ベネッセ教育総合研究所
大学改革の行方 法科大学院で変わる進路指導
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Chapter3
新司法試験の行方と法曹の可能性


合格率は2割以下に?法科大学院設置ラッシュ
 法科大学院の今後を占う上で、欠かせないファクターになるのが、各法科大学院の司法試験合格率だろう。
 新司法試験の開始は06年。現行の司法試験の実施は2010年まであるため、その間5年間程度は新試験と現行試験が併存する形になる。法科大学院修了者は、修了後5年以内に3回まで受験が可能だが、新試験と現行試験の併願はできないことになっている(図3)。
図3
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 問題は司法試験の合格者数だ。司法制度改革審議会は、現在年間1200人程度いる司法試験合格者を2010年には年間3000人程度にしていくという構想を打ち出している。しかし、当初見込みを上回る法科大学院が設立されたため、合格率7〜8割という推計が早くも崩れつつある。05年度には新たに6大学(国立大・私立大各3校)が法科大学院の設置認可を申請しており、再受験組と合わせると2011年以降は合格率が1〜2割程度まで下がるとも言われている。
 「いくら7〜8割の合格率を目指すといっても、試験ですから合格者の確実な人数を推定するのは難しいでしょう。今後合格者数をどう増やしていくのかを決めるのは法務省の管轄ですが、当初の理念通りに法科大学院の教育が実践されていくよう、文部科学省としても注視していきたいと思っています」(文部科学省・長谷川氏)
 中央大・森教授も、「現在の法科大学院で行われている教育が新司法試験に反映されるよう働き掛けていきたい」と意気込みを語る。今回の司法制度改革の中で、法科大学院の存続と存在価値に関わる最大の関心事だけに、多くの関係諸機関がその動向を注視しているようだ。

司法試験不合格者の受け皿確保が問題
 また、試験内容など新司法試験の詳細が分からない点も、大学院の教育現場に不安感を植え付ける原因の一つになっている。教員としても学生に踏み込んだアドバイスがし辛いのが現状であり、当然学生の不安も大きい。
 中でも、法科大学院卒業後、3回の受験機会をもってしても合格できなかった学生にとっては、その後の進路設計がどうなるかというのは大きな問題である。
 「ストレートに学部を卒業した学生でも、法科大学院を修了し司法試験を5年間で3回受験したとすると、だいたい30歳くらい。そこから、法曹以外の分野に転身するにはかなりの努力が必要ではないでしょうか。そうした人たちの就業先をどのように確保するのかという点については、もっと踏み込んだ議論が必要だと思います」(一橋大・松本教授)
 司法試験に合格できなかった学生を、社会がどう評価するか、どの程度の社会的ニーズが出てくるかが問題というわけだ。だが、中央大・森教授は今後の法曹ニーズの拡大を見越し、次のように予想する。
 「近年、社会的要請を背景に、企業活動における法務部門の重要性は一層高まることが予想されます。現在でも保険の事後処理や公務員の一部など、法律に関わる仕事を法学部出身者以外の人が担当していることも少なくありません。あくまで予想にすぎませんが、こうした職種が、法科大学院卒業生の活躍の場になるのではないかと思っています」
 法科大学院のような法曹養成機関の設置は、日本で初めての例であり、社会の中でどのような役割を果たしていくのか、その行く末を断言することは難しい。法曹養成の新しいステージは、今まさに始まったばかりなのである。

どのような法曹を目指すのかを考えた進路選択が重要に
 では、法曹に対するニーズ、活躍できるフィールドは、今後どのように広がっていくのだろうか。そして、法曹を目指す者が持つべき心構えとは――。
 「これまでは、少数の法律家が小さいパイを分け合っても、十分生活できました。だからことさらにマーケットを開拓することもなかったわけです。しかし、国際化が進展し、文化や価値観が多様化する社会では、あらゆることが法的に処理されるリーガリゼーション(法制化)が進むのは必然の流れです。今後、日本でも法曹が社会に果たす役割は飛躍的に高くなるのは間違いありません。法律家の能力とやる気次第で、無限とも言えるほどのマーケットを広げることができるのです」(中央大・森教授)
 法曹の活躍の可能性が広がるということは、一面、どのような分野で活躍したいのか、自分自身で将来像を描かなければならないという「厳しさ」を合わせ持つ。単に「法律家になりたい」と願うのではなく、「どのような法律家になりたいのか」を考えて学部から法科大学院までの進路選択を行うことが重要になってくるだろう。
 必ずしも法律家になりたいから法学部に行くというだけではなく、例えば、知財訴訟に強い法律家になるために理工系の学部に進む、医療訴訟の分野で活躍したいから医療系学部を受験する、などの選択肢も十分に考えられる。法学未修者を受け入れる法科大学院の設置は、高校生の学部志望の選択肢をも広げることを意味するのだ。
 法曹を目指す人に、一橋大・松本教授は次のメッセージを送る。
 「我々も単に司法試験の合格を目指すというだけではなく、法曹になった後に伸びる人材を育てていきたいと思っています。ですから、法曹を目指す人には、司法試験に合格した後に、自分はどういう道を進むのかという点をしっかりと見据えてほしいですね。法律家に必要なのは柔軟かつ論理的に考えられる思考力と、社会を良くしたいと願う熱いハート。高校生の時から論理的な思考力を磨くと共に、常に社会に関心を持って自分の意見を持つよう心掛けてほしいと思います」
 初めての新司法試験の結果が出る06年度入試が、法科大学院にとって最初の試練となる。年内には試験科目の概要や新試験と現行試験との合格者比率も発表される見通しであり、司法制度改革の全貌が徐々に明らかとなっていく。また、5年以内に第3者評価機関の評価を受けることが義務化される。今後とも、法科大学院の行方について注視していく必要があるだろう。


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