次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第97回 幼児期に子どものやりたい気持ちや考える行動を支える親の関わりについての考察

2016年03月17日 掲載
研究員 田村 徳子

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子育て 幼児教育 保育 母親 幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査 社会情動的スキル

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子どもとのやりとりで、親としての引き出しを増やしたい

 先日、保育園に2歳の子どもを迎えにいくと、子どもが私を見つけたとたんに息せき切って話してきた。「ママあのね、カエルね、たまごなの。じん君(年上の友だち)がね、カエルのね、あーってね…。」 私は内心、ちんぷんかんぷんである。とりあえず聞き取れた言葉をもとに、「カエルの卵なんだ。じん君がカエルの卵を見つけたのかな?」と聞き返した。すると、子どもは、さらに一生懸命に「うん。カエルのたまご。じん君がカエルのたまごね、あーっと。」と話す。私は「そうか、よかったね。すごいね。もうそんな季節なんだね。」と会話を区切った。園の先生の話では、池に散歩に行き、そこでじん君がカエルの卵を見つけたので、木の枝ですくい、園で水槽に入れてみんなで飼育しているとのことだった。子どもにとってカエルの卵は初めて見たもので、それも今まで見たこともないようなものだった。また、それを池の中で見つけたじん君は、子どもにとってヒーローだったようだ。この自然界に対しての新鮮な驚きや、友だちへのきらきらするような感嘆の感情は、私にとって久しぶりのものだった。

 私は、子どもの外界との接し方や気持ちの動き方に触れ、ちんぷんかんぷんながら解読して応答していく中で、自分自身の外界との接し方や気持ちの動かし方に影響を受けていると感じる。もちろん、子どもの機嫌が悪かったり、私に余裕が なかったりして、帰りの電車の乗り継ぎホームで二人で座り込み、途方に暮れるしかないこともある。しかし、子どもと園の先生のやりとりにヒントをもらいながら、子どもとのやりとりを工夫した結果、子どもの関心が広がったり、さらに集中して物事をみたり、友だちと関わったりしているのをみると、「ああよかったな」と、自分が子どもの成長にベターな方向で関われたのではないかと考えるようになった。それとともに、子どもは大人に比べて目覚ましく育っていき、その都度、親は子どもにひっぱられるように対応していくが、どのように関わったらいいのかを知ることができたら、子どもとのやりとりで工夫の引き出しが増えることになるのではないか。

引き出し1:幼児期に子どもはどのように育つのかを知る

 幼児期に親は子どもとどう関わると、その後の子どもの成長に良い影響を与えるのか。そうした課題を解決するために、ベネッセ教育総合研究所では、幼児期に必要な学習準備とは何かをテーマに、2012年から2015年にかけて「幼児期から小学1年生の家庭教育調査・縦断調査」を実施した。まず、2012年に年少児を育てている母親を対象に子どもの様子や親の関わりについて調査し、その後、毎年1回、同じ子どもについて調査を積み重ねた。(図1)

図1

図1

 同一の子どもについての調査のため、年少児から小1までの変化がわかることと、幼児期の成長の因果関係がわかることが特徴である。幼児期に必要な学習準備を考えるにあたって、研究会を立ち上げ、「小学校の学習生活にスムーズに適応するのに必要な力」や「幼児期に育てたい生涯にわたる必要な力」は何かを検討した。そして、子どもの育ちについて約50項目を聞き、それを因子分析した結果、図2のようにまとまった。大きくは3つの軸《生活習慣》、《学びに向かう力》、《文字・数・思考》に分かれる。さらに、《学びに向かう力》の中に『好奇心』・『自己主張』・『協調性』・『自己抑制』・『がんばる力』の5つの内容を含み、《文字・数・思考》の中に『文字』・『数』・『言葉』・『分類する力』の4つの内容を含む。各内容は複数の調査項目から成り立っている。(図2)

