あスコラ Vol.13
『心が動き出す問いづくり』

あスコラVol.13『心が動き出す問いづくり』

「あスコラ」とは

 さまざまな領域の専門家が一堂に会し、熱い議論を繰り広げる
“一期一会の小さな学校”、あスコラ。
それぞれの知見や経験、思いを語り合い、納得したり、刺激を受けたり、新しい発想が浮かんだり――。
教育に本気で向き合う大人の議論によって生まれる学びの場の様子をお届けします。

登壇者(五十音順)

  • 飯盛聡士氏

    ICT機器を取り入れた授業運営や、汎用的な能力と知識の両面から成長を促す授業展開を試みる、広島城北中・高等学校化学科教諭。

  • 榊原洋一氏

    子どもの発達障害や不安障害などと日々向き合う小児科医、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、チャイルド・リサーチ・ネット所長。

  • 柞磨昭孝氏

    公立高校の授業でICE(アイス)モデルの実践を主導する、広島県立祇園北高等学校校長。

コメンテーター

  • 林信行氏

    最新テクノロジーが暮らしにもたらす変化を伝えるITジャーナリスト(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)

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「心が動く」と、深い学びにつながる

石坂 ようこそ、「あスコラ」へ。

ベネッセ教育総合研究所 石坂編集長
ベネッセ教育総合研究所 石坂編集長

新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められています。そのためには何が必要なのか、本日はそれを考えたいと思います。

従来のように一方的に教えられたり、反復させられたりするだけではなく、自ら考えを巡らせたり、もっと学びたいと思う瞬間を授業のなかでつくりだすには、児童生徒たち自身の「心が動く」ことがとても重要ではないかと考えます。「心が動く」というのは、子どもたちが意識的に自らを奮い立たせるのではなく、「気がついたら学んでいた」と感じるような授業のイメージでもあります。

そこで、今回のあスコラは、心が動く授業づくりに取り組まれている広島城北中・高等学校理科教諭の 飯盛 いいもり 聡士 さとし さんと広島県立祇園北高等学校校長の 柞磨 たるま 昭孝 あきのり さん、そして、小児科医でありベネッセ教育総合研究所常任顧問の 榊原 さかきはら 洋一 よういち さんをお招きしました。飯盛さん、柞磨さんにはそれぞれ取り組みに至った経緯とその具体的な内容を、榊原さんには脳科学的な知見をご教示いただきながら、「心が動く『問い』とは何か」をテーマに、会を進めていきたいと思います。

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生徒の「なぜおもしろくない勉強をするの?」がきっかけ

柞磨 広島県立祇園北高等学校校長の柞磨です。理学部化学科出身の私が、いわゆる教育学の分野に興味を持つようになったのは、教員になって1年ほど経った頃、生徒から「なんでこんなにおもしろくない化学を勉強しなきゃいけないの?」と言われたことがきっかけでした。教科書に載っていることをただ説明するのではなく、どうすれば生徒たちが主体的に授業に参加するのかなど、学びについて深く考えるようになりました。

広島県立祇園北高等学校校長 柞磨氏
広島県立祇園北高等学校校長 柞磨氏

その後管理職になって、受験指導に疲弊する教員たちの姿を目にするなかで、 与えられた目的を達成するために決められた選択肢のなかから最善のものを選ぶ教育システムに問題意識 を持つようになりました。「クリエイティブなことをやらなければ、生徒も教員も楽しくないはずだ。」という仮説のもと試行錯誤をしていたところ、5年ほど前に ICEモデル に出合いました。非常にシンプルなモデルで、これならば汎用性があって使いやすいと感じたのです。

ICEモデルとは、 「Ideas(基礎的知識)」、「Connections(つながり)」、「Extensions(応用)」という3つのフェーズ から成り立っています。その基本的な考え方は、「基礎的知識のつながりを適切な質問と指導を通じて理解させ、さらに自らの体験に結びつけた知の応用へ発展させる」というものです。(※詳しくはこちら

ICEモデル自体は枠組みにすぎないので、それを授業で活用するためには枠の「中身」が必要となります。その枠の中身にあたるのが「問い」です。 Ideas、Connections、Extensionsの各フェーズで、生徒の主体性を損なわないように注意しながら問いを立てます

