大学の社会貢献のあり方
国立大学法人の果たす機能と役割 |
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| はじめに |
国立大学では、平成14年度に文部科学省が地域貢献推進特別支援事業を開始し、15大学を選定して事業を実施させたことにより、大学の社会貢献活動への関心が急速に高まっている。各大学では地方自治体との連絡協議会を設けるなど、取り組みが広がっている。
３月28日、東京の学術総合センター一橋講堂で地域貢献推進大学シンポジウムが行われた。「数年前の社会貢献をテーマにしたシンポジウムには、わずかな参加者しか集まらなかった」（同シンポジウムにおける天野郁夫氏の基調講演）ものが、300人を超える参加者が全国から集まったことは、大学における関心の高さを示すものであったと考えられる。
このシンポジウムは、平成14年度の地域貢献推進特別支援事業で選定された15大学等が、相互に情報交換を進め、より質の高い社会貢献活動が進められるよう、金沢大学が提案して結成された「国立大学地域貢献ネットワーク」が主催するもので、計12の大学が発表した。群馬大学は、ブラジル等から来ている日系外国人の児童生徒に対する学習指導や健康指導などを行う「多文化共生研究プロジェクト」、九州工業大学は、産業都市として長い歴史を持つ地域の特性を生かした「躍動感が満ち溢れた産業都市の発展」を目指す取り組み等について、それぞれ報告した。地域のニーズを踏まえ、特性を生かした各大学の社会貢献事業に対して、多くの賛辞と今後の期待が寄せられたところである。
ここでは、大学の社会貢献を取り上げ、そのあり方を考えるとともに、国立大学法人という新しいシステムの中で国立大学が社会貢献活動において果たすべき役割について考えてみたい。 |
| 大学の三つの機能―教育、研究と社会貢献― |
これまで、大学は教育と研究を目的として設置される「教育研究機関」だとの認識が一般的であった。現在でも、大学において社会貢献への意識の高まりは見られるものの、このような認識が大きく変わっているとはいいがたい。
大学において社会貢献活動を議論する場合には、しばしば指摘されるように「外側の活動にかまけて教育研究活動をおざなりにしている」（天野郁夫『大学改革のゆくえ』122頁、2001年７月、玉川大学出版部）という批判がある。大学には、本来機能として大切な教育研究活動があり、社会貢献はその余力でいわば余技的に行えば足りるものであり、さらにいえば、特に行わなくても差し支えないもの、との意識である。
しかしながら、知識自体が大きな力を持つためには、新たに獲得された知識が、伝達され、応用されていくという知識の相互作用や緊張関係が必要であり、J・A・パーキンスによれば、大学とはこれらの「知識の獲得、伝達、応用という三機能が、制度の形をとって使命として反映されているもの」だと指摘されている。すなわち、知識の獲得とは「研究」の、伝達は「教育」の、そして応用は「社会貢献」の使命と同一視されるもので、大学の三つの使命としてこれらはともに等しい価値を持つ営みなのである。 |
| 大学が行うべき社会貢献活動とは何か |
では、大学にとっての社会貢献とはいかなる営みだろうか。大学設置の趣旨は、知識の創造や伝達、応用を行うことにあり、それゆえ大学の活動が、教育、研究と社会貢献の三つとして捉えられることは先に述べたとおりである。
したがって、大学が行う社会貢献とは、単なる無償の労務提供や施設の貸し出しなどであってはならず、知識の府としての特性を十分に生かしたものでなければならない。すなわち、大学の教育研究活動によって獲得され、伝達されてきた知識が、社会貢献という仕組みを通じて地域社会に還元されること、例えば産学官連携としての共同研究や技術移転につながったり、住民の生活改善や福祉の向上、豊かな社会を形成する活力につながることこそが、大学が果たすべき社会貢献なのである。
大学の教職員はこれまでも、各領域の専門家としてこれらの活動を自主的に行ってきた。それは例えば、行政庁や裁判所等の審議会・委員会の委員等や、高等学校等における科学教育・理科教育の支援、産業界との共同研究、学生以外の人々を対象にした講演会や公開講座の開催などで、これらすべてが社会貢献活動なのである。
