「データで考える子どもの世界」
学習基本調査・国際6都市調査報告書
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  ワシントンDC の子どもたちの学校生活

小泉 和(ジョージ・メイソン大学准教授)

 【はじめに】


 アメリカ都市部の小学校と一言でいっても、中心部の学校か郊外の学校かによって、授業内容、レベル、人種構成などさまざまな面で大きな違いがある。公立の小学校に限っていうと、都市部の学校は、一般的に人種構成が多様で、「割引・無料(Reduced/Free)ランチプログラム」と称される子どもの昼食代補助を受ける低所得家庭の割合が多く、州内統一学力テストの結果が比較的低い学校が多い。今回のワシントンDC・メトロ地区※1の取材では、学習基本調査に参加した学校の中から、都市中心部に存在する1校、ワシントンDC郊外に存在する2校の3校を訪問した。調査に参加した小学校の大半がワシントンDC郊外、ヴァージニア州プリンスウィリアム郡学校区の小学校であるので、このレポートでは主に後者2校の訪問について報告する。ちなみに、「割引・無料ランチプログラム」を受ける児童の比率は、ヴァージニア州の2校では20〜35%、DC中心部の1校では70%であった。

 【子どもの1日】

スクールバスで登校 郊外の学校に通う大半の子どもたちは、午前9時15分に始まる1時限にあわせて、スクールバスで登校する。アメリカで初等教育を受けていない筆者にとっても、朝、学校の前に長く連なる黄色いバスは、「アメリカの小学校」を代表する印象的な光景である(写真1参照)。ただ、全児童がスクールバスで登校するわけではなく、中には親の意向や、スクールバスに乗り遅れたなどの理由で、自家用車で登校する子どもたちもいる。いずれにせよ、子どものみが、個別または集団で登校する様子はアメリカではみられない。都市中心部に存在する学校の中には、スクールバスを手配しないものもあるが、その場合は、必ずおとな同伴で、徒歩、またはバス、地下鉄などの公共交通手段を使っての登校となる。一般に、スクールバスは学校が契約するバス会社によって運営されている。ところで、このスクールバスは、典型的な「いじめの場」ともなるようで、バスの中での席順は、子どもたちの間では結構重大な問題であるらしい。
  訪問したワシントンDC郊外の2校では、5年生の午前の授業時間は9時15分から10時45分までで、そのあと昼休み、および昼食時間が11時30分まで続く。時間割は、科目によって長さが異なるのが特徴的である。昼食は、持参かカフェテリアで用意された選択肢の中から選んだ昼食を全員が校舎内のカフェテリアでとるため、学年によって時間をずらしてとる。持参の場合は、典型的な主食がサンドイッチ、ポテトチップスなどのスナック、ジュースパック、りんご(丸ごと)やアップルソースなどのフルーツ、そしてクッキーなどのデザートで構成されている。カフェテリアのメニューは、USDA(米農務省)が定めるガイドラインに基づいて各州区一律に用意されたもので、ハンバーガー、タコス、ピザ、フレンチフライ、フルーツ、野菜、サラダ、ジュース、ミルク、クッキー、パイなどから、主/副食、飲み物、およびデザートをそれぞれ選べるように構成されている(写真2参照)。昼休みには子どもたちは運動場で、バスケットボール、縄跳び、鉄棒、その他の運動器具で遊んでいた。午後の授業は3時50分までで、両校とも時間割の最後には、コアエクステンション(Core Extension)のクラスを50分設けていた。コアエクステンションとは、学年ごとに週替わりで科目を決めて行う補習クラスである。その後、子どもたちは、スクールバスで下校するか、放課後プログラムに参加する。放課後プログラムに参加する子どもの多くは、両親が働く家庭の子どもたちで、グループに分かれて宿題や、部活動としてスポーツなどを行う。

※ 1 ワシントンDC近辺で、地下鉄(メトロ)が通る地域。ワシントンDCのほか、ヴァージニア州、メリーランド州の一部を含む。
カフェテリアランチ持参ランチ
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