ICEモデルと問いの関係

ICEモデルと問いの関係

出典:柞磨昭孝『ICEモデルで拓く主体的な学び 成長を促すフレームワークの実践』(東信堂 2017年 P.43)を「あスコラ」事務局で編集

問いは一度立てたら終わりではありません。基本の問いから深化・拡張させ、洞察を経て、ものごとの本質に迫ることができます。

各フェーズで本質に至るまでの問い

各フェーズで本質に至るまでの問い

出典:柞磨氏提供資料をもとに「あスコラ」事務局で作成

石坂 ありがとうございます。具体的な実践例は後ほどゆっくり伺うとして、まずは飯盛さんにも「問い」に着目されるようになった経緯を説明していただこうと思います。

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シラバスを「問い」で再構成、「不思議」を大切に

広島城北中・高等学校教諭 飯盛氏
広島城北中・高等学校教諭 飯盛氏
飯盛 広島城北中・高等学校化学科教諭の飯盛です。柞磨さんと同じく理系学部の出身で、当初から教育学に興味を持っていたわけではありませんでした。一般企業に就職した後に母校である広島城北中・高等学校の教員になった私は、教育に関する知見を深めたいと思い、インタラクティブ・ティーチングのオンライン講座と対面講座(※)を受講しました。これを機に、授業をいわゆるアクティブラーニング型へとシフトさせ、 「どのような能力をつけてほしいか」を明示したうえで、汎用的な能力(説明する、聞きとる、まとめる、ICT機器を使いこなすなど)と知識(いわゆる教科書の内容)の獲得の両面からの成長を促す 試みをしています。

今取り組んでいることのひとつが、「グラフィックシラバス」です。従来のシラバスは作ること自体が目的化してしまっており、せっかく作成しても結局誰も見ないということがよくあります。生徒たちが興味を持って利活用してくれるシラバスを作るにはどうしたらよいか。そうした視点から取り入れるようになったのが、学習項目を図式化するグラフィックシラバスです。 生徒たちの心を動かせるように、「問い」も入れる ようにしています。 そもそも教科書に載っている内容は、かつて先達が不思議だなと感じたこと なんです。であれば、子どもたちも同じ「問い」に惹かれるかもしれない。そのことに気づいてから、ただ単にシラバスを図式化するだけでなく、問いを投げかけるかたちで作成するようになりました。

グラフィックシラバスの一例

グラフィックシラバスの一例

飯盛氏が作成している理科のグラフィックシラバスの一例
出典:飯盛氏提供資料をもとに「あスコラ」事務局で編集

シラバス作成にあたっては、 具体的な項目から始めて、どんどん抽象的なものに発展させ、最後に一般化するという流れ を意識しています。生徒たちにもこのグラフィックシラバスを見せることで、学びの最終到達地点と現在地を示すことができるのです。

※インタラクティブ・ティーチングのオンライン講座と対面講座…「学習者主体の学び」を促すための知識・スキル・工夫を修得するための講座

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答えのない問いが、モチベーションにつながることも

小児科医、ベネッセ教育総合研究所常任顧問 榊原氏
小児科医、ベネッセ教育総合研究所常任顧問 榊原氏

榊原 ベネッセ教育総合研究所常任顧問で、チャイルド・リサーチ・ネットの所長を務めている榊原です。小児神経学の専門家として、子どもの発達や教育を脳科学的な立場から分析し、情報発信や研究を進める取り組みも行っています。

私が研究しているテーマのひとつに「自尊感情」があります。日本人の場合、進学して学齢が上がるにつれて自尊感情が低下し、特に高校生くらいの年齢になると非常に低くなるといわれています。 なぜ自尊感情が低くなってしまうのか 。その原因の1つには、受験で多く見られるような 「閉じた問い(回答範囲が制限された問い)」とそれに基づく評価が挙げられる のではないかと考えています。たった1つの 正しい解を追い求める行為を繰り返していると、自分のできないことにばかり目が向くように なり、自尊感情が下がるだけでなく、 子どもたちが何かに取り組む動機そのものがそがれてしまう でしょう。

トニー・ワグナー著『未来のイノベーターはどう育つのか』では、イノベーションを起こした人の共通点として、動機が重要な要素であったと言及されています。動機には、自身のなかから自然と沸き起こる「内発的動機づけ」と、外部要因に影響を受ける「外的動機づけ」の2種類あるのですが、イノベーションにつながりやすいのは「内発的動機づけ」だそうです。

