高校生の進路意識とキャリア支援
～高大連携を新高校の教育の柱に～ |
| 2004年度に新設される全日制普通科の単位制高校・東京都立上水高校（仮称）は、大学進学や大学卒業後の進路までを見据え高大連携を柱とした教育を重視する。開設準備を進める浅田博校長に話を聞いた。 |
| 普通高校から“普通学科”へ将来を「先送り」する高校生 |
東京都立武蔵村山東高校は04年3月をもって閉校し、その校地で04年4月に都立上水高校がスタートする。新校の開校準備に奔走する武蔵村山東高校の浅田校長は、これまで指導してきた多くの高校生の意識から早期からのキャリア教育の必要性を実感してきたという。「4年制大学への進学志向は確実に高まっています。中には、大学に入学した先輩を訪ねて話を聞くなど、しっかりした意識を持っている生徒もいますが、それは一握り。将来、何をするかや大学で何を学ぶかという考えを持たず、とりあえず大学に入ってから考えようと生徒が非常に多いと感じています。それゆえに、とりあえず『将来、有利になりそう』という軽い感覚で無難な学部や学科を選んでしまう。中学から普通高校に進学してきたのと同じ感覚で、普通高校から、いわば“普通学部・学科”に進学するというのが現状のようです」。
少子化で生徒数が減り、選ばなければほぼ確実に大学に進学できる状況も、安易な方向に流れようとする生徒の傾向に拍車をかけていると浅田校長は分析する。
また、学習意欲をみても、自分の興味や将来につながるようなことではなく、直前にある大学入試に必要かどうかという視点だけで勉強する傾向が強いため、大学合格後の学習意欲には継続しにくいだろうとみている。
そこで、上水高校ではこのような、「自分の将来を先送りする傾向」を打破し、高校3年間で望ましい進路意識を育成することを第1の目標に掲げる。1年次からのキャリア支援教育を導入し、自らの目標をしっかり持ち、高校卒業後、そして社会に出てからも成長し続ける生徒を送り出したいと考えている。 |
| 中学校との連携から高大連携の必要性を意識 |
どうすれば、生徒が真剣に、自分の将来について考えてくれるのか。キャリア教育のヒントは中学にあったと浅田校長は振り返る。
中学では新学習指導要領により、「総合的な学習の時間」で、以前より進路を考える機会が増えている。中学生が授業の中で、大学訪問することも珍しくなく、ボランティア活動などの体験をした生徒の中には、介護や福祉関連など希望進路が明確である場合が多い。さらに、進路教育だけでなく、ディスカッションなどの授業により、表現力もこれまでの生徒に比べ大きく伸びているという。浅田校長は、「中学生の質の変化」を実感し、「せっかく中学で進路指導の下地ができているのに、高校側がこれまでどおりの受け入れ態勢では、生徒に芽ばえかけた自己実現の芽が育たない。公立中学がここまでやってくれていることを、しっかりと受け止め、高校はそれを伸ばすシステムを作らなければという思いを強くしました。さらに大学と連携することにより、その力をもっと伸ばしてもらえる進学先へと送り出すことこそ、これからの公立高校の役割と考えています」と浅田校長は断言する。 |
| 体験的な刺激を与え進路を本気で意識させる |
上水高校は、全日制普通科の単位制高校で、第1期生は全6クラス、240人を募集する予定だ。
単位制高校では1年次からより丁寧な履修指導を行う必要があるため、中学校の進路指導の成果を引き継ぐ形で3年間を見通した進路指導計画を立案した。
「最近の生徒は『情報』はたくさん持っているが、『体験』は不足しがち」と浅田校長は指摘する。インターネットなどで必要な情報は自宅や学校で過不足なく手に入る。便利だが、生徒が心を動かすような「出会い」や「体験」の場は確実に減っているという。
そこで、上水高校では生徒に進路に関する様々な「体験」をさせる機会を設ける（図表1）。 |
 |
まず、1年次の5月には、生徒全員が「一日大学体験入学」を行う。大学生活を実感してもらうことが目的だ。受け入れ先は距離的に近く、モノレールを利用して行ける中央大学の八王子キャンパスだ。
「中央大学に、相談をもちかけたところ、上水高校と連携することにより、高大を通じた7年間で、生徒一人ひとりに、一貫した指導ができる可能性があることを高く評価していただきました。生徒を受け入れる施設があるかどうかだけではなく、大学とのスタンスの一致が、連携には非常に重要です」
中央大学には、高校生向けにアレンジした授業ではなく、できるだけ普段どおりの授業を聴講させてほしいと依頼。学生食堂で大学生に混じって昼食を取ることも予定している。大学をバーチャルではなく、現実の場として強く意識させること、しかも、高校に入学したばかりの時期に行うことに意味があるという。「一種のショック療法ともいえます」と浅田校長。 |
| 大学生を高校に招き“先輩”との交流の場をつくる |
さらに、生徒に「大学生の先輩」と交流させ、4～6年後の自分を考えるきっかけを与えることを目的に、大学生が高校を訪れる機会を増やす方針だ。
まず、1年次の6月に、提携する大学から教育実習生を受け入れる予定だ。
まず、4月の実習打ち合わせの時点で教育実習生に、大学でどんなことをやってきたか、あるいは高校生へのアドバイスといった内容のレポート「私の高校時代と後輩へのアドバイス」などの提出を依頼。教育実習開始後、そのレポートをベースに自身の「進路体験談」を語ってもらい、生徒の個別相談にも対応させる。生徒には事前に教育実習生のレポートを資料として配布し、実習生の中から自分の目標に近い学生に、直接アドバイスを受けることができるようにするという。「強い目的意識を持って大学に入り、教育実習に取り組む大学生は、身近な先輩として、高校生にいい刺激を与えてくれるだろう」と浅田校長は期待する。
現在、津田塾大学、国立音楽大学と来年度受け入れの話を進めている。国立音楽大学の実習生には、7月に実施を予定する合唱祭の指導にも協力してもらう予定だ。 |
