特集 国立大学法人化とその周辺
大嶋  知之
京都工芸繊維大学
アドミッションセンター助教授
大嶋 知之
Betweenは(株)進研アドが発刊する情報誌です。
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国立大学における入試広報・学生募集戦略の一考察
〜AO入試を中心として〜
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 本学のアドミッションセンターは01年4月に設立された。それまで国立大学のアドミッションセンターといえば、東北大学、九州大学など各地域で中心的な存在である総合大学にしか設置されていなかった。本学は工芸学部、繊維学部の2学部、7学科(機械システム工、電子情報工、物質工、造形工、応用生物、高分子、デザイン経営工)を設置し、募集定員の合計は700人。いわば中規模の単科大学である。推測ではあるが、本学のような規模の大学のアドミッションセンターが成功するかどうかのテストケースとして、文部科学省が認可したのではないかと思う。
アドミッションセンター設置大学の増加と入試
 国立大学のAO入試は、00年度から東北、筑波、九州大学を先陣に始まった(図表)。各大学とも、前年にアドミッションセンターが設置され、AO入試を企画・運営。推薦や一般入試に関しては、従来通り入試課が行っている場合が多い。
国立大学のAO入試開始年度
 各大学のアドミッションセンターは、筆者のような大学外からの採用や異動により専任教官を配置しているところが少なくないが、センター長を含めて3〜5人の小規模な組織であるのが一般的だ。アドミッションセンターの教官だけのパワーには限界があり、今後は、入試課の職員との連携・協力関係を構築し、得意分野を生かした役割分担を行う必要性を感じている。  また、「全学入試センター」のような名称で、一般入試も含めた学生募集を専門的に行う機関の設置を目指している大学もあると聞く。国立大学法人になれば、学長の権限が強化され、予算の運用が弾力化されると期待している。今後、入試に関わる組織の改善も図られることが望まれる。
 04年度入試において、国立大学の大半は5教科7(6)科目と入試科目を増加させた。ますます国立と私立の入試科目数の差が拡がる傾向にある。
 AO入試は、推薦や一般入試と異なり、大学のアドミッションポリシーによって多種多様である。センター試験を課す方式、事前面接などを導入したエントリー方式、スクーリングや課題論文方式などに大別される。私立大学と異なり、国立大学で共通しているのは、基礎学力も重視することと高校長の推薦を必要としない自己推薦で出願できることであろう。
 AO入試の増加に伴い、年々合格決定時期が早まる傾向にある。それだけ国公私大併願者を早期に確保するための競争が激化することが考えられる。また、多くの国立大学が大学院重点化の方針を打ち出しており、学部以上に大学院生獲得競争の激化が予想される。自大学の学生だけでは大学院の定員を確保できない国立大学も多く、近隣の私立大学の卒業生を受け入れていく方向にある。私学と同様、都心部にサテライトキャンパスを設置する国立大学もあり、社会人の獲得に関する戦略を考えておく必要もあるだろう。
京都工芸繊維大学のダビンチ入試
 02年度に開始した本学のAO入試は「ダビンチ入試」という名称である。これは、イタリアの芸術家、自然科学者・技術者としても多くの優れた実績のあるレオナルド・ダ・ビンチに由来する。本学が求める学生の資質の象徴「知性と感性」をイメージして名付けられた。
 ダビンチ入試は全ての学科・コースで導入し、学生定員700人のうち、122人(17.4%)を選抜している。学力試験は行わず、書類審査とスクーリングで選考する。
 スクーリングは、例えば、02年度は物質工学科では(1)観察・レポート作成(2)課題提示・レポート作成(3)個別面接、応用生物学科では(1)課題提示・レポート作成(2)グループディスカッション(3)面接を2日間で行った。その他、実験や資料読解、自己プレゼンテーションなどを実施する学科もある。
 こうした選考方法は、入学して本学の授業が理解できる基礎学力を持った学生で、かつ学生間でリーダーシップのとれる、あるいはプレゼンテーション能力などに優れた学生に入学してほしいというねらいがある。
 志願状況をみると03年度で昼間コースの志願者が減少している。これは、02年度は一次選考を書類のみで行い、二次選考でスクーリングを行っていたが、03年度から一次選考にスクーリング(講義理解力と課題レポート)を加えたことと、02年度で志願者倍率10倍を超えた学科を受験生が敬遠したためと推測する。
 なお、合格者を対象に行ったプレースメントテストの結果は、ダビンチ入試での入学者の成績は02年度より03年度で大幅にアップしている。また、1年次前期の成績も一般入試合格者との格差は見られなかった。
 ダビンチ入試は関西地区の国立大学では初めてのAO入試であったため、実施にあたり、より多くの高校関係者や高校生への広報活動が重要と考えた。各企業主催の進学説明会も可能な限り参加し、01年度では43回を数えている。予算と人的パワーの制約もあり、東海・北陸から九州地方での活動に限ったが、本学の認知度からみて、活動範囲を限定してパワーを集中させたことが成功に繋がったとみている。
 各高校への説明で最も配慮したことは、AO入試への誤解を解くことであった。志願者確保のためだけにAO入試を導入していると見られている大学もあり、「AO(青)田買い入試」「オールオーケイ入試」などと揶揄されているのも事実である。積極的にAO入試を生徒に勧める高校が少ないことも考慮に入れ、本学のAO入試を理解してもらうことに時間を割いた。また、AO入試に関しては本学以外の国立大学の情報も含めて提供するように心がけた。
 もちろん、入学者選抜方法の内容や入学前学習に関しても詳しく説明を行った。01年度に行った高校訪問は55校、大学への来校対応や高校での合同説明会への参加は14校であった。
今後の広報戦略
 AO入試の学生募集戦略は以下のように設定した。
(1)志願者確保のための戦略
 大学入試模擬試験の追跡結果をみても、志願者倍率と学力偏差値との相関は非常に高い。志願者が多ければそれだけアドミッションポリシーに合致した学生を選抜できるとの仮説を立てた。02年度の志願者は昼間コースに集中したため、03年度入試においては、夜間主コースの志願者確保に重点を置くことにした。
 本学の最大の特色は、「科学と芸術〜出会いを求めて〜」という教育スローガンに現われているように、科学(工学)と芸術を同時に学習することが可能なことにある。また、関西地区の国立大学で唯一の夜間主コースを設置していることや、少人数教育の実施、大学院進学率の高さや産学連携の取り組みに対する評価の高さなどを重点的にアピールしていく。

(2)入学前学習の実施
 本学のAO入試の合格発表は12月中旬、入学手続き日は12月25日である。入学までの3カ月あまりの時間をどう過ごすかによって入学時の学習意欲や基礎学力に差が出る。そこで、合格時の意欲や学力を継続・向上させることなどを目的に、数学と英語の基礎力を確認するプレースメントテストの実施後、約3カ月間の入学前学習の実施を決定した。これは、国語、数学、英語の3教科の復習を中心とし、毎日約1時間程度の学習時間を想定した教材を用いるもので、入学決定者は月1回、郵送か持参により課題を提出。大学側は添削指導を行う。
 近年、高大連携を進める大学が増えてきている。こうした活動を通じて、大学の学部・学科や授業内容を紹介することにより、入学後のミスマッチを防ぐことができれば、その意義はあるだろう。また、その努力は大学の評価を高め、志願者確保にも結びつくものと思われる。また、学生募集のために高校(顧客)を訪問し、直接対話して信頼関係を築くことにより、新たな発見も生まれるだろう。こうした機会を通じて、広報上の戦術面を強化していくことも重要であると考えている。
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