この内発的動機づけを豊かにするために重要な役割を果たすものの一例が「遊び」です。誰かに押しつけられるのではなく、自分で好きに探索しながらやってみる…これが遊びの本質ですよね。 学校教育でも、「開いた問い(制約なく自由に回答できる問い)」を投げかけることで、子どもたちに自由な探索と表現を促し、できることを増やす 方向につなげられるはずです。

ベネッセ教育総合研究所 石坂編集長
ITジャーナリスト 林氏
(「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)

林 「あスコラ」ボードメンバーの林です。

これからの時代、AIが課題解決の方法を学習し、世の中にある課題の多くはAIが解決してくれるようになっていくだろうと考えています。そうした社会で 人間に求められる役割 は、まさに今日のテーマでもある 「問いを立てる」ことに集約されていく のではないでしょうか。問いを立てるためには、榊原さんがおっしゃった「遊び」と同じく、 自らが興味・関心を持つこと が欠かせず、だからこそそうした姿勢をどう育んでいくかは非常に重要だと感じています。

石坂 柞磨さんと飯盛さんは、生徒たち自身が興味・関心を抱くような問いをどのようにして授業に盛り込んでいるのですか。

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“なぜ『羅生門』を学ぶのか”

柞磨 小説『羅生門』を教材にした例を紹介しましょう。下に示したのが、Extensionsへの方向性を持つConnectionsレベルの問い(左)と、Extensionsレベルの問い(右)です。

小説『羅生門』を用いた問いの例

小説『羅生門』を用いた問いの例

出典:柞磨氏提供資料をもとに「あスコラ」事務局で作成

明治から昭和の時代を生きた芥川龍之介が平安時代を舞台に『羅生門』を書いたのには、「極限状態を設定することで人間性の根源を引き出そう」という意図があったといわれています。小説に触れることでこのような 世界観を獲得し、ConnectionsやExtensionsのレベルの問いを通じて生徒たち自身が世の中を見る視点につなげること は、非常に価値があることだと感じています。

Extensionsレベルの問いに対するある生徒の答えが非常に印象に残っています。その生徒は、映画の結末として「『羅生門』に登場する青年が現代に蘇り、少しずつ悪事を働いていくシーン」を描きました。理由を聞いてみたところ、「どの時代であれ、人間性は変わらない。大義名分があれば、悪事を働けるのが人間だ。」というのです。とてもよい答えだなと感じました。小説だけに閉じて「この代名詞は何を指しますか」というような問いに答えるだけではなく、 小説と現実世界を重ね合わせ、自分たちのなかにも同じ性質やものの見方があるのだと発見 できたりするようなExtensionsが理想ですね。

石坂 まさに、心が動いて文学を深く学べた一例といえそうですね。 ICEモデルを実践されるときには、Ideas→Connections→Extensionsという順番で進められるのですか。

柞磨 必ずしもその順番で進める必要はありません。たとえば、英語を学ぶとき、Ideasから入って違和感なく英単語の学習を積み上げられる子もいれば、学ぶ意義やおもしろさを見いだせないとなかなか学習に取りかかれない子もいます。後者の生徒たちには、まずExtensionsで興味を引き、「これをするために、この知識が必要になるよね」というアプローチを取ることで心を動かし、主体的な学びを促します。

ICEモデルのなかでも、私は 特にExtensionsを重視 しています。その理由は、 Extensionsでは教科書や問題集だけでなく、生徒たちが今生きているフィールドにも目を向けることが求められるから です。先ほどの『羅生門』の例のように、学びの対象を今自分たちが生きている世界に広げたときに、どのような価値や意義を見いだせるかが大切なのです。私の学校では、中間や期末試験でも問題の1割をExtensionsの要素を含む問いにしています。実社会と結びつけること、そして生徒たちの思考をより深めることを常に意識しているのです。

林 こうした授業を通じて学びのおもしろさに気づくと、生徒たちは自分で問いを立てられるようになるでしょう。 授業だけでなく、日常生活のなかでも自ら問いを立てられるようになると理想的 ですよね。

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“10mの高さからストローでジュースは飲めるのか”

飯盛 私が理科の教材制作にあたり意識しているのは、 生徒たちが疑問(?)と納得(!)を往復できるような教材を作ること です。

2階からジュースを飲む実験をする生徒たち
出典:飯盛氏提供資料

左の写真は、水圧と大気圧について学んでいる授業の一コマです。2階から透明のチューブを垂らし、ジュースが飲めるかどうかを試しています。かつての授業では、私から考え方を説明するだけだったのですが、「高いところからジュースを飲むことはできるのか?」という問いを立てたところ、「実際にやってみよう!」ということになり、実験してみたのです。

