あスコラ Vol.11
『探究者が語る!これからの教育に求められる「探究」の本質』

あスコラVol.11『探究者が語る!これからの教育に求められる「探究」の本質』

「あスコラ」とは

 さまざまな領域の専門家が一堂に会し、熱い議論を繰り広げる
“一期一会の小さな学校”、あスコラ。
それぞれの知見や経験、思いを語り合い、納得したり、刺激を受けたり、新しい発想が浮かんだり――。
教育に本気で向き合う大人の議論によって生まれる学びの場の様子をお届けします。

登壇者(五十音順)

  • 桜井一宏氏

    常識に囚われない発想と、不撓不屈の精神により生み出された日本酒「獺祭(だっさい)」の蔵元、旭酒造株式会社の四代目代表取締役社長。

  • 宝槻泰伸氏

    探究学習を柱とした学びを提供する「探究学舎」の代表。

  • 岡田佐織氏

    「学生の学びと成長のプロセス」を可視化する研究に取り組む、ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室研究員。

コメンテーター

  • 林信行氏

    最新テクノロジーが暮らしにもたらす変化を伝えるITジャーナリスト(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)

「探究」づくしの高校新科目、大学生学習実態の衝撃

石坂 ようこそ、「あスコラ」へ。

ベネッセ教育総合研究所 編集長
ベネッセ教育総合研究所 石坂編集長

 今回は「探究(学習)」について考えます。まずは、2022年から新学習指導要領が導入される高等学校で、新たに設置される科目をご覧ください。今、新科目の候補として挙がっているものの一部(仮称)が下記です。

  • 「古典探究」
  • 「日本史探究」
  • 「世界史探究」
  • 「地理探究」
  • 「理数探究」
  • 「理数探究基礎」
  • 「総合的な探究の時間」

 一目で「探究」という言葉が多いことがわかり、 高校生になったら「探究せよ=深く考えよ」というメッセージが伝わってきます。

 そこで今回の「あスコラ」は、「なぜ今探究が求められるのか」「そもそも探究とは何なのか」を考えてみたいと思います。ゲストには、まさに探究の末に「獺祭」という新たな日本酒ブランドを確立した旭酒造株式会社代表取締役社長の桜井一宏さん、小学生から高校生向けに探究学習を柱とした学びを提供している探究学舎代表の宝槻泰伸さんをお迎えしました。

 将来的に高等学校の新課程に導入されようとしている「探究」ですが、大学では先んじて「アクティブ・ラーニング」の名の下、学生の主体性を促すような学びが文部科学省により推奨され、普及しつつあります。まずはこうした大学教育の実態について、岡田研究員に紹介してもらいたいと思います。

ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室 岡田研究員
ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室
岡田研究員

岡田 ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室の岡田佐織と申します。私は、「ハイパフォーマー(高い成果を上げる優秀な人材)の特徴」や「大学における学びの質を高めるために必要な要素」に着目して、研究を行っています。

 大学では、いわゆる「アクティブ・ラーニング」、つまり座学だけではなくディスカッションやフィールドワークなどを積極的に組み入れた形式の授業が、ここ8年ほどで非常に増えてきています。

大学生の学びの機会

大学生の学びの機会

「第3回大学生の学習・生活実態調査報告書」(ベネッセ教育総合研究所 2016年)より一部抜粋し、「あスコラ」事務局で編集

調査概要

  1. 調査テーマ:大学生の学習・生活に関する意識・実態をとらえる
  2. 調査方法:インターネット調査
  3. 調査時期:2016年11~12月
  4. 調査対象:大学1~4年生(18~24歳、日本在住)
  5. 調査項目:高校での学習/大学選択で重視した点/入学時の期待/大学生活で力を入れたこと/大学生活の過ごし方/履修科目数/評価/教職員との交流/保護者との関係/友だち関係/大学教育観/学びの機会/学びに対する姿勢・態度/大学生活で身についたこと/海外留学の意向/進路意識/建学の精神やポリシーの認知/大学生活の満足度/学びの充実/成長実感/社会観・就労観/投票行動 など

