研究レポート
Research Report

日本の小中高の教師がもつ創造性の信念に関する探索的検討

  • #創造性
  • #暗黙理論
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公開2023/3/29

近年、国外の創造性研究により、教師のもつ創造性の暗黙理論—創造性とは何かということに関する信念—が児童や生徒の創造性の発達に重要な影響を及ぼしうることが明らかにされてきた。しかし、日本においては、そもそも教師がどのような創造性の暗黙理論をもつのか不明なままである。本研究では、日本の小中高の教師517名を対象に、「創造性とは何か」で尋ね、自由記述内容を分類した。その結果、独自性や主体性に関する記述が半数以上であり、次いで問題解決に関する記述が多かった。不規律・持続性・開放性・衝動性に関する記述はほとんど見られなかった。本研究は、日本の教師のもつ創造性の暗黙理論を理解する上で重要な知見を提供する。

1.背景・課題感

創造性 (creativity) は、学術的には、真新しさ (novelty) と有用さ (usefulness) を兼ね備えた製品や知識を生み出す能力と広く定義される (Henessey & Amabile, 2011; Runco & Jaeger, 2012)。他方で、このような学術的定義とは別に、創造性とは何を指すのかということに関して、人々は多様な信念を抱いている (Sternberg, 1985)。例えば、創造性は生まれつきもった才能であるという人もいれば、創造性は後天的に伸ばすことのできる能力であるという人もいる (Karwowski, 2014; O’Connor et al., 2013)。また、創造性は新たな経験に対してオープンな人や知的な人がもつ能力であると考える人々もいる (Benedek et al., 2021; Cristensen et al., 2014)。このような人々が抱く素朴な信念は暗黙理論 (implicit theory) と呼ばれ (Sternberg, 1985)、近年、心理学を中心に国内外で注目を集めている (外山ら、2024)。とりわけ、教師のもつ創造性の暗黙理論は、児童や生徒の創造性の暗黙理論、転じて創造的活動に対する動機づけや創造的成果にも影響しうることから、重要な研究テーマとされる (Gralewski & Karwowski, 2016; Runco & Johnson, 2002)。

これまで、英国、ポーランド、オーストラリア、イタリアなど様々な国で調査が実施され、教師の抱く創造性の暗黙理論には文化差があることが示されてきたが (Karwowski et al., 2020)、日本の教師のもつ創造性の暗黙理論については未検討である。したがって、かかる研究の手始めとして、本研究では、日本の小中高の教師がどのような創造性の暗黙理論を抱いているのかを検討した。

2.方法

参加者 調査会社を通して、スクリーニングにより小学校・中学校・高校に勤務する教師の人数ができるだけ均等になるように、計517名の教師をリクルートした (小学校の教員: N = 173、女性88名、平均年齢 = 42.28±12.19歳, 範囲: 24—65歳、平均教師歴 = 18.44±12.20年; 中学校の教員: N = 173、女性57名、平均年齢 = 45.92±12.16歳, 範囲: 24—65歳、平均教師歴 = 22.53±12.90年; 高校の教員: N = 171、女性33名、平均年齢 = 50.06±10.84歳, 範囲: 26—65歳、教師歴 = 25.35±11.77年)。すべての参加者は同意書を提出の上、調査に参加した。

手続き 参加者は、年齢や性別などの人口統計学データに回答した後、創造性の暗黙理論に関する以下の質問項目に回答した。

  1. “あなたにとって「創造性」とは、どのようなことを指しますか?例えば、「創造すること」などのような短く、一般的すぎる表現は避けて、1~2文以上でご記入ください。回答に正解や不正解はありません。あなたの率直な気持ち・考えを回答してください。” (自由記述)。
  2. “あなたにとって大人の創造性とはどのようなことを指しますか?” (自由記述)。
  3. “あなたにとって子ども (特に自分の指導する児童生徒) の創造性とはどのようなことを指しますか?” (自由記述)。
  4. “あなたにとって大人と子どもの創造性は同じだと思いますか?” (いいえ、どちらとも言えない、はい)。
  5. “大人と子どもの創造性で違うところがあるとすれば、どのようなところでしょうか?” (自由記述)。

自由記述回答の分類 創造性一般、大人の創造性、子どもの創造性に関する自由記述データを、教師の子どもの創造性の暗黙理論に関する質問紙尺度の下位因子を参考に (Gralewski & Karwowski, 2016)、以下の8つのカテゴリーに分類し、各カテゴリーに分類された回答数を集計した。複数のカテゴリーに該当しうる記述は、重複を認め、該当するカテゴリーにそれぞれに加えた。

  1. 独自性と主体性 独創的なアイディア、型にとらわれない自由で柔軟な発想、好奇心の高さ、主体的に取り組むこと、自分自身の考えを表現すること等の内容を含む記述。
  2. 不規律 言うことを聞かない、規律がない、傲慢である等の内容を含む記述。
  3. 持続性 粘り強く持続的に取り組むこと等の記述が含まれた。
  4. 問題解決 問題の様々な側面に気づく、新たな解決策を提案する、より良い方法や解決策を見つける等の内容を含む記述。
  5. 開放性 変化に対してオープンである、問題に気づくことができる等の内容を含む記述。
  6. 衝動性 衝動的で自制心がない、妙に頑固であること等の内容を含む記述。
  7. その他 上記のカテゴリーのいずれにも含まれない記述。
  8. なし/よくわからない