実験後の学習ポスター
出典:飯盛氏提供資料

実験のあとには、小規模な実験を交えた知識構成型ジグソー法で学び、最後に成果物として学習ポスターを作成します。このポスター作成は、 生徒自身に学びをアウトプットし、振り返ってもらうことも意図 して導入しています。

石坂 このように学校の授業のなかで何かを構想したり、創造したりすることが以前はほとんどなかったように思います。飯盛さんの授業例は、ICEモデルに当てはめるならば、Extensions→Ideas→Connectionsでしょうか。

榊原 先ほどの繰り返しになりますが、学齢が上がるにつれて自尊感情が低くなる理由が「閉じた問い」とそれに基づく評価にあるとするならば、さまざまな表現ができる余地のある「開いた問い」は「できることが増えている」という実感を子どもたちに与え、自尊感情を高めることにもつながるでしょう。一方で、「開いた問い」はどう評価するかが課題かと思うのですが、飯盛さんはどう対応されているのですか。

飯盛 私の場合、下のような振り返りシートを作成し、活用しています。学習目標にあたるところは提出されたレポートを見ながら私が評価し、行動目標にあたるところは生徒たちが自己評価します。

中1『状態変化と粒子』単元での振り返りシートの例

振り返りシートの例

出典:飯盛氏提供資料

この振り返りシートを通じて促しているのは、 学びを自分の言葉で表現 してもらうことです。 自分の言葉で表現するということが、「自分ごと」につながる と考えています。この振り返りシートはノートに貼り、いつでも見返せるようにします。

通知表をつけることだけが評価ではない 、というのが私の考えです。「評価」という言葉から、ついつい成績をつけるという意味での評価を連想してしまいがちですが、 「生徒たちが次に活かせるもの」を明確にできることが理想的な評価 なのではないでしょうか。

林 飯盛さんがおっしゃった評価の考え方が広まると、 生徒たちの関心が「どう評価されるか」ではなく、「自分は何ができるのか」に変わっていく ように感じます。このように生徒たちの関心を本質に向けるためにも、心を動かす授業や評価が重要な役割を果たすのではないでしょうか。

柞磨  心を動かすために大切なのは、結局「自分が好きかどうか」 なのです。そしてそれは、そもそも評価したり、他人と比べたりすることにまったく意味がないだろうと私は考えます。

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他者が関わる「問い」は、力強くなる

柞磨 問いの話に戻ると、これまで述べた観点に加えて、 諦めずに問い続けることの重要性 を感じています。問い続けなければ思考が深まらず、浅い思考しかできない人になってしまうように思います。勉強だけでなく仕事などでも、短期で成果を出すことを求められる傾向が強まり、「問い続ける」ということがなかなかできていないのではないでしょうか。

林 それはまさにスティーブ・ジョブズがアップルの仕事の姿勢についても述べていることで、彼は ほとんどの人は簡単に答えを出してしまうが、問い続けることで究極にエレガントな真の答えにたどり着くことがある 、と語っています。柞磨さんから、広島県立祇園北高等学校では美術の先生が、「便器」を「これがアートだ」といったマルセル・デュシャンの『泉』という現代アート作品を入り口に、作家の意図や技術の進歩を遡っていくという大胆な授業をされたと聞き、感銘を受けました。現代アート作家の多くは、既成の枠組みの外側から社会を眺め、大きな問いを投げかけています。日本の若手現代アート作家でも、これから無視できなくなるAIやバイオテクノロジーを題材に、「答えのない大きな問い」を投げかけている人が何人かいます。 こうしたアート作品と触れ合う機会を増やすのも良い方法 かもしれませんね。

柞磨 もう一点、 「他者」という視点 を持つことも重要なポイントです。他者と共に生きる現代社会における幸せは、他者から感謝されたり、存在価値を認めてもらえたりすることではないでしょうか。だからこそ、 私利私欲のための学びではなく、「他者にどう貢献できるか」という視点も大切 なのです。「あなたがこの状況に置かれているとしたら、誰に、どのように働きかけますか」のように、他者との関係性を含めると、問いが一気に力強くなります。

榊原 非常に興味深いですね。実は、脳科学の分野で「アハ体験(ひらめきや気づきの体験)」の際に使われる脳の部位を検証した研究があるのですが、不思議なことに、それは私たちが他者に共感するときに活発化する部位と同じだったそうです。柞磨さんがおっしゃった、「他者との関係性が力強い問いにつながる」ということと関連しているのかもしれません。