 その目的の1つは、学生の興味をかきたて、自発的に学び、活動してもらうところにありました。しかし、2016年に調査を実施した「第3回大学生の学習・生活実態調査報告書」にあるとおり、予復習や自主的な学習に費やされる時間は経年でみるとさほど変化していないことがわかったのです

大学生の1週間あたりの学習・生活時間

大学生の1週間あたりの学習・生活時間

「第3回大学生の学習・生活実態調査報告書」(ベネッセ教育総合研究所 2016年)より一部抜粋し、「あスコラ」事務局で編集

 さらに衝撃的なのは、主体性を促そうとする大学側の動きと、学生の実態が乖離しているようにもみえる下記の調査結果です。自発性を重視する教育を提供しようと試行錯誤している大学に対し、「あまり興味がなくても、単位を楽にとれる授業がよい」「学生生活については、大学の教員が指導・支援するほうがよい」と考える人の割合が増えるなど、学生はどんどん受け身になっているように感じられます。

大学教育観

大学教育観

「第3回大学生の学習・生活実態調査報告書」(ベネッセ教育総合研究所 2016年)より一部抜粋し、「あスコラ」事務局で編集

 教育を通じた能力獲得や成長を促すため、大学側は教育手法や学修環境を変える努力をしているのですが、それが必ずしも質の高い学びにつながっていないというのが今の課題です。この課題を乗り越えるためには、教職員が教育手法や学修環境を変えるだけではなく、学生自身のレディネス(能力獲得や成長のための土台)を育てることにも目を向ける必要があると感じていて、そのような取り組みを実施している大学と共同研究を行っているところです。

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充実した人生への第一歩となる「探究」

「探究学舎」代表 宝槻氏
「探究学舎」代表 宝槻氏

宝槻 東京都三鷹市で「探究学舎」を運営している宝槻です。探究学舎は小学生から高校生を対象とした学習塾ですが、成績アップや志望校合格ではなく、子どもたちの探究心に火をつけることに力を注いでいます。開塾して7年、「探究」は「勉強」に取って代わる新たなキーワードになる可能性を秘めていると感じながら、日々子どもたちと向き合っています。

 岡田さんから紹介のあった大学教育の現状について、レディネスはもちろん大切ですが、教育手法や学修環境を変えるためにできることはもっとあるのではないか、と個人的には感じています。ディスカッションやフィールドワークといった手法は、一見すると自発的に学ぶ機会を提供していますが、それらの手法を形式的に取り入れただけで学生が自発的になるわけではありません。学生だけでなく、教職員も「大学生活を通じて成長してほしい」と本気で考えながら、向き合うことが大切なのではないでしょうか。私自身、「魂が震えるような出会いをしてほしい」と強く思いながら、日々子どもたちと接しています。

 「探究学舎」の運営にあたっては、教える側(講師)・教えられる側(生徒)に加えて、親の子どもに対する期待にも着目しており、それは次の表のように整理できると考えています。

親が子に期待すること期待に応えるために必要なもの

自立

経済的にも精神的にも 一人前の大人として生きていけるようになること

能力開発

好きなことへのチャレンジ

充実した人生を送れるようになること

興味開発

(好きなこと、やりたいことを見つけるサポート)

 「探究学舎」は、好きなことにチャレンジするための興味開発を担っているという位置づけです。これは、私がよく種・芽・苗木・木にたとえて表現する「探究の3ステップ」の入門編にあたり、「驚きと感動の種をまく」ことを意識して取り組んでいます。今の社会において、入門編にあたる場が少ないと感じていたことも、この領域に特化した「探究学舎」を始めた理由の1つです。

探究の3ステップ

探求の3ステップ

宝槻氏の説明をもとに、「あスコラ」事務局で作成

石坂 ありがとうございます。宝槻さんの「探究の3ステップ」に照らし合わせると、日本酒という世界で「探究」を極めている桜井さんの活動は上級編にあたるのではないかと考えます。桜井さんがされている「探究」について、教えてください。