3.結果

創造性一般、大人の創造性、子どもの創造性の暗黙理論の記述を分類した結果をそれぞれ図1に、各カテゴリーに分類された記述例を表1にまとめた。創造性一般、大人の創造性、子どもの創造性のいずれにおいても、「独自性と主体性」に分類される記述が最も多く、次に「問題解決」「その他」「なし/わからない」に分類される記述が多く見れら、「不規律」「持続性」「開放性」「衝動性」に分類される記述はほとんど見られなかった。「その他」のカテゴリーには、創造性は生まれもった才能であるという「固定マインドセット (fixed mindset)」や、後天的に成長するという「成長マインドセット (growth mindset)」に関する記述など (Karwowski, 2014)、

また、自由記述回答を分類した結果に勤務する学校の種類による差異はほとんど見られなかった。

図1. 創造性の暗黙理論に関する自由記述回答を分類した結果。
表1. 各カテゴリーに分類された記述内容の例
カテゴリー 記述内容(質問内容,回答者の属性)
独自性と主体性 新しいアイデアや概念を生み出す能力であり,既存のものを新たな形や視点から組み合わせて独自の価値を作り出すこと.(創造性一般,中学校教師,53歳,男性,教師歴26年).
教師からの情報提供などに触発され、自分で興味を持って調べたり作ったりすること.(子どもの創造性,小学校師,50歳,男性,教師歴28年).
不規律 あきらめないで前進すること.(創造性一般,中学校教師,64歳,男性,教師歴44年).
絶えず物事をいろいろと思考して生まれてくるものだと思う.生み出す努力が必要であると思う.(大人の創造性,中学校教師,64歳,男性,教師歴42年).
持続性 あきらめないで前進すること.(創造性一般,中学校教師,64歳,男性,教師歴44年).
絶えず物事をいろいろと思考して生まれてくるものだと思う.生み出す努力が必要であると思う.(大人の創造性,中学校教師,64歳,男性,教師歴42年).
問題解決 好き勝手ではなく目標達成のための方策を考えられること.それをチームとして考えられること.(大人の創造性,中学校教師,31歳,女性,教師歴10年).
カテゴリーの異なる既習内容を組み合わせて,解決方法を導き出そうとしている.(子どもの創造性,高校教師,62歳,男性,教師歴38年).
開放性 自由な発想を持って物事に取り組むこと.そのためには,今までの当たり前や常識とされていることを疑ってかかることも大切である.そして,心の枠を外し,心をオープンにして,その上で見たり聞いたりしたこと自分なりに解釈し,自由に作り上げていくことが大切だと思う.(創造性一般,小学校教師,62歳,女性,教師歴41年).
子どもの変化に対応できる自分の意見を押し付けない.(大人の創造性,高校教師,40歳,男性,教師歴19年).
衝動性 該当する記述なし.
その他 批判的思考をもち,客観的に意見が言えること.(創造性一般,中学校教師,38歳,男性,教師歴16年).
ある程度生まれ持った才能でもあり,後天的に育成することもできる才能である.(創造性一般,高校教師,34歳,女性,教師歴10年).

また、大人と子どもの創造性が同じかどうかを尋ねた結果を図2にまとめた。勤務する学校の種類に関わらず、大人と子どもの創造性が同じである、あるいはどちらとも言えないと回答した教師も一定数いたが、異なると回答した教師の方が多かった。大人と子どもの創造性の違いに関する自由記述回答の例を表2に示した。多くの参加者が、大人は知識や経験をもとに思考するため子どもほど独創的でないという旨の記述をしていた。図1に示されたように、大人の創造性は子どもの創造性と比べて「独自性と主体性」に分類される記述が少なかった。

図2. 大人と子どもの創造性の相違に関する信念
表1. 各カテゴリーに分類された記述内容の例
記述内容(回答者の属性)
大人は完全に自由に行うことは難しいけれど,子どもは周りに正しくサポートしてくれる大人がいれば,自由に行うことができるところ.(小学校教師,47歳, 女性,教師歴18年).
蓄積された経験に基づくかどうか.(中学校教師,38歳,男性,教師歴13年).
やはり経験,規範,その他の量,質が違うので違う物になる.(高校教師,61歳,男性,教師歴40年).
大人は経験の中から,子供は自分のやりたいことから創造性を発揮する.(小学校教師,60歳,男性,教師歴39年).
創造したものが社会の役に立つか立たないか.(中学校教師,31歳,男性,教師歴9年).