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大人の「心が動く」ことが子どもの心を動かすことに

石坂 「心を動かす問い」というテーマで、重要な観点や実践例をたくさんお話いただきましたが、実際の授業において、教科・単元ごとにさまざまな問いを立てるというのは大変なのではないですか。

柞磨 個人的には、教員は心が動く問い立てを楽しめるようでなければいけないと考えています。

榊原  教員が楽しそうにやっている、というのは極めて重要 だと思います。生き生きとして楽しんでいる教員を見ると、生徒たちも「何でこんなに楽しそうなんだろう?」と自然と引き込まれていくのではないでしょうか。

石坂 そういう意味を含めて、飯盛さんが広島で取り組まれているedcamp Hiroshimaについてもお聞きします。やはり、参加される皆さんの生き生きとしている姿が人をさらに呼んでいるのでしょうか。

edcamp Hiroshimaの様子
edcamp Hiroshimaの様子
出典:飯盛氏提供資料

飯盛 まずedcamp Hiroshimaについて簡単に説明しましょう。edcampは広島だけでなく、さまざまな地域で展開されている取り組みで、 一般企業・教育関連企業・教員・大学生など多様なメンバーが教育について語り合い ます。私自身は2015年に東京で行われたedcampに初めて参加して感銘を受け、広島でもぜひやってみたいという想いから、2017年にedcamp Hiroshimaを始めました。 edcampの重要性を感じたのは、学びを深めるために背伸びをしたり、振り返りをしたり、人とのつながりを持ったりすることの重要性を生徒たちに話している一方で、私たち教員がこれまでそれらをやってこなかったことに気づいたから です。生徒たちに背中を見せる以上、やはり私たち大人も学ばなければならないのです。大人が井戸の上から水をくむように子どもたちのことを引っ張り上げる学びではなく、子どもと大人が学び関わり合いながら二重螺旋のような構造で上がっていく。今後は、そうした構造が求められていると考えます。edcamp Hiroshimaがきっかけとなり、問いを立てることをテーマとした勉強会「問い立てラボ」も始まりました。

2018年のedcamp Hiroshimaで議論されたテーマ
2018年のedcamp Hiroshimaで議論されたテーマ
出典:飯盛氏提供資料

「教員が生徒に教える」というこれまでの構造が社会の要請に応えられなくなってきている原因のひとつは、 学校が社会から隔絶され、学校だけに閉じた教育をやっている ことにあると思います。だからこそ、edcampのようにさまざまな属性の人が集まって議論する機会が大切なのです。たとえば、edcamp Hiroshima参加者のアンケートをみると、学校側が悩みや困りごとをなかなか学校外に相談しづらい現状があるようです。edcampのような場に参加してもらうことで、悩みや困りごとを他の参加者に共有し、解決するための糸口やヒントを得られる機会になればと願っています。

柞磨 教員向けの研修というと、教育委員会主導の集合研修があります。そこで教育方針など大きな方向性については示されるのですが、実際それを授業レベルに落とし込むときには、結局は自分たちで考えることになります。edcampは非常に具体的なテーマについても議論できるため、地に足がついた研修のように感じています。

飯盛 生徒だけでなく、 若い世代の教員育成 についても同時に考える必要があります。今回ご紹介したものをはじめ、教材などを積極的に共有し、真似してもらったり、必要であれば手を加えてもらったりしながら、少しずつ輪を広げていきたいと思っています。集合研修で決まりきった指導法を広めるアプローチでは、結局これまでの教育と変わりません。 教員が共感できる方法を実践し続けることで生徒たちが変わり、生徒たちの変化が教員へフィードバックされるというモデル が私の理想です。

石坂 まさに率先垂範なのですね。「心を動かす」問いについても活発に議論されることで、そうした過程が教員の皆さんの自信となり、生き生きと楽しんでいる背中を子どもたちに見せることにもつながるのかもしれませんね。

本日は、ありがとうございました!

