになりました。他者とのコミュニケーションの中で自分のアイデンティティを確立していく力が弱いということですね。
 座談会には管理職も同席していました。そこでこの際、全職員で生徒の現状についての意見交換の場を持とうということになり、職員研修会を企画することになったんです。それが第一歩ですね。

小池 関根先生は「'96年度入学生を見たときに変わったと感じた」とおっしゃっていましたが、実は私も'96年度組と出会ってそう思いました。彼らが入学した年、私は別の学年を持っていたんですが、彼らが2年生になった年から、その学年主任を務めることになったんです。私の担当教科は国語なんですが、最初の授業に臨む前に同僚教師から「今年の2年生は、先生の話されることの半分も理解できませんよ。使用語彙が違いますから」と言われ、大変ショックでした。実際に生徒に接してみると「基礎学力が不足している」「学習習慣が確立していない」「社会性において未成熟な部分がある」ということを痛感しましたね。
 岐阜高校は長い間、「圧迫せず、放任せず」が生徒への指導方針だったんです。私が本校に赴任した10年前には、「生徒の邪魔をしないのが、最善の指導方法だ」という空気がありました。教師は、生徒から助けを求められたときに少し助けてやればよく、基本的には生徒が自分で学び、伸びていくという考え方ですね。しかし新しいタイプの生徒が入学してきている今、それだけでは対処できないという意識が生まれてきたんです。

 高崎高校、岐阜高校とも、生徒の変化に対応してということですね。

なぜ勉強するのかと聞く子どもたち

筒井 私も生徒が変わったと感じてます。まず学習意欲がなくなってきました。それと並行して生活も乱れてきています。服装しかり、教師に対する態度しかり。注意すると「何でそんなことを言うの」と不思議がる。かつてだと考えられない生徒がいます。
 その大きな原因は、生徒たちには社会全体が方向を見失い混乱しているように見えていることだと思います。2、3年生になって少し行き詰まると「なぜ大学に行かなくてはいけないんですか。どんな意味があるんですか」と聞いてくる生徒がいます。昔もそういう生徒はいました。今は教師と信頼関係のパイプが作られている真面目な生徒ほど、切実な表情で教師に答えを求めてくるんです。そんなとき私は、お粗末かも知れないが自分なりの論理を語ることもありますし、卑怯なようでも逃げることもあります。私には「今の社会はこうだから、こう生きなさい」と話せるだけの知識もないので、どうにも言い淀んでしまう。私たちだけではもはや対処しきれない部分もあるように思いますね。
 この4月に学校を辞めて、タイに異文化を学びに行った生徒がいました。「もう少し力を付けてからでもいいんじゃない。君はまだ16歳なんだよ」と多くの教師が説得しましたが、その生徒の決意は変わりませんでした。学力的には必ずしも高くはありませんでしたが、他の生徒への影響力は強い生徒でした。そんな彼の行動は、きちんとした針路を示せない私たち教員に向けられた一つの切り口であるように感じました。
 富山高校では、生徒の変化にどう対応するか、先生方に自由参加で話し合ってもらう「21世紀フォーラム」という会を開いて、検討しているところです。


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