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社会人になっても欠かせない「探究」

旭酒造株式会社代表取締役社長 桜井氏
旭酒造株式会社代表取締役社長 桜井氏

桜井 旭酒造の四代目社長を務めております、桜井と申します。山口県岩国市に240年ほど前から酒蔵を構え、今は父が生み出した「獺祭(だっさい)」というブランドの日本酒を主に造っています。近年当社が大きく成長できた要因として、環境を見極めながら試行錯誤を繰り返し、少しずつ変化を重ねてきたことが挙げられます。緻密なマーケティングや経営判断の下に、最初から今の形ができあがったわけではありません。

 「獺祭」の誕生を例に、具体的に説明しましょう。当社はもともと山口県内で自社ブランドの日本酒を販売していましたが、県内の人口減や商店の縮小、大手メーカーの参入などにより、厳しい経営状態に陥っていました。そのような状況下で父が目を付けたのが、東京でした。日本酒市場は地場の酒蔵が強い傾向にあるのですが、酒蔵の少ない東京ならば、遠く離れた土地の酒蔵であっても品質で勝負できる余地があると考えたのです。こうして東京の市場に参入してからは、毎年商品の売れ行きをみながら、人気のある銘柄を翌年多めに造り、あまり人気のない銘柄は生産を抑えるというサイクルを回し始めました。その結果、人気の高い純米大吟醸という種類のみが残り、「獺祭」ブランドとして確立されていったのです。

石坂 東京進出や銘柄を絞り込む過程でされてきたことは、日本酒市場を取り巻く環境を見極めながら変化する、つまり「探究」と変化の繰り返しですよね。

 お2人の話を伺いながら、「探究」の重要性をひしひしと感じているのですが、そのために必要な学びはどんなものなのでしょうか。

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いま探究学習が注目されている理由

宝槻 「探究学舎」では、たとえばニュートンの万有引力の法則を扱うときに、法則そのものを教えるのではなく、ニュートンがその法則を発見した過程を疑似体験させるアプローチをとっています。このように法則や公式が生み出される過程をたくさん体験させることで、自分が課題を抱えたときにも、何かしらの法則を見いだすような帰納的なものの考え方ができるのではないかと考えています。疑似体験することで、新たな発見をしたニュートンが子どもたちのロールモデルになることもあるかもしれません。

 今の学校教育では、法則や公式の導き方ではなく、与えられた法則や公式をまずは覚えて、それを応用する力が求められる傾向にあると感じています。つまり、「正しいこと」が先にあって、それを演繹的に使うような教え方・学び方が多いのではないでしょうか。しかし、他人から「覚えなさい」と与えられたものって、記憶に残りづらいですよね。自分で筋道を立てて帰納的に発見したものは、記憶に残りやすいし、大切にする。さらに自分で発見できた経験自体が、子どもたちに継続的な自己発見を促すと思うのです。

ITジャーナリスト 林氏
(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
ITジャーナリスト 林氏
(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)

 「あスコラ」ボードメンバーの林です。

 宝槻さんの話を伺いながら、パソコンの概念を生み出したといわれるアラン・ケイが行った授業を思い出しました。その授業ではまず、異なる重さのものを一定の高さから落下させます。落下に要する秒数を計ったり、その様子を撮影した映像をパソコンでスロー再生したりしながら、子どもたちに質問を投げかけ、地面に近づくにつれて1秒あたりに落下する距離が長いこと、つまり引力が働いているという気付きを引き出します。こうして導かれた発見が正しいかを確認するために、アラン・ケイが開発したプログラミング言語を用いて画面上で落下の様子を再現し、ビデオとの比較も行うのです。

 最近、プログラミング教育がよく話題になりますが、その多くがプログラミング言語そのものを覚えさせるものになっていると感じています。けれど、プログラミングは本来「手段」であるべきです。アラン・ケイは、引力を帰納的に教えるための手段として、プログラミングを活用していました。

