ベネッセ教育総合研究所
特集 高大連携の未来形
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2 自己効力感を育成する指導が鍵
 図3で自己効力の実感レベルの高いL6に分類された学生は、「自分の学習行動やその結果として得られた成果をモニタリングできる」状態にあると言える。先に触れた自己概念との関連から見ると、客観的に自分をポジティブに評価できることが大きな意味を持ってくる。高大が協力して行う今後の人材育成においては、生徒・学生が自分の学習行動をモニタリングできるような機会を、どれだけ教育活動の中に取り入れることができるかがポイントになる。
  「自分の学習行動をモニタリングできる教育活動」と言うとイメージしにくいかも知れないが、実践のヒントは学校現場で既に行われている取り組みの中にある。例えば、日々の学習の記録などはその典型である。生徒は記録を記入することを通じて、自己の行動を客観的にモニタリングできる。更に、そこに教師がコメントを付けて返却すれば、他者の目を通じたモニタリングの機会が再び得られることになる。また、授業中に行われる発問と応答、教科書の輪読、簡単なディスカッションや発表とそれに伴う他者評価などは、自分の学習行動をモニタリングする方法を学ぶ重要な機会となろう。総合学習などの特定の時間枠にこだわることなく、日々の授業に少しずつ、こうした「共に学び合う」要素と共に、他者からの評価で自信を獲得する仕掛けを意図的に取り入れていくことによって自律的な学習行動が育ってくるだろう。
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 以上、生徒・学生を学びに向かわせ、課題探求力を育成するためには、「自己効力」を実感させる仕掛けが重要であることを見た。
  これまでの考察を基にすると、「高大で自己効力を連続して高めるための指導ノウハウの共有」は、今後の高大連携で本質的な議論を深めていくための重要なテーマになり得るのではないだろうか。
  例えば、高大双方の「キャリア教育」のノウハウを連携の場で共有するのである。「キャリア教育」は、「自問自答型の学習」()としての側面が強く、それゆえ自己効力を実感しやすいので指導ノウハウを高大間で共有するテーマとして適しているだろう。

)「自問自答型の学習」とは、自ら問いを立て、それに自ら答える学びのこと。「仮説検証型の学習」とも言える。これに対して、「習得型の学習」とは、教師が伝達する知識を生徒が摂取する学びのこと。
  また、生徒・学生の進路観・学習観の成熟度によって、指導手法や成果が様々である点を高大間で共有していくことも重要である。大学側は、自校学生の進路意識だけにとどまらず、高校における生徒の「学習履歴と指導履歴の実態」を積極的に把握する必要がある。同時に、高大が効果的に連携していくため、「学習履歴と指導履歴の実態」を率直に情報交換していくための場が求められる。
  「自己効力を連続して高めるための指導ノウハウの共有」「学習履歴と指導履歴の実態の把握」―。
  こうした連携の先に、高大が一貫して「生徒・学生の自己効力の向上」を図る教育プログラムが明確になってくるはずである。「教育の連続性」を踏まえ、生徒・学生が学びに向かうための方法論が共有されたとき、新たな教育の可能性が見えてくる。
▼図5 ICUの授業風景
図5
▲弊社が実施した「大学満足調査」で総合ランク1位となった国際基督教大(ICU) では、タブレット付きの移動式の机が導入されており、授業の際には教員と生徒が適度な距離で向き合うことができる。 また、教室の中央部には、教員が立ち回れる「花道」を設けることもある。教員はその「花道」を歩き回りながら、 学生との質疑応答を軸に授業を進めていく。更に、前回の授業についてのコメントシート(感想)にも目を通した上で、学生一人ひとりに声を掛け「○○君は前回の授業についてコメントシートでこういう感想を述べていたけど、 なかなか良い着眼点だった」などと、教授、学生間の人間関係をその都度構築していく。ここでもやはり「関わり合い」が、意欲の触発に大きな成果を上げているのだ。人は人と人との関係の中で成長していく。カリキュラムの構築やシラバスといった ことだけでなく、生徒・学生を「授業にコミットさせる工夫」が不可欠である。


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