第2回子ども生活実態基本調査報告書
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家庭教育への示唆

 ところで、今まで述べてきた結果が家庭教育の実践においてより重要な示唆を含んでいると思われるのは、親子の会話と子どもの学習の関係が、保護者の学歴を問わずに表れる点である。詳細については煩瑣になるので省略するが、子どもの成績を従属変数にして成績に影響を及ぼす要因についての重回帰分析を行ったところ、親子の会話量は保護者の学歴と同等かそれ以上に成績を規定していた。
 もちろん、さまざまな要因をコントロールしても学歴の影響は残っていて、高い学歴を有する保護者のほうが有利である点は間違いない。これは、同じ会話の量であっても学習にかかわる内容が多くなるためだろう。しかし、保護者の学歴を統制しても親子の会話量の効果は強く残った。「当たり前」と思われるかもしれないが、子どもとの関係の築き方によっては保護者自身のバックグラウンドを乗り越えられるということであり、家庭教育に与えるインプリケーションは大きいと考えられる。

親子関係が学習行動に与える影響

 とはいえ、単純に会話の頻度が高ければそれでよいのか、という疑問がわく。そこで、親子関係のあり方がどのように学習に影響しているのかを確認してみることにした。
 親子関係についてたずねた質問は、「勉強を教えてくれる」「いいことをしたときにほめてくれる」「悪いことをしたときにしかってくれる」「困ったときに相談にのってくれる」「あなたのことを大人として扱ってくれる」の肯定的な5項目と、「いつも『勉強しなさい』と言う」「何でもすぐ口出しをする」「約束したことを守ってくれない」「考えをおしつける」「お父さんとお母さんの意見が違って困る」の否定的な5項目である。それぞれの項目に対して選択をした子と選択しなかった子で、学習時間がどう異なるのかを検討した。その一例として、典型的な傾向を示す項目の結果を図4-3に示そう。
 ①は、「困ったときに相談にのってくれる」を選択した子(「はい」と表示)と選択しなかった子(「いいえ」と表示)に分けて、家庭での学習時間と塾での学習時間を示したものである。このように肯定的な親子関係の項目では、学校段階を問わず「はい」の子どもが家庭での学習時間が長い。その一方で、塾での学習時間は「いいえ」の子のほうが長いか、「はい」と「いいえ」で大きな差がみられないかのいずれかであった。肯定的な親子関係が家庭での学習を促進する可能性をうかがわせる。
 これに対して②は、「何でもすぐ口出しをする」を選択した子(「はい」と表示)と選択しなかった子(「いいえ」と表示)に分けて、同様に学習時間を算出した。この図からは、小学生では「はい」のほうが、高校生では「いいえ」のほうが家庭での学習時間が長いことがわかる。口出しが多いことは、子どもが小学生のうちは家庭での学習を促すが、高校生になると必ずしもそうではない。さらに、「はい」の子どもは学年を問わず、塾での学習時間が長い傾向がある。ここに示したように、否定的な親子関係は、家庭学習にはプラスの効果がなかったり、子どもの成長段階によってはマイナスに作用したりすることがあるようだ。
■図4-3 1週間の学習時間(学校段階別・親子関係別)
図4-3 1週間の学習時間(学校段階別・親子関係別)

家庭での学習を促す親子関係とは

 以上、親子関係のあり方と学習行動(ここでは家庭での学習時間と塾での学習時間)について述べてきた。最後に、家庭での学習を促す親子関係について、今回の分析から得られた知見をまとめておこう。
 第1に、会話量の多さに示されるように、親子間のコミュニケーションが密なほど家庭学習の時間が長い。親密な親子関係は、子どもの学習にプラスに作用する。第2に、ベースとなるやりとりは肯定的なものが望ましい。肯定的な親子関係についての項目では、それを選択した子の家庭学習時間が一貫して長かった。第3に、否定的な親子関係についての項目(とくに過保護や過干渉を示す項目)では、学習時間の表れ方が学校段階で異なっていた。親密であることがよいといっても、関係性のあり方には注意しなければならない。密着した関係は、子どもが小さいうちは有効でも、子どもが成長した後は効果がない可能性がある。家庭で学習できる力を育てるには、発達によっても関係性を変化させる必要があるといえそうだ。
 近年、子どもに対する親や教師の関与が高まり、子どもが自律的に学習する力が弱まっているのではないかということが危惧されている(木村2009)。家庭での学習は、そのままイコールで自律的な学習とはいえないかもしれないが、少なくとも学校や塾のように場の拘束を受けず、自分で学習をコントロールすることが求められる。そうした自律的な学習能力を育てるために、家庭での学習をどう設計し、周囲の大人がどうかかわるべきか。今、そのことを真剣に考える必要があると考える。

 

 

 

【参考文献】
浜野隆 2009 「家庭での環境・生活と子どもの学力」『教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書』64-75頁、ベネッセ教育研究開発センター。
木村治生 2009 「学校でなければできない学びとは」『教育研究』第64巻3号、18-21頁、社団法人初等教育研究会。
耳塚寛明 2007 「小学校学力格差に挑む だれが学力を獲得するのか」『教育社会学研究』第80集、23-39頁、東洋館出版社。

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