岡田 私が研究対象としているハイパフォーマーにインタビューを行うと、多くの人が起きた事象をパターン化し、うまくいった経験とうまくいかなかった経験から何らかの法則を見いだして行動していました。これは、その人の頭のなかで起こっていることなので、周囲の人には「なぜだかわからないけど、この人がやるとうまくいく」ようにしか見えないかもしれません。しかし、ハイパフォーマーの頭のなかでは、試行錯誤しながらまさに帰納的に法則化するサイクルが回っているのです。

宝槻 たとえばミシュランの三ツ星シェフの姿を見ても、岡田さんがおっしゃったようなサイクルが回っていることを感じますね。リンゴを温めてみるとか、我々では思いつかないことやまだ試していないことに挑み、試行錯誤を何度も繰り返すことで、究極の自分らしさを見つけようとしているように思います。

桜井 そうなんです。仕事柄、ミシュラン上位クラスのシェフにお会いする機会がありますが、「料理が楽しくてしょうがない!」という想いから湧き出るのであろう、彼らの探究心にはとても驚かされます。

 日本酒も、実は職人の探究によって生み出されたものです。江戸時代には、日本酒の原点にあたるものができあがっていたといわれています。今でこそ、科学的に醸造過程を分析できますが、当時は職人が何度も試作と失敗を繰り返しながら発展させていったのです。

旭酒造の酒蔵に並ぶタンク(写真提供:桜井氏)
旭酒造の酒蔵に並ぶタンク(写真提供:桜井氏)

 当社の 「獺祭」も、同じく試作と失敗を繰り返してできたものです。過去に、当社はある事業に失敗して借金を抱え、杜氏がみんな去ってしまった時期がありました。幸い、その事業に失敗する前から純米大吟醸に力を入れ始めていたので、父がさまざまな文献やデータを集め、すでにいくらか純米大吟醸生産の試行錯誤もしていました。文献やデータ、試行錯誤の結果を基に、「杜氏がいないならば、自分たちでやるしかない」と新たな一歩を踏み出しました。ただ、杜氏のような専門的な知識や経験を持たない素人ばかりでしたので、何か失敗をしたときにその原因が検証できるよう、壁に300本あるすべてのタンクのデータを貼りだすようにしました。全タンクで計測されるデータを毎日必ず確認しながら、発酵を微調整し、うまくいった方法は積極的に取り入れていく流れを作りました。

宝槻 まずやってみて、失敗も含めて積んだ経験が、新しい発見につながるんですよね。桜井さんのお父様は、杜氏とは異なるアプローチで試行錯誤されたからこそ、杜氏と違う視点での新たな発見にもつながったのではないでしょうか。

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一人ひとり異なる「探究」のためのサポート

岡田 経験を積みながら発見を繰り返す探究学習を行うにも、興味範囲の広い子と狭い子がいると思います。興味範囲の広い子どもたちは、どんどんいろんなことに興味を持って自発的に取り組んでいくように思うのですが、興味範囲の狭い子どもたちに対しては、どのように接すればよいのでしょうか。

宝槻 興味範囲というのは、先に私が示した「探究の3ステップ」では“土壌”にたとえることができると思います。同じように種をまいても、芽が出やすい子と出にくい子がいるのは、岡田さんのおっしゃるとおりです。種をまくだけでなく、芽が出やすい“肥沃な土壌”にしてあげることも私たちの大切な役割だと思っています。さらに、土壌を豊かにするにはどうすればいいのか、どのような種をまくのか、出た芽をどう育てるのかはそれぞれ違う話、違う施策なので、教育の場では分けて考えなければいけないということも、重要なポイントです。

 個人的には、先にも述べたように今の社会にあまり用意されていない入門編、つまり探究したいテーマ探しをサポートする場を設けてあげることが、子どもたちの興味範囲を広げることにつながると考えています。子どもたち自身が自分の個性に合うと思うこと、もっと知りたいと思うことを、どんなに小さくてもよいから選び続けていくことが重要です。

