VIEW21 2002.9  新課程への助走

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大学の説明責任として登場したシラバス

 シラバスは大学変革の推進と共に広く知られるものとなった。英和辞典によれば、シラバス(syllabus)は「(講義などの)摘要、概要、要旨、教授細目、時間割」と定義してあり、大学変革の目玉の一つとして登場した。
 その目的の一つには大学の説明責任があり、学生が履修選択を行うための情報や授業全体の設計図、学習の指針を教授が学生に対して示すものである。それによって、学生が高い納得度で履修設計をし、学習していくことを目指している。
 ところが、高校のシラバスとなると、進度表の域にとどまっている事例が少なくないように思われる。これは、まだシラバスというものに慣れていないということにも起因すると考えられるが、その背景には「シラバス=進度表」という概念での捉え方があるのではないだろうか。確かに授業進度もシラバスの中の一つの要素となり得るものであり、それが持つ意義も小さくないが、教える側が進度だけに追いまくられることにもなりかねない。
 高校におけるシラバスでは、「学習内容」に加えて「学習目標=到達目標」が最低限示されるべきであり、「学習内容」を理解するための「学習方法」、「学習目標」を検証するための「評価方法」や「評価ポイント」などが示されるならばよりよいシラバスと言える。

生徒の自主的な学習に役立つシラバスとは

 それではシラバスに最低限必要とされる「学習内容」と「学習目標」について考察してみたい。
 授業で使われている教科書が、その学校の実情に完全に合致していることはむしろ稀であり、それぞれの学校はそれぞれの校風・伝統に支えられ、学校独自の生徒資質を抱えているため、その学校に合った授業内容や授業方法あるいは教材やテストが有形無形に存在している。したがって、授業進度も教材も、その学校でしか通用しないものが多い。それゆえに、まずその学校のSIの下、各教科・科目あるいは進路学習に期待される役割に基づいて「学習目標」が明確に示されなければならないのである。
 「学習目標」は、学校の修業年限における到達目標を示した長期目標(3年間)、各学年の到達目標を示した中期目標(1年間)、各学期あるいは独自のスパンを到達目標にした短期目標の3視点から、生徒が「何を」「いつ」「どこまで」やるかを明確にしたものである。この長期・中期・短期目標が明確になれば、授業テキストや自学教材を選定しやすくなるし、テキストや教材の単元・課の目標、授業1時間ごとの目標も明確になってくるだろう。また、生徒の側においても授業に適した自主的な学習の計画を立てやすくなる。
 例えば、1年生の国語において「表現力を養成する」を重点目標とするのであれば、学期末や学年末に「小論文コンクール」を実施し、これを一つの実践目標として、達成のためのプロセスを考えながら各授業を設計するのである。
 「学習目標」は「学習内容」に基づいた具体的なものであることが望まれるが、教師の工夫のしどころは、第一に、生徒にとっての分かりやすさの追求であり、第二に、生徒が挑戦意欲をかき立てられるような魅力的な目標の示し方であろう。「この学習を通して、きみたちはこんなことができるようになるのだよ」という教師の熱いメッセージが伝えられるようなシラバスを目指したい。

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