特集 動き出す「ロースクール」
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適性試験の質の維持は可能か
 法科大学院の入学者選抜では、日本版LSATと言われる「適性試験」を課す。これと各法科大学院独自の試験を合わせて合否の判定材料とする。
 適性試験には、二つの団体が実施するものが併存している。日弁連法務研究財団が実施する「統一適性試験」と、独立行政法人大学入試センターが実施する「適性試験」だ。いずれもアメリカのLSATを模して作成され、論理力や推理力をマークシート方式で試験するものである。
 どちらを採用するかは個々の法科大学院が判断して決めるが、多くが大学入試センターの適性試験を実質的な合否の資料として採用している。初回実施の志願者も日弁連法務研究財団の1.5倍ほどを集めた。
 こうした中、同財団は、「受験生に便宜を図るため」として、自分のところの試験結果を大学入試センターの適性試験に得点換算(対応付け)する一覧表を提供することを決めた。しかしこれには、疑問の声も聞かれる。二つの適性試験では審査する内容が厳密には異なる上、母集団が同じ構成になっているわけでもない、というのがその根拠だ。それぞれの試験の得点分布が共に正規分布を描く保証がなく、大学入試センターの適性試験の成績は自己申告であることなども指摘されている。
 ところで、信頼性が確立されているアメリカのLSATと比べた場合、日本の適性試験にはいくつか課題もありそうだ。ある法科大学院の設置準備関係者によると、LSATにできていて日本の適性試験にできていないことが二つあるという。
 その一つが目標設定。LSATではロースクールの第1学年の成績と強い相関関係が保たれるように問題が設計されている。このようなターゲット設定が、年間複数回の実施を可能にとしているともいえる。そのためには各ロースクールが、データを積極的にLSATの実施団体であるLSACに提供していることも知っておく必要がある。
 日本の適性試験ではこれは今後の課題であり、法科大学院のカリキュラムや教育内容、それに対する評価が定まっていないため、当面は無理であろう。しかし、適性試験の実施団体が方針としての目標設定をしなければ試験の質が維持されないことも確かである。試験設計の中でどのような目標を設定するかによって、適性試験の今後の方向性は大きく変わってくるはずだ。その意味で実施団体には、試験のユーザーである法科大学院と密接なコミュニケーションを図ることが求められる。
 先の設置準備関係者が指摘するもう一点は、ダミーセクションの出題である。これはLSATで、受験生に答えさせながら実際の成績評価には反映されない問題のことだ。このダミーセクションは将来の出題に備えての「試し打ち」であり、いずれ改良されて正規の問題として出題される。そのデータを蓄積することで、各回のLSATの問題を均質化したり、新しい傾向の問題にチャレンジしたりすることになる。
 これはもちろん始まったばかりの日本の適性試験では不可能だ。まずは経験と実績を積んで土俵を作り上げる必要があり、出題内容が真に適正かどうかの判断を下すのは先になるだろう。回を重ねて土俵が安定した段階から、他の回との均質性に注目できるようになる。大学は、55年の実績を持つLSATと同様の感覚で適性試験を扱うことには慎重になる必要がありそうだ。
教育の国際競争の中で
 経済活動のグローバル化に伴い、海外の弁護士と対等に渡り合って企業間交渉を取り仕切る弁護士のニーズも、今回の法科大学院制度の背景にはある。しかし、「日本における法科大学院の整備・充実は、高等教育の国際競争という点でも差し迫った課題」との指摘もある。
 ハーバード・ロー・スクールでは今年6月から、国外からの優秀な学生の確保をにらんだ「国際化戦略」などを目的に、4億ドルの募金活動を始めたという。日本の進学校では、年々、スタンフォードやハーバードなどアメリカの大学を目指す生徒が増えている。今後、ロースクールについてもアメリカの有力校に攻め込まれ、優秀な学生が流出してしまう事態が予想される。
 グローバル・スタンダードと呼ばれるアメリカの価値観が国際社会を席巻する荒波に、日本の高等教育界もさらされているのだ。アメリカをモデルにしてスタートする法科大学院が日本の高等教育システムを変え、国際的な競争力を持つ教育機関になれるかどうか。法科大学院制度は、司法制度改革の成否を占うと同時に、高等教育システム全体の改革という意味でも重要な試金石となりそうだ。
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