シリーズ 未来の学校

秋田県発、 リベラルアーツ教育がグローバル人材を輩出する

【後編】 ワールドクラスのリベラルアーツカレッジを目指して [7/7]

 時代を背負える人材輩出のために

2014年9月、AIUは文部科学省のスーパーグローバル大学創成支援(グローバル化牽引型)に採択された。この事業は、日本の高等教育を世界に通用させ、国際競争力を高めることを目的としている。本学の構想名は、「日本発ワールドクラスリベラルアーツカレッジ構想」だ。

この10年後にワールドクラスのリベラルアーツカレッジになるため構想についても、鈴木学長に聞いた。

テーマ別ハウス

「キャンパス内に『メディアハウス』や『日本文化ハウス』、『ディプロマットハウス』など、プロジェクトごとに寮を立ち上げ、18名が一棟で共同生活をします。『メディアハウス』はマスコミで働きたい人など、そのテーマに興味がある学生が住みます。学校内外の講師陣による講義や留学生と協同し、学期末には発表会を行います」

現在、全学生の90%が大学の敷地内に住んでおり、留学生も混じっている特性をさらに活かそうという狙いがある。

世界標準カリキュラム

「本学の学生はおおむね3年次に留学します。4年生になって帰ってきたときに、スムースに戻れるようにしなければなりません。つまり、カリキュラムを世界標準で互換可能なものにする必要があるのです」

このため、日本研究科目の拡大やMOOCsと反転授業の導入、海外のトップスクールと協同で科目提供を行うプログラムを実施する予定だ。

国際ベンチマーキング

「本学のリベラルアーツ教育のレベルを検証するために、米国の優れたリベラルアーツ大学との間で教育課程、教育方法、学生支援等について相互に分析・評価するものです」

これにより、将来的なカリキュラム改革や教育方法の改革に役立てることも可能だ。

イングリッシュビレッジ、ティーチャーズセミナー

「前者は本学の学生が、全国の小中高校生に『英語で英語を学ぶ』プログラムを提供するもの、後者は本学の教員が、小中学校の先生に『英語で英語を教える』ための講義と実習プログラムを提供するものです。その結果、本学がワールドクラスのリベラルアーツカレッジに脱皮しているというのが、これからの10年構想です」

最後に鈴木氏から中高生たちへのメッセージをもらった。

「これから先は、世界中で活躍する場が、今よりもずっと多くなります。そのためには、『個』というものをしっかり確立して、鍛錬していく必要があります。大学を選ぶ際、偏差値で決めるのではなく、これからの時代を背負っていける人間になるためにはどういう教育を受ければよいかということを考えてもらいたいですね」

■ 編集後記 ■

2014年12月22日、中央教育審議会から大学の入試制度改革に関する答申が出された。「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」と題される答申だ。内容を見ると、従来のような年に1回だけの得点を競い合う大学入試から、自立的に学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力なども多面的に評価する入試へと大きく転換しようとしていることが分かる。

この転換は、日本社会における大学の役割や存在意義が再定義される程の改革なので、幼小中高での教育へも大きな影響があるだろう。育みたい人材像も時代と共に変わるからだ。明治維新後の殖産興業や戦後の高度経済成長期に求められたのは、一定の枠組みの中で均質な商品サービスを正確かつ大量に生産できる人材であった。これからは多様な価値観の中で他者と協調し、前提条件さえ変化し続ける課題を解決できる人材、そして新たな価値を生み出せる人材が世界を支えていく。まさに、鈴木学長が言われる「雑木林型」教育で学んだ人材が求められる時代が到来したのだ。

古代ギリシャから数千年の時を越えて、秋田の地に渡ったリベラルアーツ。AIUは今、混沌とした世界の中でも力強く生きていける人間が学び、飛び立っていく「知のコロセウム」になろうとしている。

石坂貴明
ベネッセ教育総合研究所 ウェブサイト・BERD編集長  石坂 貴明

デベロッパーにおいて主に北米でリッツカールトンやフォーシーズンズとのホテル開発に従事。ベネッセコーポレーション移籍後は新規事業に多く関わる。ベネッセ初のIRT(項目応答理論)を使った語学検定試験である中国語コミュニケーション能力検定(TECC)開発責任者、社会人向け通信教育事業責任者等を経て、2008年から(財)地域活性化センターへ出向し移住・交流推進機構(JOIN)事務局および総務省「地域おこし協力隊」制度の立ち上げに参画。2013年より現職。グローバル人材のローカルな活躍、学びのデザインに関心。

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