ベネッセ教育総合研究所
指導変革の軌跡 茨城県立下館第一高校
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学校改革の成果を地元中学校にPR
 一方、進路指導についても、現2年生を対象とした学年独自のプログラムを実施し、同様に大きな成果を上げている。特徴は、5月の「大学キャンパス見学遠足」から、11月の「大学模擬講義」まで、各行事に連続性を持たせている点だ(図1)。
図1
「大学模擬講義」
「大学模擬講義」
2年次に起こりがちな「中だるみ」を解決するために始められた模擬講義。「プレカレッジ講座」と並んで同校の重要な進路行事の一つである。実行委員会は生徒主導で運営され、主体的な活動に対する大学からの評価も高いという。
加えて、進路意識の高い生徒に対しては、03年度から大学教員が同校で出前授業を行う「プレカレッジ講座」も実施している。
「プレカレッジ講座」
 「本校の生徒は、大学進学に対する意欲は旺盛ですが、進路意識は具体性に乏しく、曖昧で未熟な場合が多いのも事実です。そこで生徒に自分の進路について考えさせる機会を多く持たせるために、段階を踏みながら進路を研究し、最終的には自分で進路選択ができるようにしています」(瀬尾先生)
 生活指導、学習指導、進路指導が言わば三位一体となって、改革は着実に進みつつある。しかし同校では学校の内部にばかり目を向けているわけではない。こうした姿をもっと知ってもらおうと、地元の中学校に向けて積極的な広報活動を展開しているのだ。
 「下館市内の生徒は下館で育てようということで、周辺の高校にも呼び掛けながら、本校の校長が中心となって中学校の校長にコンタクトを取っています。中学校との連携を深めることで、そういった機運を高めたいのです」
 そう語る飯村先生も、毎月「館一ニュース」を発行し続けている。「館一ニュース」はA3判カラーで1枚。行事報告や進学情報はもとより、教師から生徒へのメッセージ、生徒の声など、内容は実に多彩だ(図2)。元々は年4回、中学生に向けて進学情報を知らせる目的で作られていたが、同校の生活を知りたいという中学生の希望が多く、今年からは毎月1回、生活面の話題も織り交ぜて在校生向けとして作られるようになった。それを中学校にも10部ずつ、30校ほどに配付している。
図2
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行事や学年活動、進路活動など、同校の取り組みを地域や中学校に発信する「館一ニュース」。写真をふんだんに盛り込み、ビジュアル的な工夫が随所に凝らされている。
 また昨年から始まった、生徒による学校紹介も好評だ。同校では毎年夏休みに、中学生とその保護者を対象とした学校説明会を実施している。そこで、1年生が自分の出身中学校の生徒を教室に集めて、同校のホームページを使って学校紹介をするのだ。その間、保護者や引率の先生には体育館に集まってもらい、教師が同じ内容の紹介をするという工夫も忘れない。
 「プレゼンテーションソフトを使ってホームページをスクリーンに映し出しながら、30分掛けて説明するという形です。事前準備には2日ほど掛かりました。機器の扱い方を指導した上で、練習を2回、リハーサルを1回。出来はかなり良く、生徒だけで発表した点も好評でした」(木村先生)
 参加後のアンケートでも「丁寧で分かりやすい説明だったので、下館一高の雰囲気がよく分かった」「説明を聞いて是非入学したいと思った」「先輩が一生懸命に説明してくれて、身近に感じた」などの感想が寄せられた。
 同じく昨年から実施しているものに、1年生が出身中学校の先生に宛てて手紙を書くという試みがある。担任の先生や部活の先生など宛名は様々だが、概して高校生活の報告をする生徒が多い。これが10月に中学校の先生に届けられ、ときには校内に貼り出されて中学生の目にとまることもある。全中学校に生徒の生の声を届けるというこの取り組みも、同校のPRに一役買っているのである。
 「私たちは特別変わったことをしているわけではありません。ただこれまで情報発信をあまり積極的にしてこなかった反省から、等身大の本校の取り組みを見てもらいたいという思いが根本にあるのです」(外山先生)

 定員割れの衝撃から2年。教師の危機意識が生徒にも伝わり、生徒自身の危機意識として根付いてきたのは確かだ。それが生徒の外見や成績となって目に見える結果を残す中で、地域の信頼も徐々に回復してきた。教師と生徒が共に取り組む姿を、中学校も認め始めている。事実、03年度入試では志願倍率は例年の水準にまで回復した。
 だが、「学校力向上」への取り組みは、今ようやく土台が完成しつつある段階だ。柴原先生は次のように言う。
 「今後も定員割れが起きないという保証はありません。生徒はもちろん、地域へもアピールできるよう、今以上に取り組みを学校全体として強化していきたいと思っています」



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