 時期としては、小学生が一番望ましいと思います。特に低学年のうちはあまり受験を意識せずに時間が使えますし、保護者の皆さんも子どもの持つ可能性を広げたいと考えることが多い時期ではないでしょうか。また、小学生のうちに探究したいテーマに出会う経験を持つことで、たとえ途中でテーマが変わったとしても、中学・高校・大学・社会人と長期的に探究する姿勢を持ち続けることができると思うのです。

岡田 確かに、大学生を見ていると、学ぶことに対しての拒否感や、「どうせ自分はダメだ」という自信のなさが原因で、マイナスからスタートを切ってしまう学生もいるように思います。小学生だと、そうした拒否感や自信のなさがなく、スタートが切れるのかもしれません。ただ、大学生であっても、土壌を耕し種をまき…ということをやっていけば、探究する力は育てられると信じたいですね。

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原動力は“心がONになっている状態”

石坂 「もっと知りたい」「もっとやってみたい!」と感じたとき、それを一時的なおもしろさで終わらせないためには、何が必要なのでしょうか? 探究の原動力はどこにあるのでしょうか?

宝槻 「探究学舎」を立ち上げた自分を見つめてみると、その根底には興味の対象に対する「愛」があると思います。失敗しても、「愛」があれば、その失敗を乗り越えて次に進める。「愛」は探究を続けるためのパワーの源であり、推進力だと思うのです。この「愛」は資質として個人に備わっているものなのか、教育を通じて育てることが可能なのか。私は、教育を通じて育むことができると考えています。

桜井 私も、日本酒や酒づくり、特に旭酒造の日本酒への「愛」が、会社を継ぐという決断に至ったきっかけでした。マーケティングの視点から、SNSに書かれた口コミを分析して味の方向性を決めた方がよいという意見をもらうこともあるのですが、そうしたアプローチやその結果できる日本酒に愛情を持つことは難しいように思うのです。これほど、自分たちの酒蔵のお酒に愛情を持てるのは、本当に幸せです。

岡田 私の場合、教育研究に足を踏み入れ、これまで活動してきた原動力は「怒り」でした。高校までの窮屈で学ぶ意味のわからない学校生活が苦痛で、大学に入って初めて学ぶ楽しさを感じることができました。 大学で、自分は何に打ち込むことができるかいろいろ試してみようと考え、さまざまな授業を履修するなかで出会ったのが教育でした。

桜井 「愛」があるからこそ、理想像を描いたり、期待を抱いたりしてその理想や期待との乖離が「怒り」として現れるのかもしれませんよね。

 「愛」だけでなく、「信念」や「怒り」という感情も、探究の原動力になりうるかもしれませんね。どんな感情であれ、“心がONになっている状態”が継続的な探究につながるのだと感じています。周囲の大人たちがうまくサポートし、“心がONになっている状態”を作ることができれば、子どもたちに探究心が自然と芽生え、自走してくれるのではないでしょうか。すると、次に大人がすべきことは、自走している子どもたちの探究心が弱まったタイミングを見極め、うまく勇気づけてあげることかもしれません。

 私は、AIの開発が進めば進むほど、これまで無駄だと思われてきたことの重要性が増すと感じていて、それを多くの人に伝えたいという「信念」を持って活動をしています。そのなかで感じているのは、自分の価値観を確立し、自分にとっての課題が何なのかを判断できる「課題設定力」の大切さです。AIの開発と発展がさらに進むこれからの時代、自分の価値観に基づく課題設定ができなければ、AIと横並びになってしまう可能性も否定できないと感じています。

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探究し続けるための「くじけない心」の育て方

石坂 どれだけ「愛」や「信念」を持っていても、探究を続けていると、決して楽しいことばかりではなく、苦しい場面にもたくさん直面すると思います。試行錯誤を繰り返すなかで、行き詰まってしまったり、モチベーションが下がってしまったりするときには、どう対処すればよいのでしょうか?

