ベネッセ教育総合研究所
VIEW'S REPORT 2004年度個別学力試験を読み解く
西田吾郎

京都大大学院理学研究科教授
西田吾郎
Nishida Goro
1943年生まれ。
京都大大学院理学研究科博士課程修了。京都大助教授を経て現職。京都大評議員。

森田康夫

東北大大学院理学研究科教授
森田康夫
Morita Yasuo
1945年生まれ。
東京大大学院理学研究科博士課程修了。東京大助手、北海道大講師、東北大助教授等を経て現職。日本数学会理事長。

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数学
定理・公式の本質を理解する、
思考力、表現力が問われる


センター試験との機能の差を踏まえた出題が行われる
 個別学力試験の作問の際に各大学が考慮する点の一つが、「大学入試センター試験(以下センター試験)をどう位置付けるか」というテーマである。図7は、東北大理学部(前期)受験者について、同大の森田康夫教授がセンター試験の数学の成績と個別学力試験の成績との相関を調査した結果である。
図7
 「現行のセンター試験の数学は、出題を大半の人が解ける問題に限り、難易度を計算量の多寡で調整しているため、思考力ではなく計算力で試験の成績が決まる傾向が見られます。計算力ももちろん重要ですが、数学で培うべき力はそれだけではありません。マーク式という制約があるため、センター試験だけでは数学で求められる力の評価が不十分なことも事実です。現行のセンター試験では把握することが難しい数学の力を見るためのものとして、個別学力試験は非常に重要なものです」(森田教授)

思考力、表現力を重視した出題・評価
 では、大学側は個別学力試験で何を見ようとしているのだろうか。西田吾郎教授が所属する京都大の動向は、その方向性を占う上で示唆的である。
 「京都大では数年前から小問を廃止し、大問6問で出題する形式に改めました。学内でも議論がありましたが、『最後まで解き切り、自分の考えたことを数学の言葉できちんと表現できる』力を重視したかったのです。もちろん部分点は与えますが、基本的には最後までやり遂げた生徒を評価します」
 また、大問主義を採り入れた背景には、「受験生の答案作成能力の低下という問題もある」と、西田教授は続ける。
 「矢印ばかり使って、自分の考えた道筋を日本語できちんと示せない受験生や、小問を設けたら最初の小問だけで得点を稼ごうとする受験生が京都大でも増えてきました。大問主義を採り入れた背景には、『しっかりと思考の道筋を示せる答案を書いてほしい』というメッセージも込められています」
 このような思いは個々の大学の問題にも表れているようだ。04年度入試では、定理・公式の本質的な理解を求める問題(図8)が見られたが、この背景には、「浅く、広く」学習する習慣が付きがちな昨今の受験生に対するメッセージがあるようだ。
図8
 「近年気になっているのは、いわゆる『解法パターン』の習得を重視して学習してきたために、数学の根本に関わる部分を表層的にしか理解しない生徒が増えているということです。そのため、自分の知らないタイプの問題に当たるとすぐ諦めたり、いい加減な解答を書いてしまう受験生が非常に多いんです。公式・定理の本質を理解し、それを日本語で表現できる力を備えた学生を求める大学としては、こうしたタイプの出題を増やしていく方向になるのではないでしょうか」(森田教授)
 一方、こうした作問が増えている背景には、「新課程生の学力低下」を見越した大学側が、「入学時の学力」以上に、「入学後に伸びる可能性」を重視するようになりつつあることも指摘できよう。
 「高校がより少ない授業時間で、多くの内容を教えなければならなくなっている以上、今後は入試問題の難易度についても検討せざるを得ないと考えています。そうした状況で受験生の真の実力を測るには、知識量の多寡ではなく、根本的な思考力、問題解決力を問うことの方が重要だと考えています。高校では根本から物事を考える力を、細かな知識は大学のリメディアル教育で身に付ける、という流れが根付いていく中で、この傾向は一層加速するのではないでしょうか」(西田教授)


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