VIEW21 2002.10  特集 進む「理科離れ」と理科教育の展望

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【2】産業界は「理科離れ」の現状をどう捉えているか

 前経済同友会教育委員会副委員長・平田正氏(協和発酵取締役社長)にうかがう

写真
協和発酵取締役社長
平田正
Hirata Tadashi
前経済同友会教育委員会副委員長。教育界への様々な提言を委員会の中心となって推進してきた。

創造力の高い人材を育成することが
求められている

 現在の日本は、産業競争力の低下や雇用創出力の停滞、少子高齢化など様々な課題に直面している。資源の乏しい日本が発展し続けていくためには、技術革新により、新しいモノを開発し、国際競争力を付けていくことが求められている。しかし、図4を見ても分かるように、科学技術に関する特許取得数でもアメリカに遅れをとっている状態である。
 そこで、これまでも教育に関して様々な提言を行ってきた経済同友会では、1997年に日本経済の発展に向けて、主に科学技術面にスポットを当て、「創造的科学技術開発を担う人材育成への提言」を発表、また99年に発足した同会内の教育委員会では「学校と企業経営者の交流活動」として、中学・高校への講師派遣や意見交換会を実施してきた。経済界がこのような施策を実施するようになった背景について、協和発酵取締役社長の平田正氏は語る。
 「我が社でも最近の新入社員は、専門的な知識のレベルは高いのですが、思考力や応用力が従来よりも低下しているように思います。与えられたことはきちんとこなせるけれども、自分で問題を発見したり、専門分野を越えて新しいことをするということが苦手なんですね。また、今の子どもは体験が不足しています。例えば、最近は台所で料理の手伝いをさせる機会が少なくなってきていますね。しかし、台所はある意味、理科実験の場でもあるんです。そういった体験不足からくる不器用さは、製造現場などに深刻な影響を与えています。創造的に新しい技術を開発する力や物づくりに必要な器用さは、産業の競争力を強化するためには必要不可欠です。そこで、産業界としても、科学技術開発の分野で活躍できる人材を育成することが必要だと考えるようになったのです」

図

理科教育の改善、
国民の科学への関心向上などが重要

 では、なぜこのように創造性や器用さに富む人材が日本では育ちにくいのであろうか。平田社長は、現在の理科教育にも原因があるのではないかと指摘する。
 「遺伝子やロボットなど、現在の科学技術は日進月歩の勢いで進んでいるのにもかかわらず、学校現場を見てみると、理科教育に充てられる時間が少なくなってきている。少ない時間では、とりあえず知識を教えるのが精一杯でなかなか実験をする機会を持てませんね。しかし子どもたちは、実験や実体験を通して自然や科学の面白さを実感し、創造性を培っていくのです。この現実と教育現場のギャップを埋めることが課題の一つではないでしょうか」
 また、平田社長は、日本の国民全体が科学技術に対して興味が薄いことが、子どもの「理科離れ」「科学技術離れ」を助長させているのではないかと推測する。
 「例えば、日本では科学技術をお茶の間での気軽な話題にする環境ができていません。ジャーナリズムは、科学を一般の人々に啓蒙する役割を担っていますが、テレビや雑誌などを通して、科学技術を広める機会はまだまだ少ないですね。逆に、新しい科学技術に対して慎重な意見ばかりを強調しすぎる傾向があるのではないでしょうか。科学技術が現在の私たちの生活に、どのように役立っているのか、科学技術は私たちにとってとても身近なものであるということをもっと伝えていかなければいけないですね」
 また、研究者にイノベーティブな仕事を与え、研究者が行った研究に対し、正当な評価を与えることも重要だと言う。
 「最近は、企業でも発明に対する報奨を厚くするようになってきましたが、アメリカなどに比べるとまだまだ不十分です。個人の独創性をきちんと評価するという風土を育てること、将来研究者や技術者になりたいという夢を持てる環境を整備することが大事だと思います」


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