| Report（1） キャリア開発プロジェクト 武蔵野大学 |
新学部での取り組みをモデルに
外部講師を加えた体系的支援を全学に拡大 |
| 2003年度に武蔵野女子大学から校名変更した武蔵野大学は、04年度からの共学化と初の理系学部となる薬学部新設に向け、改革の真っただ中にある。今年度から全学に広げて本格的に取り組んでいる「キャリア開発プロジェクト」は、このほど文部科学省が発表した「特色ある大学教育支援プログラム」に採択された。就職率アップという具体的成果に加え、学生の目的意識を向上させ活性化につながったことも高く評価された。 |
| 正規科目と資格取得講座、就職支援プログラムが柱 |
武蔵野大学は1924年、国際的仏教学者の高楠順次郎博士によって、「仏教精神による人間教育」という理念の下に創設された武蔵野女子学院に始まる。同博士は女性の社会進出を肯定的に捉えた先覚者でもあったという。「建学の精神を引き継ぎつつ現代のニーズに合わせた実践的な教育を行うために、98年には現代社会学部、99年には人間関係学部を設置しました。その流れの中で、教養的な内容だけが学問ではなく、キャリア開発も実践的学問の一つであるという認識を深めました」。斉藤諦淳（たいじゅん）学長はそう説明する。「キャリア開発プロジェクト」は、その認識を具体化したものだ。
プロジェクトの柱は次の3本。
（1）正規カリキュラムの中に教養科目として位置づけているキャリア開発科目群
（2）エクステンションセンターが開設する資格取得対策講座
（3）各種ガイダンスなどの就職支援プログラム
キャリア開発科目群（図表）は、1年次前期の「キャリア開発基礎1」を皮切りに、3年次までの間に基礎、概論、実践の3分野にまたがる全10科目が体系的に用意されている。 |
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「キャリア開発基礎1」では、編集者や新聞記者など外部講師による作文添削を交え、読解力や表現力を習得させる。教務課の大友多容（かずよし）課長補佐は、「高校の授業では受け身の姿勢で聞きっぱなしで終わったせいか、大学入学時の基礎的な読解力、文章力が弱く、この授業は結構負担が重いようです。しかし、文章リテラシーは大学での全ての授業の基礎となる能力ですから、必修にしています」。
2年次前期には「女性の生き方と職業」が必修。「教員が女性の生き方を概念的に話しても、学生は具体的な職業イメージに結びつけられない。そこで、実際に企業などで活躍している女性を講師に招き、いろいろな職業や生き方のケーススタディとなるような体験を語っていただきます。その中から共感できる職業を見つけてもらうことが、この授業の狙いです」と大友課長補佐。それを受けて自分の生き方を具体的に描くための科目が2年次後期の「キャリアデザイン」。学生はこの中で自己分析を行い、希望を実現するためのキャリアプランを考える。
一方、社会人としての実践的なルールやマナーを学ぶ「ソーシャルスキル」も必修。選択科目の「インターンシップ」は、その前段階となる「企業研究」と合わせて履修することで、職業体験の実をあげられるよう配慮した。 |
| 学部の志向性の違いを考慮し選択・必修を区別 |
これらのキャリア開発科目群は、開設直後から積極的にキャリア支援に取り組んできた現代社会学部をモデルケースとして、文学部と人間関係学部に広げた。現代社会学部は00年度に、地域の社会人から公募した講師に自身の体験にもとづいて就職に関する助言や指導をしてもらう「キャリアカウンセラー制度」を導入。その効果もあり、02年3月卒業の1期生の就職率は72.1％と、全国女子の平均64.4％を大きく上回った。03年度は74.2％とさらにアップ。「新設学部のハンデを跳ね返した成功を受け、外部から積極的に講師を迎えるプログラムを全学に広げ、学生支援のみならず、学内の教員にも刺激を与えキャリア教育に対する意識を高めようと考えました」と斉藤学長。