図2

図2

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 最初のエピソードでいえば、子どものカエルの卵への新鮮な驚きは『好奇心』の芽のようなものであり、友だちへの感嘆は『協調性』の芽のようなものであろう。また、もう少し大きい年齢だったら、カエルの卵がオタマジャクシになり、カエルになるのを、相手に伝わるように説明した場合、それは『言葉』の力にあたるだろう。

 では、幼児期の力は、それぞれが個々に育っていくのか。それとも互いが影響しあって育つのか。そのプロセスをパス解析で分析し、前の学年が次の学年の育ちに影響のあるものを抽出したのが、図3である。太い線は標準化係数が0.4以上、細い線は、0.1以上0.4未満となっている。(図3)

図3

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 図3をみると、まず《生活習慣》は《生活習慣》の成長に、《学びに向かう力》は《学びに向かう力》の成長に、《文字・数・思考》は《文字・数・思考》の成長につながっていることがわかる。
 次に、年少児期から年中児期をみると、年少児期までの《生活習慣》は年中児期の《学びに向かう力》の成長につながっていく。年中児期の《学びに向かう力》の『協調性』は年長児期の《文字・数・思考》の『言葉』の成長につながっていく。そして年長児期の『言葉』は、小1期の《学びに向かう力》につながっていた。ここで『言葉』とは、「自分の言葉で順序を立てて、相手にわかるように話せる」などを指す。また、年長児期の《生活習慣》、『がんばる力』などの《学びに向かう力》、『言葉』などの《文字・数・思考》が小1の学習態度につながっていることもわかった。つまり、スタートアップとして、《生活習慣》がひとつ目の要点であり、次に『協調性』などの自分と他人の関わりから自分を調整していく姿勢、そして、相手と考えや気持ちを交わせるための『言葉』の育ちという順序性がみられた。

 以前より、幼児期は生活習慣や協調性、自己抑制、言葉の力などをバランスよく育てることが大切と言われてきたが、なぜ生活習慣が大切なのか、協調性や自己抑制はどのような意味で大切なのか、文字や数は早くから習うほうがよいのかなど、よく考えるとわからないことが多い。今回、このような順序性がみられたことで、子どもが育つ環境として、まず生活習慣を整えよう、次に他者と関われる環境を作ろう、そして、周りの人とお話しして、それが喜びにつながるようにしようということがわかったのである。

引き出し2:幼児期に親の関わりの要点を知る

 もうひとつ、親の関わりについて、気になることがある。私たちは秋に、今回の調査で協力してくださっている親子の中の8組に面接調査を行った。(この時点では、すでに小2となっている。)内容は、平日や休日の1日をどのように過ごしいているか、子どもの生活や学習、友だち関係などで気がかりなことはあるか、その時に親としてどのように関わっているかなどである。この面接調査から浮かび上がったのが、“親がやり過ぎてしまうケース"である。ある親子の場合、生活時間が分単位で非常に細かく決まっており、親は子どもの日記も細かく見て書き直させていた。親は「やり過ぎだとわかっているが、子どもがきちんと成長しているか心配でついつい手を出してしまう」と話してくれた。私は親の話を聞いて、そういうこともあるだろうなぁと思った。子育ての中で、子どもの日々の行いで、親として何に注目し、大切にしてあげればいいのかわからないときがある。日々、流れていく中で、「そう、君のそれが素敵!」と要点を押さえて言えたら、子どもが自ら育つ力を見守って必要に応じて支えることができたら、子どもの成育環境としてどんなにいいことだろう。そんなヒントがほしいと考えた。

