|
文部科学省は2002年度の新規事業で、大学の地域貢献の支援に乗り出した。自治体と連携する国立大学を直接支援する事業と、大学を活用した町づくりに取り組む自治体を支援する事業を、セットで展開。「開かれた大学」に向けた体制整備を促す狙いもある。
|
 |
地域貢献特別支援事業
|
■戦略性・継続性を重視
国立大学を対象とした「地域貢献特別支援事業」は 1. 自治体と大学との将来にわたる真のパートナーシップの確立 2. 大学全体としての地域貢献の組織的・総合的な取り組みの推進―を目的に実施されている。国立大学が、自治体との連携事業の計画を策定、2002年6月と8月の2回の募集に計75校が応募し、書類審査とヒアリングを経て計15校が選ばれた。
図表1はその一部。
支援のための予算総額は約10億円で、一校当たり3000万～8000万円を配分。自治体が実施する関連事業までを賄うのではなく、もっぱら大学の予算として使うことができる。
教育、研究と並び国立大学の事業の柱に位置づけられている地域貢献に対し、文科省が直接的な支援をするのは初めてだという。背景には、私立大学と同列での競争が想定される独立行政法人化を前に、国立大学が「地域での存在感強化」という問題意識を持ち、具体的な事業に取り組みだしたことがある。
高等教育局大学課の担当者は、「これまでも個人レベルで地域貢献に熱心にかかわる教員はおり、地味ながらキラリと光る試みが見られる。これを全学的な取り組みに発展させ、財政的な後押しをすることで社会にアピールする意義は大きい」と説明する。
この事業のキーワードは「組織的」「戦略的」「継続性」「双方向性」だと指摘、選考でもこれらを重視したという。教員個人や学部単位ではなく大学の組織的な事業として位置づけ、地域が抱える問題を解決し、魅力を強化できるような戦略を、というのが文科省の狙いだ。しかもそれが一過性のものに終わらないこと、自治体にメリットをもたらすだけでなく、大学の教育・研究の活性化につながる双方向型事業であることも重視している。
■学部間連携を促す効果も
大学の主体性を尊重するため、応募に際しては 1. 学内の体制づくり 2. 自治体との十分な協議の2点以外、注文・制約をつけなかったという。1.
の要請にもとづいて、応募大学の多くが副学長を長とする「地域貢献推進室」「地域連携推進室」などの組織を整備。そこから、すでに展開中の事業を発展させるもの、新規立案、その混合などさまざまなパターンの提案を出した。全学的な検討をする過程で、学部間の協議・連携を促す効果ももたらしたようだ。
審査では自治体側からもヒアリングを行い、地域のニーズを確認。採択された大学のうち群馬大学では、太田市など外国人が多い地域における共生の在り方について、教育、社会情報、医、工の全学部が連携して研究、「内なる国際化」を目指す。名古屋工業大学は、陶器の町という地域特性と大学の専門性が結び付いた事業を計画。金沢大学の取り組みについては、別ページで詳しく紹介する。
地域密着型の大学づくりを後押しするこの事業は、世界最高水準の研究教育拠点づくりを目指す「21世紀COEプログラム」と対をなし、国立大学の類型化を進めるものという見方もできる。しかし、同省の担当者は「広島大学など、COEとこの事業の両方に応募、採択された大学もあるわけで、一つの大学の中でも多様な方向性があっていいのでは」と話す。
「地域貢献」を掲げる以上、これらの事業が地域住民にどう還元されるかが重要だ。「学内の検証はもちろん、文科省としてもきちんと評価・検証する。大学と自治体を集めてシンポジウムを開き、報告し合うことも検討したい」
事業の継続性を求めながら、助成金は年度内に消化しなければいけないという矛盾もあり、独法化後の柔軟な扱いが期待されるところだ。「国立大学」としての最終年度となる03年度予算では、同事業に倍の20億円を要求した。
|
|
|
生涯学習まちづくりモデル支援事業
|
■一歩踏み出した貢献に期待
「生涯学習まちづくりモデル支援事業」では、国公私立の大学等およびNPOなどとの連携による町づくりに向けた自治体の事業を公募・選定し、支援する。予算総額は6300万円で、一件につき100万～700万円を助成する。
事業の狙いについて生涯学習政策局政策課地域政策室の担当者は、「今後はすべての大学がCOEを目指すわけにはいかず、多くは生涯学習支援など地域に根ざした形でないと立ち行かなくなる。地域との連携についてこれまでは“待ち”の姿勢だった大学に、一歩踏み出してもらうための施策」と説明する。
具体的には、1. 市町村の行政の中で学生に公的サービスにかかわる機会を与える事業 2. 地域のNPOの活動を支援するために大学の教員や学生を活用する事業3.
町づくりに大学等の公開講座を活用する事業―を対象としている。選考基準としては、国立大学の地域貢献特別支援事業と同様に「継続性」「組織としての大学との連携」のほか、「住民の参加が確実に見込まれること」を挙げる。
80件の応募があり、採択された31件（図表2はその一部）の中には、もともと、市民グループと連携して生涯学習事業や町づくりに積極的に取り組む首長のいる自治体が目につくという。事業内容としては、従来の連携の延長線上で実施しやすい3.
の公開講座活用型が最も多く、NPOの活動の広がりを反映して2. も目立つ。一方で1. の学生参加型は少なく、「今後はこのタイプの地域貢献をどう促していくかが課題」と同担当者。
採択された事業のうちユニークなものでは、掛川市（静岡県）の「地球掛川学研究所」が挙げられる。生涯学習への先進的な取り組みの一環として「スローライフシティ」を掲げる同市では、県内の複数の大学と連携して、食や住まい、アートなどを通して「ゆっくり、豊かに」生きるための町づくりを打ち出している。
また、愛媛県の市町村の「まちづくり実行委員会」と東京の芝浦工業大学による事業は、ロボット制作という同大学ならではのノウハウを生かした“距離を超えた地域貢献”として注目される。
ネットワーク多摩、大学コンソーシアム京都などコンソーシアム方式の連携事業も。山東町（滋賀県）が、京都橘女子大学などと連携して進めている町づくりについては別ページで詳しく紹介する。
なお03年度は16件程度の採択を予定、5700万円の予算を要求した。
|
|
|
大学と自治体との連携については、これまで互いにその意思やニーズがありながら、なかなか実現にこぎつけない状況にあった。原因の一つは大学の“敷居の高さ”といえそうだ。自治体関係者からは、「大学のさまざまなリソースを活用したいと考えても、どんな分野の専門家がいるのか、どの部署にどんな手順でアプローチすればいいのかが分からない。情報がなく、窓口も一本化されていない」という指摘が聞かれる。
文科省の事業には、こうした状況を解消する狙いもある。地域貢献特別支援事業は、国立大学に地域貢献を目的とした組織の整備を促すことになった。一方、地域政策室では、生涯学習まちづくりモデル支援事業の実施にあたって「自治体のニーズと大学の人材やノウハウを結びつける地域政策室のコーディネート機能を、より強力に発揮していきたい」と話している。
|
＞トップへもどる
＞大学・短大トップへもどる
＞バックナンバー
|