現代社会学部での授業評価で、キャリア開発科目が、授業内容・方法、理解度、満足度などほとんどすべての項目で全科目平均を上回ったことも、全学への拡大を後押しした。ただし、取り組みが蓄積された現代社会学部と、教育のコンセプトや学生の志向が異なる他の2学部では、カリキュラムは別にしている。「学生のキャリア志向がより強い現代社会学部では選択になっている科目も、他の2学部では必修にしてキャリアについて考える機会を増やすなどの配慮をしています」（斉藤学長）。 |
| 就職支援は進級に伴い意識喚起から実践的指導へ |
キャリア開発プロジェクトの2本目の柱である資格取得対策講座は、「ビジネス文書技能検定対策講座」「社会福祉士国家試験対策講座」「マルチメディア検定対策講座」「ホームヘルパー養成講習」など20講座を開設。「実用英語技能検定」1級か準1級、「秘書技能検定」1級か準1級など、所定の成績を修めると、奨励金として検定料相当額を授与する制度もある。さらに、学部ごとに一部資格を単位認定の対象とするなど、モチベーションを上げるよう考慮している。
もう一つの柱・就職支援プログラムの53講座は、就職課が実施する。1年次のガイダンスでは、エントリーシートを示して「就職活動でこのシートを埋められるよう、学生生活を充実させ自分を磨かなくてはいけない」という意識を喚起する。自己発見レポートで自己理解を促すと同時に、今後はその結果を分析してカリキュラムの見直しにも生かす方向だ。2年次には基礎学力テストや経済新聞の読み方講座などを実施。3年次になると、「筆記試験対策」「面接試験対策」「就職マナー」など実践的な内容で本格的な就職支援を行う。他の授業と重なるなどしてこれらの講座が取れなかった学生を対象に、エッセンスを凝縮して開く合宿講座も人気が高い。 |
| 外部委員と共にプログラムの見直しを議論 |
武蔵野大学は、もともと教職員と学生、先輩と後輩が親密に関わる校風があるという。担当教員によるアドバイザー制度や、学生が大学生活全般について相談できるオフィスアワーがあるほか、海外研修やボランティア活動を通じた交流も。入学直後のガイダンスでは上級生が新入生の質問に答え、その後も継続的に相談に乗る「学生アドバイザー」となり、学生生活全般をフォローする制度がある。特に履修に関わる疑問に対しては、先輩のアドバイスが最も参考になるはずだ。このように、場面に応じて教職員が一歩退き、学生を巻き込んで大学生活を支援するシステムは、助言する側の学生の成長をも促しているという。
一方、学生サービス充実のため今年度から、入試センター、教務課、学生課、就職課を総括する「学生支援部」を設けた。学生の多様化に対応したエンロールメントマネジメントの実現が目的だ。
こうした組織統合をする大学は増えているが、結局は部内で従来の縦割りが残り、学生が相談に来ると「それは○○課で聞いて」とたらい回しにするケースも多いようだ。しかし同大学では、四つの課から1人ずつ出す形で各学年を担当、持ち上がりで同じチームが4年間の学生生活をサポートする、文字どおり「入口から出口まで」の体制を目指す。学生支援部の畑佐勝部長は、「まだ試行段階ですが、つまづいた学生を見逃さず課の連携で支えることなどができる体制を整えたい」と話す。
キャリア支援のさらなる充実を目的に、同大学ではキャリア開発プロジェクト委員会を設け議論している。副学長と各学部長、各部局の代表者などの委員に、就職情報誌の元編集長、女性教育機関の幹部、大手企業の役員、大学関係者など7人の学外委員も加えて構成。議事録をホームページ上で公開し、大学の発想にとらわれない幅広い意見を集めることで、社会と密に連携したキャリア教育の構築を図る。
今後は、そうした手法でカリキュラムに改善を加え、全学共通化の徹底を目指す。その上で資格取得講座や就職指導と有機的に連携できるよう、3本柱の役割分担を明確にし補完関係を強化する。
来年度は共学化と薬学部新設という節目を迎えるが、これに伴うキャリア開発プロジェクトの大幅な見直しは当面行わない予定だ。斉藤学長は「女性の就職状況の厳しさは続くと思われますし、女性の就業に伴う問題は男子学生も知っておくべきです。その意味で、女子大として築いてきたキャリア教育の成果を、共学化後も生かしつつ社会に広く還元したいと思います」と話す。 |