 調査に戻って、親の「子どもの意欲を尊重する態度」「子どもの思考を促す関わり」、「学びの環境を整える関わり」を3群に分け、年中児期の『協調性』得点(図4)、年長児期の『言葉』得点(図5)をみた。子どもの意欲を尊重する態度とは「子どもがやりたいことを尊重し、支援している」などの項目から成り立つ。「子どもの思考を促す関わりとは「子どもの質問に対して、自分で考えられるようにうながしている」などの項目、「学びの環境を整える関わり」とは「ワークブックを子どもにやらせている」などの項目から成り立つ。
 図4をみると、年中児期では、親の「子どもの意欲を尊重する態度」と「子どもの思考を促す関わり」が高いほど、子どもの「協調性」が高い傾向がみられた。また、図5をみると、年長児期では、親の「子どもの意欲を尊重する態度」と「子どもの思考を促す関わり」が高いほど、子どもの「言葉」が高い傾向がみられた。また「学びの環境を整える関わり」も中群と低群でやや差がみられた。これらの調査結果から、幼児期に親の子どもへの関わりは、子どものやりたい気持ちを大切にし、子どもが自分で考えられるようにすることが子どもの成長を支え、幼児期の後半に学ぶ環境を整えるのがよいと思われる。

図4

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図5

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 *有意差がみられた。

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 一方、日頃の自分の子育てと照らし合わせて考えると、子どもの様子をよく見ていないと、子どもがやりたいと思っていることやどうも考えているようだというサインを見逃してしまう。子どもが自分の言葉で伝えてくれたとしても、言い方が拙く汲み取れないこともある。面接調査で見られたように、子どもがきちんと成長しているかと心配する場合、“親がやり過ぎてしまうケース"につながるように思われる。これらの調査結果を合わせて考えると、幼児期において、子ども自身がやりたい気持ちや思考をめぐらす行動を大切にして支えるのは大切だが、親の考えるペースと通りにはいかないことがわかる。子どものペースに合わせるというのは、子どもが外界とどのように接しているかの状況を知り、どんな考えや気持ちを抱いているかをフォローするのに基本的な態度と言えるのではないか。忙しく過ぎる1日の中で、どこかにそのような時間を意識して設けたい。

最後に:子どもが外界とどう接し、どんな考えや気持ちを抱いているかを知る時間として

 今回、幼児期の親子のやりとりを深めるために、調査から見えてきたことを書いてきた。

    • 1.子どもが育つ環境として、順序性がみられた。
      まず子どもの生活習慣を整えよう、次に他者と関われる環境を作ろう、そして、他者と関わり、話してそれが子どもの喜びにつながるようにしよう。

  • 2.親が子どものやりたい気持ちを大切にし、子どもが自分で考えられるようにすることが子どもの成長を支えるとわかった。
    そのためには、親が1日の中で、子どものやりたい気持ちや子どものペースに合わせて、子どもが外界とどのように接し、どのような考えや気持ちを抱いているかをフォローする時間を設けよう。読み聞かせ、動物の飼育や植物の世話や空などの天体の観察、積み木や工作など、子どもが自分のペースで取り組めるものが適していると思われる。そして、親も子どもと同じ目線にたって、一緒に驚き、感嘆し、考えてみようとすることで、子どものペースに近づく。

 私自身、調査研究活動と実際の子育ての間をつないでいる最中である。今後、さらに調査研究活動を進め、子どもが育つ中で新たに出てくる課題との間を埋めながら、疑問と解決への工夫を繰り返していきたい。

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著者プロフィール

田村 徳子
たむら さとこ

(株)ベネッセコーポレーションの小学講座教材編集などを経て、2008年度より現職。
妊娠・出産期から乳幼児をもつ家族を対象とした意識や実態の調査・研究を担当。
これまで担当した主な調査は、「妊娠出産子育て基本調査」(2008年~2010年)、「幼児期の家庭教育調査」(2011年~2013年)「乳幼児のメディア視聴に関する調査研究」(2011年~2013年)など。
新しく若い生命の存在が、家族や社会など周囲とどのようにかかわりを持ち、互いに影響を与えて次世代を担っていくのかを探り、知見を広く還元したいと思っている。

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