ベネッセ教育総合研究所
VIEW'S REPORT 2004年度個別学力試験を読み解く
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専門で求められる力を見据えた出題・評価の在り方
 一方、今後の入試では、入学後の専攻分野を意識した出題・評価が一層本格化すると両教授は語る。
 「例えば、法学部からは、数学の入試に関し、『論理性と発想力』を測る出題をしてほしいという声が上がりました。法曹の現場では、一つとして同じケースにぶつかることはありません。固有の課題に対し、柔軟にかつ粘り強く交渉し、解決方法を見いだす力が求められることがその背景にあるようです」(森田教授)
 大学の学部・学科で求められる力を意識した数学の出題は既にいくつか見られると弊社進研模試編集部も指摘する(図9)。
図9
更に、こうした大学の思いは、要求学力にとどまらず、出題範囲・評価方針にも影響を及ぼしている。
 「06年度入試より、京都大では文系数学の問題に、数学Cを課すことを決定しました(図10)。通常、高校では理系を選択した生徒が履修する数学Cを文系でも出題することにしたのは、数学Cで扱われる行列、確率の基礎を理解しておくことが、社会科学系の学問では言わば『常識』として求められるためです」(西田教授)
図10
 採点の段階で学部ごとに配点率や評価基準を変えたりすることは現在でもそれほど珍しいことではない。実際、東北大では、同じ問題でも小問ごとの配点は学部特性を踏まえて設定されており、京都大でも、学部によって採点基準に差を設けているという。

今まで以上に「根本から考えさせる」授業を求める大学
 より深い思考力、表現力を問う問題の増加と、大学進学後に求められる力を見据えた出題・評価――。このような状況下で、大学が高校側に育成を期待している「数学力」とはどのようなものなのだろうか? 両教授共に指摘するのは、今まで以上に「根源から理解する」「思考し、表現する」能力を育ててほしいということだ。
 「大学に入ってから伸びるのは、物事を自分が分かるまで考える習慣を身に付けている学生です。全部の内容については無理でも、基本的な公式や定理のいくつかについて、公式や定理の導出を自分で理解できるまで考えさせる授業を取り入れていただければと思います」(森田教授)
 「しっかりと考えること、そして考えを表現する力を養う方法として、例えば、自分がその証明になぜたどり着いたかをクラスの友達に理解してもらえるよう、言葉できちんと説明させてみるなどといったやり方も有効ではないでしょうか」(西田教授)
 両教授のアドバイスを基に具体的な取り組みを考えてみると、図8のような問題を課し、定期考査で解答の過程を含めてきちんと言葉で表現できたかを重視した評価を行う、といったことが挙げられる。グループワークが得意な新課程生の特徴を生かし、グループで数学の問題の解答を考えさせるといった演習の工夫もあるだろう。
図8
 新課程入試で出題分野の変化に不安の声が大きい数学だが、大学側が求める根本的な力は従来の流れに沿った中にあることは間違いないようだ。


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