ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 薬学教育改革の方向性とは
桐野 豊
東京大大学院薬学系研究科教授
桐野 豊
Kirino Yutaka
1944年愛媛県生まれ。東京大大学院薬学系研究科博士課程修了。東京大助教授、九州大教授を経て現職。東京大学術企画室長、日本薬学会副会頭。著書「新生物物理の最前線」(講談社)など。
富田 基郎
昭和大薬学部教授
富田 基郎

Tomita Motoo
1940年石川県生まれ。東京大大学院薬学系研究科博士課程修了。現在、日本薬学会副会頭。日本薬剤師会常務理事を兼務。私立薬科大学協会の委員長として薬学教育カリキュラムをまとめた。
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大学改革の行方
薬学教育改革の方向性とは
2004年2月、質の高い薬剤師を養成するために、薬学部の修業年限を4年から6年に延長する答申がまとめられた。現在、薬学教育改革は大詰めを迎えている。しかし、6年制学部と4年制学部の併存をはじめ、制度やカリキュラムなど教育内容がどのように変わっていくのか未だに定まらず、解決すべき課題は多い。
今号では、薬学教育改革の現状を整理すると共に、懸案の課題に行政及び各大学がどのように対応していくのかを探る。
薬学教育改革の経緯


Chapter1
薬学教育改革の現状 〜04年2月中教審答申の概要

6年制学部と4年制学部に分ける
 04年2月、中央教育審議会(以下、中教審)は、薬学教育の改善について河村文部科学大臣に答申した。その内容は、現在4年制となっている薬学部を、6年制と4年制の二つに分けるというもの。そして6年制学部では、薬剤師の養成を目的とする薬学教育を実施。一方、4年制学部では基礎薬学、従来の専門薬学を中心とした教育を行うとしている。
 また、6年制学部の上に設置する大学院は医学、歯学、獣医学と同様に博士課程4年のみで、医療薬学・臨床薬学に重点を置いた教育研究を展開。一方、4年制学部の上に設置する大学院は、現行通りの修士課程2年、博士課程3年で、主に基礎薬学、創薬科学、生命薬学に取り組むと提言している。
 この答申を受けて政府は、6年制学部を実現するために、学校教育法(文部科学省)と薬剤師法(厚生労働省)の改正案を国会に提出している(04年4月時点)。今国会で可決されれば、06年度より新しい制度の下で薬学教育が実施されることになる(小誌発刊時に改正案が可決済みの場合、6年制学部の設置基準の公布は7月下旬頃となる見込み)。

4年制は研究者養成、6年制は薬剤師養成
 04年2月の中教審答申では、6年制学部の役割を「薬剤師の養成」と明確に位置付けているが、4年制学部については「多様な分野に進む人材の育成」とややイメージしにくい表現になっている(図1)。
図1
実際には4年制学部は、研究者養成の色合いが濃い学部になることが予想される。4年制学部は、学部卒業後に多くの者が大学院に進学し、創薬や生命薬学についての教育研究に携わった後に、製薬会社や大学・研究機関に勤める研究者を養成する役割を期待されているからだ。つまり、今後薬学教育は6年制学部は薬剤師養成のためのコース、4年制学部+大学院は研究者養成のためのコース、さらに製薬会社のMR(医療情報担当者)等、薬剤師以外の進路志望者の受け入れなど、はっきりと機能分化すると考えればよいだろう。
 東京大大学院薬学系研究科の桐野豊教授によると、「多くの大学は薬学部の中に、6年制学科と4年制学科を併存させるでしょう。ただし定員数は、国立大の多くは4年制、私立大の多くは6年制に比重を置いた構成になると思われます。卒業後の進路は国立大生は研究者、私立大生は薬剤師として就職する割合が高いため、定員構成も進路状況に合わせたものになると想定されるからです」とのことだ。


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