ベネッセ教育総合研究所
米野岳中学校
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●取り組み(2)
地元の名水販売で生徒の自信を引き出す
 2004年度から、「総合的な学習の時間」(以下、総合的な学習)のなかでも、「外部からの刺激を受けながら、自信を持って意見を言える生徒」を育てるための取り組みに着手した。発案者は、生徒指導主事の林正治先生だ。
 04年度の初め、林先生は今井校長や武藤先生たちと「生徒たちに、もっと精神的なたくましさを身につけさせるにはどうすべきか」を話し合った。それが頭の片隅に残っていた林先生は、ある日ふと、「1年生に、名古屋市内で高賀の森水(注1)を売らせてみてはどうだろう」と思いつく。その水を1年生が売り、多くの人に買ってもらえれば、大きな自信になるのではないかと考えたのだ。。
注1 高賀の森水とは、洞戸村内の高賀神水庵から出ている湧き水のこと。「おいしい」という評判から、休日になると水を求めて県内外からたくさんの人々が神水庵にやってくる。
 林先生の提案に、「それはおもしろい」とほかの先生方も賛同した。そして話は、思いのほかトントン拍子に運んだ。村の森林組合に協力をお願いしたところ、「6月30日に名古屋市の金山総合駅で開かれる、『なか美濃の観光と物産展』に参加できるようにセッティングした」という返事があったのだ。
「森林組合から話があったのは、イベントの約1か月前です。そこで、環境学習を中心に行っていた1年生の『総合的な学習』を、急きょ高賀の森水の学習に切り替え、準備をしました」(林先生)
 生徒たちはまず、休日に高賀神水庵に水を汲みにやってきている人に、アンケート調査を実施した。遠く東京や北海道から訪ねてきている人がいることに驚き、さらには「高賀の森水は健康にいい」「ほかの水ではだめだ」といった声を次々と聞くことができた。
 またアンケートを通じて高賀の森水でご飯を炊いている人が多いのに気づき、自分たちでも高賀の森水と水道水で炊いたご飯を食べ比べてみた。はっきりとした味の違いに、生徒たちは郷土の水に対する自信をますます深めた。
 そして6月30日のイベント当日。引率をしていた先生方は、生徒のようすが普段とあまりに違うことに驚いたという。いつもなら引っ込み思案で自分の意見などほとんど言わないタイプの生徒が、大きな声で「おいしいですよ。飲んでみてください」と街を歩く人々に声をかける場面が、幾度となく見られたからだ(写真2)。
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▲写真2 金山総合駅で高賀の森水を売る生徒たち。来場者に
水道水で炊いたご飯と、高賀の森水で炊いたご飯の食べ比べもしてもらった
「事前のアンケート調査では170人もの方が高賀の森水を『おいしい』と答えてくださいました。それが生徒にとって自信になり、当日の積極的な姿勢につながったのだと思います。どんなに内気な生徒だって、体感し自信をつけさせれば、自分の思いをはっきりと表現できるようになるんですよね」(武藤先生)
 今回の活動を通じて先生方は、「子どもたちの殻を破るうえで、地域の果たす役割が大きい」ことも強く感じたという。高賀の森水が多くの人に認められていることを知った生徒は、地域への理解と誇りを抱くようになる。その誇りは自分自身の自信へとつながり、積極的に行動できる姿勢を育てていく。
「総合的な学習では、今後も生徒の目を地域に向けさせる取り組みをしていきたいと考えています。しかし地域の学習をするには、地域の協力を得ないと、その活動を広げていくことも深めていくこともできません。今回のイベントへの参加が終わってから、『プロジェクトH』(注2、写真3)という名称で、地域の有志の方に呼びかけて、子どもたちをどのように育てていくか一緒に考えていく取り組みも始めています」(浦崎先生)
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▲写真3「プロジェクトH」の風景。
洞戸村の有志の方と洞戸中学校の先生方が話し合いながら、
洞戸の子どもたちをどのように育てていくかを考える
注2 「世界に誇れる洞戸人を育てるには」をテーマに、洞戸村の有志が集まるプロジェクト。洞戸中生をたくましい心の人間にするために、村の資源や人材を活用し、2005年2月の合併で関市に編入されたあとも、洞戸地域のよさに子どもたちが胸を張れるようにしようと活動している。洞戸中学校の先生も参加している。


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