桜井 「獺祭」を生み出した父の強みだと感じていたのは、フットワークの軽さです。何かに取り組むフットワークの軽さだけでなく、失敗したときに一旦引き下がるフットワークの軽さも持ち合わせていました。父がその姿を見せることで、「取り組んでみて、失敗しても引き下がればよいのだ」という風土が会社に根付いていった気がします。

ニューヨークに建設予定の酒蔵イメージ図(写真提供:桜井氏)
ニューヨークに建設予定の酒蔵イメージ図
(写真提供:桜井氏)

 当社は、2019年夏の完成を目標として、ニューヨークに酒蔵を建設中です。「打倒獺祭」を掲げるこの酒蔵では、アメリカの米を使った新たな純米大吟醸を造り、2019年中には商品を世に送り出す計画を進めています。もちろん、仮に失敗したとしても簡単に引き下がるわけにはいきませんが、日本とアメリカでそれぞれ成功したこと、失敗したことを情報共有しながら、互いに進化させていければよいと考えています。

 父の背中を見ていると、「おいしい日本酒を造る」という目標を掲げ続けていたとしても、その目標に至るアプローチはたくさんあるので、1つひとつの失敗にくじける必要はないと思い知らされます。失敗は、アプローチを変える必要性が明らかになっただけと捉えることもできます。こうして何度も失敗を重ねていると、失敗にも慣れてくじけることはなくなり、失敗を取り戻す方に力を注ぐことができるようになるのです。何でも地道に取り組み、失敗したら引き返し、また方向転換して進めば新たに見えてくるものがある。父は、まさにそれを体現してきたと思っています。

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探究が始まり、深まる環境

石坂 子どもたちが探究できる環境を作るために、学校をはじめとして私たち大人はどのようなことができるでしょうか?

宝槻 今の日本の学校教育は、みんなで一緒に、同じことに取り組むように設計されていると思います。こうした文化が色濃く根付いている間は、学校教育に「探究」を求めることに無理があるのではないかと感じています。そもそも、子どもたちに必要なものすべてを学校教育に押し込む必要はないのです。学校でやる領域を明確に提示して、学校教育で賄いきれない部分を、家庭や地域、民間企業がどう有機的に関与していくかを議論した方がよい、というのが個人的な意見です。

左から林氏、桜井氏、石坂氏、岡田氏

桜井 宝槻さんがおっしゃったように、「学校教育では、ここまでしかできません」と明言して、決めた領域に力を注ぐ方が望ましいのかもしれません。当社も、商品は純米大吟醸に限定して、その代わりに純米大吟醸は磨き抜いていくという姿勢を貫いているからこそ、うまくいっている部分はあると考えています。

岡田 子どもたちに必要なものすべてを学校教育に入れ込もうとする方針でこれまでやってきているので、次々と新しい要求が出され、学校側にも余裕はほとんどありません。試行錯誤を繰り返すために、失敗できるような場所を作ろうにも、今の学校でそれを受け止めきれるのかが懸念されます。冒頭で、高校に今後新たに「探究」科目が多数設置されるという話がありましたが、新しいものがさらにプラスオンされると考えると苦しくなるので、今やっていることの一部でもいいから「演繹的な学び」から「帰納的な学び」へ転換してみる、というふうに捉えるとよいのかもしれません。

宝槻 学校教育は、成績や偏差値というかたちで能力を可視化し、いわゆる優秀な人を組織や社会の重要なポジションにはめていくという、社会を効率的に運用する仕組みに寄与してきたと私は捉えています。「探究」も、“興味偏差値”のような新たな指標を作ることで他人と比較できるかもしれませんが、私は比較することに意味はないと感じています。勉強と違って「落ちこぼれ」や「優秀」という概念はなく、いろんなものさしで人の個性を横並びにみるのです。これから向かっていく多元的社会においても、能力の優劣ではなく、さまざまな個性との調和がより重視されるようになっていくと考えます。