4.考察

本研究では、日本の小中高の教師のもつ創造性の暗黙理論を明らかにすることであった。自由記述回答を分類した結果、独自性と主体性に関する内容の記述が最も多かった。次いで、問題解決に関する記述、いずれのカテゴリーにも分類されない内容の記述、創造性はないという記述やわからないという記述が多かった。不規律・持続性・開放性衝動性に関する記述はほとんど見られなかった。また、子どもの創造性よりも大人の創造性の自由記述回答は、独自性や主体性に関する記述は少なく、大人と子どもの創造性は知識や経験の側面から異なるという暗黙理論をもつ教師の方が多かった。いずれも、教師の勤務する学校の種類によって創造性の暗黙理論に差異はほとんど見られなかった。

創造性の暗黙理論に関する記述の内容は、独自性と主体性に関する内容が最も多く、次に問題解決に関する記述が多かった。これらの結果は、外国の教師を対象とした創造性の暗黙理論の調査の結果とも一致しており (Gralewski, 2019; Gralewski & Karwowski & 2016; Karwowski et al., 2020)、独自性と主体性や問題解決が多様な文化に共通して教師のもつ創造性の暗黙理論の一部であることを示唆する。

一方で、創造性の暗黙理論に関する記述の内容に、不規律・持続性・開放性・衝動性に関する内容はほとんど含まれなかった。本調査では、ボトムアップに創造性の暗黙理論を明らかにする目的のために自由記述による回答を用いた (Delany et al., 2019)。そのため、参加者はまず、創造性の学術的定義の中核になる独自性と主体性や問題解決に関して記述し (Henessey & Amabile, 2011; Runco & Jaeger, 2012)、その他の内容については記述しなかったのかもしれない。この点については、更なる検討が必要である。しかしながら、重要なことに、独自性や主体性・問題解決に関する記述の中で、社会のルールを守ることや好き勝手ではなく自制をもつことの重要性について触れている記述も複数あった。国外の研究では、規律を守らず衝動的である子どもが創造的であるという信念をもつ教師が少なからずいることが報告されているが (Gralewski, 2019)、日本では不規律や衝動性を創造性と関連づける教師は少なく、むしろ規律遵守や自制心と創造性を結びつける教師も一定数いるのかもしれない。日本は相対的には遵守すべきルールが多く、また違反者に対する罰の厳しい文化であり、学校教育は子どもがそのような社会的規範に適応する上で重要な役割を担っているとされる (Gelfand et al., 2011)。したがって、不規律や衝動性に関する本研究の結果は、社会的規範の文化差を反映している可能性がある。

また、興味深いことに、大人と子どもの創造性で教師のもつ暗黙理論に差異が見られた。教師を対象にした研究の多くは、「一般的な」創造性の暗黙理論や「子ども」や「児童・生徒」の創造性の暗黙理論に焦点を当てており (e.g., Runco & Johnson, 2002)、教師自身を含む「大人」の創造性について検討した研究は少ない。教師は授業実践を計画し遂行する時にしばしば創造性を発揮する必要があることを考慮すると (Beghetto, 2017)、教師が自分自身を含む大人の創造性についてもつ暗黙理論もまた教育活動に影響を及ぼす重要な要因であるかもしれない。本研究は、教師のもつ大人と子どもの創造性の暗黙理論が異なりうる可能性を新たに示しており、今後の研究では、それら二つの暗黙理論がそれぞれどのように日々の教育活動を通して子どもの学習に影響を及ぼしているのかを検討する必要がある。

5.貢献や今後の課題

本研究は、日本の教師のもつ創造性の暗黙理論の様相を明らかにしており、当該テーマの今後の研究に欠かせない重要な知見を提供しているが、いくつかの限界点と今後の展望を述べる必要がある。一つ目は、本研究では、先行研究を参考に (Gralewski & Karwowski & 2016) 自由記述による回答内容をいくつかのカテゴリーに分類する分析方法を用いたが (Delany et al., 2019)、より詳細な内容は定量的に検討できていない。とりわけ、その他のカテゴリーに含まれた記述の内容は多様であり、更なる分類も必要であるかもしれない。自然言語処理などの手法を用いて定量的に分析することで、これらの課題を克服できると考えられる。二つ目は、本研究では、教師の勤務する学校の種類には焦点を当てたが、教師の担当教科や学校のある都道府県などによる共通点や相違点については未検討であった。今後はより多くのサンプルを集め、教科や地域の影響を検討することも興味深い。三つ目に、本研究の目的は教師の創造性の暗黙理論を明らかにすることであり、どのような暗黙理論がどのように子どもの創造性の発達に関連するのかについては未検討である。今後の研究では、本研究の自由記述データをもとに、日本の教師の創造性の暗黙理論を測定する尺度を作成し、これを検討することも可能である。最後に、創造性の暗黙理論が変容すると創造的パフォーマンスも変化することが知られており (O’Connor et al., 2013; 外山ら、2024)、教師の創造性を向上させるような暗黙理論への介入を考案することも興味深い。

引用文献

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澤田 和輝

プロフィール

2019年、京都大学教育学部卒業。2024年、京都大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。2024年4月から、同研究員。心理学の立場から、主に青年期から成人期初期の人々を対象に、人が創造性を育み発揮する心理過程を研究している。