彼らは教育や研究の傍らで、自発的に社会貢献活動（と認識することもなく）を行っているが、大学では組織的な評価の対象とならなかった。今後はこれらの地道な活動に光を当て、大学の機能の一翼を担う重要な活動として評価すべきであろう。 |
| 大学にとっての社会貢献の意義とその効果 |
| 一方、大学自身にとって社会貢献は、知識の活性化以外にもいくつか期待される効果があると考えられる。その一つは、社会貢献活動を進めることで地方自治体の大学連携担当者との関係が密接になり、情報の流れが構築されることである。現在、各地方自治体では増大する住民ニーズを受け、地域における知の集積である大学に対する期待が高まっており、大学との連携協力窓口の整備を進めている。そこでは担当者間の情報ネットワークが重要になる。相互に疎遠であるばかりか、ときには不信感を抱き合うこともある大学と地方自治体との間で、信頼関係を醸成することは、困難ではあるが意義深いものといえよう。 |
| 地域社会における国立大学法人の役割 |
ここで単独の大学としての社会貢献活動を超えて、地域社会全体の中での国立大学法人の役割について考えてみたい。
地域社会に存在する様々な教育研究機関はそれぞれが独立して活動しており、組織として相互の連携が密接だとはいいがたい状況にある。しかし、大学コンソーシアム京都に代表されるように、大学の教育研究機能の高度化に向けて、地域社会における大学間連携が全国各地で模索されており、一方では地域活性化などの観点から地方自治体の期待も増大している。また、いわゆる高大連携や公私立研究機関との連携など、地域社会の教育研究機関を有機的に連携させる仕組みに対する期待がますます高まっている。
こうした中で、地域の中核的教育機関である国立大学法人が果たすべき役割は大きい。それは、自らも大学の一つだという意識を超え、まさに地域の教育研究の中核であるとの意識を持つことにほかならない。すなわち、国立大学は、自身の利益のためだけに社会貢献活動を進めるのではなく、私立大学を含む地域社会の様々な教育研究機関が行う社会貢献活動についても、地域社会と大学の間のインターフェースとしての役割を担い、積極的に支える役割を担う。
国立大学法人が中心となって教育研究機関の連携を推進し、地域社会の教育研究面での拠点となることが期待されているのだ。 |
| 私立大学による社会貢献とは |
最後に、私立大学の社会貢献活動についても考えてみたい。
私立大学が行う社会貢献活動であってもその本質は国立大学と大きく異なるものではないが、学生の授業料等が大きな財源となっていることから、より強く教育研究活動へのフィードバックを生むことが期待される。例えば、産学官連携は受託研究などの形で、また公開講座等は、地域社会との交流が大学の行う様々な活動への理解を得る機会となることにより、教育研究機能の高度化につながることを志向することとなろう。
また、先に述べたように、地域大学間連携（コンソーシアム）が進められる中で、自らの大学にとっての直接的短期的なメリットが感じられないからといって連携に消極的になるのではなく、地域社会全体の高等教育力を高めることや、学生が相互に交流することによって生まれる活力など、長い目で見た効果を考えて、積極的に参加することを検討する必要があろう。大学にとって、近隣にある他の大学は競争的な関係であるとともに、知的資源の集積でもある。お互いに補完的な関係を築くことは、大学経営にとってもプラスの効果をもたらすこととなろう。 |
| まとめ |
以上、大学にとって社会貢献活動が、そもそも知識の三機能に基づく本来業務であるに止まらず、これを進めることが様々な効果を生むことを述べてきた。これまで大学には、地域社会に深く関わるよりも、高踏的に学術の世界を志向し、象牙の塔に閉じこもる意識があったことが指摘されている。
21世紀の大学にとって、地域社会から厚い信頼を受け支援されることが必要条件で、そのためにも積極的な社会貢献を進めることが期待されている。それは地域社会のためであると同時に、大学自身のためでもあるといえる。 |