 いろんなことを薄く広く知っている人、1つのことをとことん突き詰めて深く知っている人、世の中にはいろんなタイプの人がいてよいと思います。一番大切なのは、周囲の大人が子どもたちに熱意を持って接し、彼らがエネルギーを有益に使えるようサポートしてあげることではないでしょうか。

宝槻 そうですね。最近は、成績や偏差値という他人との比較によって評価するこれまでの教育観に疑問を感じ、新しい教育観を模索する親も増えつつある印象を受けています。親の教育観の移行時期といえるかもしれません。他人と比べることなく子どもの探究心をかきたてる方法の1つとして、たとえば「わー、すごいね!」と一緒に驚いたり、感動したりすることが挙げられます。

石坂 子どもと共に喜怒哀楽をしっかり感じ合うことで、人や物事に対する愛など大切な感情が育ち、それが探究心の源泉にもなるのですね。

 本日は、ありがとうございました!

あスコラ Vol.11 集合写真
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主宰者より御礼

探究は自分で試行錯誤しながら、「わかる」ことの繰り返し。
その過程で、子どもたちは自分の得意を見つけたり、主体性を伸ばしたり、
夢中になる経験や最後までやり遂げる経験をするでしょう。

覚えたことは忘れてしまうけれど、「わかった」ことは忘れない。
認知心理学者の佐伯胖さんが著書『「学び」の構造』のなかで、
そのような主旨のことを書かれていたのを思い出しました。
暗記勉強ではなく、本当の学びには探究こそが必要である理由が、
そこにあるような気がします。

いま世界は、正解のない複雑な課題で溢れています。
そのような課題を解決するには、何度もチャレンジするくじけない心、
すなわち探究の姿勢が大人にこそ求められています。
学びを深めるうえでも、よりよく生きていくためにも、探究はますます
大切なものなのだ、ということがよく「わかった」本日の「あスコラ」でした。

桜井さん、宝槻さん、探究の本質を教えていただき、ありがとうございました!
探究ベリーマッチ!!