あスコラ Vol.12 集合写真
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  主宰者より御礼

  学校の授業を思い出すとき、真っ先に思い浮かぶのは何でしょうか。

  国語なら読んだ作品、数学なら方程式や図形、理科なら実験。。。
  確かに、それらの学びから影響を受けたことはあるでしょうが、
  それらを学んだ理由や、そこから得られたものを思い出せるか、
  と言えば心許ない気持ちになります。
  教える側も学ぶ側も、最初から「学校や授業とはそういうもの」という
  マインドセットがあったからなのかもしれません。

  今日、お聞きしたICEモデルは、教える側も学ぶ側も同じ感覚で学びの
  目標感と現在地を認識できる授業づくりに大いに役立つものでした。
  問いで学びの体系を捉えようとするグラフィックシラバスも、自然と
  学びたくなる状態を目指しているものでした。
  どんな教科や領域であっても、心を動かす深い問いを起点とすれば、
  柔軟で多様な学びのデザインが可能であることを実感できた本日の
  「あスコラ」でした。

  これからの社会で求められる資質・能力の育成を、伝授や研鑽が
  可能な一つの型を通して、実践されている飯盛さん、柞磨さん、
  ありがとうございました!

登壇者プロフィール

岩瀬直樹(一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団副理事長)
飯盛聡士(広島城北中・高等学校化学科教諭)
2001年山口大学大学院理工学研究科修了。一般企業で研究開発職に従事後、2004年に広島城北中・高等学校に理科教諭(専門科目:化学)として着任。2008年2月にApple Japan主催のデジタル教材コンテストで優秀賞受賞。2015年~2016年に受講した「インタラクティブ・ティーチング」に刺激を受け、汎用的な能力と知識の獲得の両面から成長を促す授業を試みる。2017年よりedcamp Hiroshimaの世話人。
榊原洋一(小児科医、ベネッセ教育総合研究所常任顧問)
榊原洋一(小児科医、ベネッセ教育総合研究所常任顧問)
東京大学医学部卒。「子ども学」の研究のためベネッセコーポレーションの支援のもと設立されたCRN(チャイルド・リサーチ・ネット)所長。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学、特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。主な著書:「『多動性障害』児」「アスペルガー症候群と学習障害」(ともに講談社+α新書)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)など。
柞磨昭孝(広島県立祇園北高等学校校長)
柞磨昭孝(広島県立祇園北高等学校校長)
1983年広島大学大学院理学研究科修了、同年、広島県立広島井口高校教論、1993年広島県立教育センター指導主事、1997年広島県教育委員会指導課指導主事、2002年広島県立広島国泰寺高等学校 SSH研究主任、2004年広島県エキスパート教員認証、2006年広島県教育奨励賞、2007年文部科学大臣優秀教員表彰。2008年広島県立廿日市高等学校定時制課程教頭、2011年同校全日制課程教頭。2014年広島県立安芸高等学校校長を経て、2016年から現職。
林信行(ITジャーナリスト、「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
林信行(ITジャーナリスト、「あスコラ」ボードメンバー/コメンテーター)
最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えてソーシャルメディアで発信。また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。iOSコンソーシアム顧問。一般財団法人 ジェームズ ダイソン財団理事。
石坂貴明(ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰)
石坂貴明(ベネッセ教育総合研究所 BERD 編集長、「あスコラ」主宰)
アメリカでホテル開発に従事後、ベネッセコーポレーションへ移籍。ベネッセ初のIRT(項目反応理論)採点の検定試験開発、社会人向け通信教育事業ユニット長など主に新規事業に多く関わる。その後、移住・交流推進機構の総括責任者として「地域おこし協力隊」制度などの立ち上げに参画、2013年より現職。「まなびのかたち」、「CO-BO」、「シリーズ・未来の学校 」、「SHIFT」などをプロデュース。

※プロフィールや所属団体などは取材時のものです。
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 高藤さおり、山藤諭子、柳田善弘

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【あスコラ】記事一覧

Vol.1 『僕たちが考える最高の授業!』

Vol.2『誰もが学びにアクセスできる社会とは?』

Vol.3 『実践者と考える! これからの新しい学びが地域や社会に果たす役割』

Vol.4 『学び続けるための思考と身体』

Vol.5『VUCAな時代に子どもたちに伝えたいこと』

Vol.6『「遊び」と「不便」が学びを深める』

Vol.7『個性と能力が伸びていく「評価」とは?』

Vol.8『「学びに向かう力」を引き出すデザインとは』

Vol.9『コミュニケーションはどう学ぶ?!』

Vol.10『幸せになるための学びとは!?』

Vol.11『探究者が語る!これからの教育に求められる「探究」の本質』

Vol.12『これからの教育の話をしよう!』

Vol.13『心が動き出す問いづくり』