ベネッセ教育総合研究所
シラバスの活用 シラバス運用の新たな潮流
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2. 生徒と保護者の会話を促す工夫
 生徒の指導計画を通して学校と保護者をつなぐだけでなく、生徒と保護者の会話を促す工夫もなされている。その一つが「人生を今語り合う」と題されたエッセイだ(図3)
図3
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このエッセイに込められた思いを、寺田校長は次のように述べる。
 「近年、親と子の会話が少なくなっています。殊に人生や高校生活などの話題は非常に少ない。学校週5日制の影響もあって、我々教師自身もそういう話を生徒とじっくり話し合う時間も持ちにくいため、シラバスの中で私が常日頃『親子でこういうことを話し合ってほしい』と考えている話題を提供したのです」
 寺田校長が指摘するように、エッセイには人生観や道徳、精神修養など、近年、顧みられることの少ない話題が取り上げられている。もちろん、読者対象はあくまで「疲れて帰ってきた保護者」であるから堅苦しいところは全くない。大人としてできること、親として子どもに伝えられることが、さりげなく盛り込まれている。
 このエッセイの他にも、生徒と保護者の会話を促す仕掛けとして、各月の予定の横に設けられたコラムがある(図1B)
 このパートは、編集の段階で西田先生が各校務分掌にテーマを提示して執筆を依頼したもので、それぞれの分掌の立場から、学習や生活に関する簡単なアドバイスが書かれている。
 例えば、図書部からは読書の重要性が、保健部からは脳力アップのための食事の方法についての原稿が寄せられている。また「総合的な学習の時間」など、保護者の世代では分かり辛い取り組みの内容や狙いについても、総合学習のプロジェクトチームから説明がなされる。
 ところで、保護者用シラバスの随所にエッセイやコラムなどの読み物記事を挿入する手法自体は新しい試みと言えるが、読み進んでいくと内容自体は普遍的な話題が多いことに気付く。
 「改革の一環といっても、保護者用シラバスに書いてある内容自体は、保護者の方であれば当然、子どもたちに伝えてほしい普遍的な話題がほとんどです。『勉強は大切ですよ』『叱るべき時は叱ってあげてください』など、かつては当たり前だと思われていた事柄についても、今はあえて保護者の方にお願いしなくてはいけない時代になっていると思います」(松尾教頭)
 かつては「若い時に苦労をしておくものだ」という意識が強かったが、近年では、「子どもにはなるべく辛い思いをさせたくない」という気持ちが強すぎる保護者も中にはいるという。そうした風潮をできるだけ是正したいという思いも、同校の保護者用シラバスには込められているようだ。
 シラバスがあくまで普遍的な内容を主体としていることも同様の理由による。1年生の1年間が最も重要であるとの考えの下、保護者用シラバスは1年生用に限定。生徒・保護者共に高校生活へのビジョンを組み立てていかなくてはならないこの時期に「当たり前のこと」を適切に訴えているのである。


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