VIEW21 2002.6  指導変革の軌跡 大阪私立追手門学院高校

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コース制の導入に
当たっては、教師同士で様々な議論が行われた。コース制の導入だけで、生徒の進路希望をかなえることができるのだろうか。生徒のニーズに応じた教育改革を行い、生徒一人ひとりの声を大切にすることこそが、真の生活指導、進路指導につながるのではないだろうか。噴出する多くの課題を逐一職員会議で処理していくことは、膨大な時間が掛かってしまい現実的とは言えない。そこで、教育改革を円滑に進めるためには改革推進のためだけに動くことができる組織が必要ではないかと教師たちは考え始めたのである。
 01年2月、土井校長の決断により、改革を企画・立案する専門組織として教育改革委員会が設立され、その下には入試改革委員会、学習統轄委員会、特別教育委員会の3つの組織が設けられた。中でも、教科指導や新たな取り組みの企画・推進を行う役割を果たすのが学習統轄委員会である。「生徒の学習意欲を高めるためには、まず授業を変えなければならない」と考えていた同校の教師たちにとって、学習統轄委員会はまさに改革の成否の鍵を握る組織と言えた。
 「生徒に対してあらゆる角度から学習面をサポートするのが学習統轄委員会の役目です。もちろん、教師に対しても働き掛けをします。学習能力の向上、指導能力の向上に向けた様々な企画を実現させるための委員会と位置付けています」と学習統轄委員長を務める吉村俊介先生は語る。

学習統轄委員会では、
まず、生徒の学習意識を高めるための方法が議論された。その結果、導き出された答えは「生徒に明確な学習目標を持たせること」であった。01年度からは、年度初めにコース別に「授業の目標」「授業の内容」「学習の取り組み方」の3点を冊子にまとめて生徒に渡すようにした。この冊子には、予習すべきこと、復習すべきこと、各授業で気を付けることなどに加え、センター試験での目標得点も明記されている。そうした内容を2時間かけて説明するのが学習オリエンテーションだ。これにより、生徒が漫然とではなく、学習する気構えを持って授業に臨むように変わっていった。また、この冊子を生徒に配付することは、同時に教師の授業への動機付けにもつながった。冊子では、具体的な到達目標を掲げるだけでなく、「大学入試に必要な文法力・語彙力と読解力を含む総合的な英語力を付ける」「授業は、生徒が分かりにくいと思われる箇所を中心に進める」など、教師がどのような授業を目指しているのかも示すようになっている。つまり、生徒に努力目標を提示するだけでなく、教師も自身の授業に対して、公約を掲げることとなったのである。
 「学習オリエンテーションの最大のねらいは、生徒に目的意識を持たせることです。一方、教師の側も生徒に目標を明示して公約を掲げるようになったことから、日々の授業に対して今までよりも熱心に創意工夫を加えるようになりました。各教科の担当者同士で勉強会を持つことも増えましたね」と語るのは、学習統轄委員である藤本祥之先生だ。
 生徒に目的意識を持たせたいという思いは、英語の習熟度別授業にも表れている。英語は、生徒の学力差が特に見られる教科ということで、習熟度別授業を取り入れた。英語の成績によって、3つのクラスに分けた習熟度別授業が行われていく。
 「それぞれの生徒の学力に応じた授業を行えるので、生徒の理解度も深まっているようです。クラスは入れ替え制なので、生徒に『上のクラスに上がりたい』という目的意識も芽生え、意欲向上にもつながっています。当初は、下のクラスに落ちた生徒の気持ちのケアについて心配していましたが、実際にスタートしてみると、頑張ろうという思いにつながり、励みになったようです」(住谷先生)


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