登壇者プロフィール

桜井一宏(旭酒造株式会社四代目代表取締役社長) 縮小傾向が続く日本酒市場にあって、常識に囚われない発想と不撓不屈の実践より「獺祭」を生み出し、国内で圧倒的なブランド確立。現在はパリ、ニューヨークを拠点に、世界通用するプレミアム日本酒というジャンル確立へ向け奮闘中。
桜井一宏(旭酒造株式会社四代目代表取締役社長)
縮小傾向が続く日本酒市場にあって、常識に囚われない発想と不撓不屈の実践により「獺祭」を生み出し、国内で圧倒的なブランドを確立。現在はパリ、ニューヨークを拠点に、世界に通用するプレミアム日本酒というジャンル確立へ向け奮闘中。
宝槻泰伸(探究学舎代表)高校も塾も行かずに京都大学に進学、という特異な経歴を持つ。大学卒業後すぐに起業。映画や漫画、小説、キャンプなどから縦横無尽に学んだ経験を活かし、小学校、中学校、高校、大学、教育委員会、PTA、職業訓練校、民間企業など、さまざまな場所で講師としても活躍。幅広い年齢層に対して提供する授業や研修は、世代を問わず聴衆を惹きつける魅力が評判。現在は、探究学習を柱とした教室「探究学舎」の代表を務めながら、出張授業を通して探究学習を全国に届けている。その教育手法は、雑誌・新聞・テレビなど多くのメディアで紹介されている。出演番組『NHKニッポンのジレンマ』。5児の父。
宝槻泰伸(探究学舎代表)
高校も塾も行かずに京都大学に進学、という特異な経歴を持つ。大学卒業後すぐに起業。映画や漫画、小説、キャンプなどから縦横無尽に学んだ経験を活かし、小学校、中学校、高校、大学、教育委員会、PTA、職業訓練校、民間企業など、さまざまな場所で講師としても活躍。幅広い年齢層に対して提供する授業や研修は、世代を問わず聴衆を惹きつける魅力が評判。現在は、探究学習を柱とした教室「探究学舎」の代表を務めながら、出張授業を通して探究学習を全国に届けている。その教育手法は、雑誌・新聞・テレビなど多くのメディアで紹介されている。出演番組『NHKニッポンのジレンマ』。5児の父。
岡田佐織(ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室研究員) 地方自治体職員、公立大学法人職員を経て2007年にベネッセ教育総合研究所に入所。大学事業部、教育事業本部を経て2015年4月より現職。この間、教育研究情報誌『BERD』編集、学生調査・アセスメントテストの設計・分析、大学FD・IRに関するコンサルティング活動等に従事。現在は大学と共同で「学びと成長のプロセス」を可視化する研究に取り組んでいる。多摩大学非常勤講師(2018-)。高等教育領域に関連する執筆物:「新入生の実態に合わせたカリキュラム開発」『工学教育』(2013、公益財団法人日本工学教育協会)、関東地区IR研究会監修『大学IRスタンダード指標集』(2017)分担執筆。
岡田佐織(ベネッセ教育総合研究所高等教育研究室研究員)
地方自治体職員、公立大学法人職員を経て2007年にベネッセ教育総合研究所に入所。大学事業部、教育事業本部を経て2015年4月より現職。この間、教育研究情報誌『BERD』編集、学生調査・アセスメントテストの設計・分析、大学FD・IRに関するコンサルティング活動などに従事。現在は大学と共同で「学びと成長のプロセス」を可視化する研究に取り組んでいる。多摩大学非常勤講師(2018-)。高等教育領域に関連する執筆物:「新入生の実態に合わせたカリキュラム開発」『工学教育』(2013、公益財団法人日本工学教育協会)、関東地区IR研究会監修『大学IRスタンダード指標集』(2017)分担執筆。
林信行(ITジャーナリスト、「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター) 最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えてソーシャルメディアで発信。また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。iOSコンソーシアム顧問。一般財団法人 ジェームズ ダイソン財団理事。
林信行(ITジャーナリスト、「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えてソーシャルメディアで発信。また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。iOSコンソーシアム顧問。一般財団法人 ジェームズ ダイソン財団理事。
石坂貴明(ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰) アメリカでホテル開発に従事後、ベネッセコーポレーションへ移籍。ベネッセ初のIRT(項目反応理論)採点の検定試験開発、社会人向け通信教育事業ユニット長など主に新規事業に多く関わる。その後、移住・交流推進機構の総括責任者として「地域おこし協力隊」制度などの立ち上げに参画、2013年より現職。「まなびのかたち」、「CO-BO」、「シリーズ・未来の学校 」、「SHIFT」などをプロデュース。
石坂貴明(ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰)
アメリカでホテル開発に従事後、ベネッセコーポレーションへ移籍。ベネッセ初のIRT(項目反応理論)採点の検定試験開発、社会人向け通信教育事業ユニット長など主に新規事業に多く関わる。その後、移住・交流推進機構の総括責任者として「地域おこし協力隊」制度などの立ち上げに参画、2013年より現職。 「まなびのかたち」、「CO-BO」、「シリーズ・未来の学校 」、「SHIFT」などをプロデュース。

※プロフィールや所属団体などは取材時のものです。
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 高藤さおり、山藤諭子、柳田善弘

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【あスコラ】記事一覧

Vol.1 『僕たちが考える最高の授業!』

Vol.2『誰もが学びにアクセスできる社会とは?』

Vol.3 『実践者と考える! これからの新しい学びが地域や社会に果たす役割』

Vol.4 『学び続けるための思考と身体』

Vol.5『VUCAな時代に子どもたちに伝えたいこと』

Vol.6『「遊び」と「不便」が学びを深める』

Vol.7『個性と能力が伸びていく「評価」とは?』

Vol.8『「学びに向かう力」を引き出すデザインとは』

Vol.9『コミュニケーションはどう学ぶ?!』

Vol.10『幸せになるための学びとは!?』

Vol.11『探究者が語る!これからの教育に求められる「探究」の本質』