ベネッセ教育総合研究所
特集 学校組織の機能活性化
三橋浩志
日本総合研究所研究事業本部
主任研究員
三橋浩志
Mitsuhashi Hiroshi
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COLUMN  合意形成を促進するテクニック
 最近は「学校評価」が重視されており、評価・改善サイクル(PDCAサイクル)が全国の学校において導入されつつある。しかし、日本の学校では以下の2点において改善に対する課題を有しているのではないだろうか。
(1)教師が個人的に教育活動の改善に取り組み、組織としての改善活動につながらない場合がある(現状認識や課題認識といった意識、情報の共有がされにくい)。
(2)組織として改善の方針を立案しても、取り組みは個人の意欲(モチベーション)に左右されており、方針が徹底されず中途半端な改善になる場合がある(当事者意識が弱く、関係者間で合意が形成されにくい)。
 学校では民間企業のように「売り上げ」といった明確な短期での数値目標設定が困難であり、更に教職員の人事・評価制度が曖昧であることも重なり、システムとして、現場管理職による改善に向けた明確な指揮命令は機能しにくい面がある。
 現在、管理職から現場教員に至る合意形成プロセスを、意識的に改善しようと動いている学校もあるが、システムとして機能するにはもう少し時間が必要であるようだ。そこで、現在の日本の学校が抱える「教師集団の文化」を前提に、教育活動の改善サイクルを構築するのが重要である。
 日本の学校現場の組織的な課題を補いつつ教育活動の改善を図るには、教師間の意識の共有と、個々の教師における当事者意識の醸成が重要である。具体的な手法として、学年会や担任会、各種検討会等で以下のような手法を応用することが有効であることを、(周知の場合も含めて)改めて確認したい。
 ○ブレーン・ストーミング/ブレスト(brain storming)・・・メンバーが自由にアイディアを出し合い、互いの発想から更に連想して別のアイディアを生み出す思考法・発想法である。「ちょっとしたアイディアでも、他の出席者には別の素晴らしいアイディアをひらめかせるかも知れない」というスタンスが前提であり、提出されたアイディアに対する批判や判断、意見はブレスト中は行ってはいけない。最終的に出されたアイディアを整理・分析し、真に独創的なアイディアを抽出したり、問題点の洗い出しなどの作業を行っていくことが重要である。意思決定や調整には不適切であるが、「新しいものを生み出す」一体感を共有することに効果を発揮する。新機軸を打ち出すPJチームの立ち上げ期には有効ではないだろうか。
 ○KJ法・・・文化人類学者の川喜田二郎氏が考案した技法で、ブレストで出されるアイディアや意見を一つずつ小さなカードに書き込み、それらのカードを内容・意味の近いものからグループ化していき、構造化していく。カードに書いて各自の意見を発表するため、ブレストよりも「声の小さい人」の意見も平等に集約することが可能である。
 学校現場には元々、職員室で日常的に教職員が自由闊達に意見交換するなど、手法に頼らずとも教育の基本であるコミュニケーションを醸成・促進していく文化がある。そうした学校文化の強みを生かしながら、更にこのようなブレストやKJ法などの手法を学年会などの場で補完的に活用することは、意見共有や集約に成果を上げ、合意形成を促進させる有効な方法の一つになり得るのではないだろうか。


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