特集 満足度を高める学生支援
立教大学
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Report(2) 全学共通カリキュラム 立教大学
「全カリ」で教養と専門を結びつけ
モチベーションの向上を図る
立教大学による全学を挙げての一大教育改革「全学共通カリキュラム」は、導入から6年がたつ。高等教育の現場で低年次の教養教育の重要性があらためて注目される現在、他大学に先駆けて改革に着手した試みは、事務組織が中心となって立ち上げた科目も加わって充実し、学生の満足度も向上している。
専門の基礎ではなく専門を補う形の教養教育
 リベラルアーツを理念に掲げる立教大学が、「専門性ある教養人の育成」を目標に、新しい教養教育システムとして「全学共通カリキュラム」(全カリ)をスタートしたのは1997年のことだ。独立して存在していた一般教育部を廃止して全学共通カリキュラム運営センターを設置。
 教養教育を全学的に担う体制にすると同時に、専門的学問領域にしばられない総合化した教養科目を設定、カリキュラム編成や単位要件などを一新した。そのコンセプトを、全学共通カリキュラム運営センターの庄司洋子部長はこう説明する。
 「学部教育で学んだ自分の専門の位置づけを幅広い視点から問い直したり、実社会に生かすための力を養うのが、本学の考える教養教育です。そのため、専門教育の基礎としてではなく、専門教育の足りない部分を補い合う形の教養教育に転換を図ったのです」
授業は教員と一緒に事務部門が企画・提案
 全カリの特色の一つは、事務部門も科目の企画・提案を行うことだ。00年度から、教員と一緒に授業内容の検討や講師の選定を行う。学生支援を通して学生に必要な資質や能力を熟知している職員が、教育の専門家である教員と協同することで、より実践的な授業をつくることができるわけだ。
 例えば「自己理解・他者理解」という科目は学生部が企画したもので、周囲との関わりから学生に自分の生き方を考えさせることが目的。以前から入学前キャンプや農業体験などの課外教育プログラムの中で他者とのコミュニケーションを大切にしてきたことや、対人関係などに関する学生からの相談が増加していることが、学生部の授業企画の背景にあるという。
 この授業は毎回、ワークショップ形式で行われ、家族と自分、性格テスト、他者とのコミュニケーション、人生の意味などをテーマとして、多角的に自分を見つめられるよう配慮されている。受講生は150人ほどで低学年の学生が多いが、4年生もいるという。
 「自分がどうあるべきかを問い掛けてみたいという学生が集まってくるので、受講態度は非常によい。心理カウンセラーの講師もいて、授業後の質問や相談も多いですね」と、学生部の松井明子副部長は話す。
 キャリアセンターも、すぐに手を挙げ、「仕事と人生」という科目を企画した。それまで「就職活動が始まる前に、どう生じるかをじっくり考える授業があったらよい」という声が活動を終えた学生から寄せられていた。加えて、就職に関心の低い学生も巻き込んで、自分の生き方を考える教育を低学年で実施したいと考えていたことが、「仕事と人生」に結びついた(図表)。
 ただし、この科目では就職活動のスキルを教えるのではなく、早い段階で社会と自分をリンクさせる考え方を養うことを目的としている。
 そのため、毎回、学内外から研究者や企業関係者など多彩な顔ぶれが教壇に立つが、話のメーンとなるのは講師の就業体験ではなく、仕事と社会の関わり、その分野の動向などによる幅広い情報だ。池袋と新座キャンパスでは設置学部が異なるため、それぞれに合わせた内容が設定されている。年間を通じて、受講生は約1000人。その7割が1、2年生だ。
 「アンケートを見ると、受講前には『就職は何とかなるだろう』と思っていた学生も、受講後には『自分の考えが甘かった』と変わります。また、低学年の学生ほど『就職のことなんて考えたくない』というネガティブな心理から『まだ時間がある。目的を持って学生生活を過ごせるよう、今からがんばろう』というポジティブな心理に変わっていきます。現実をきちんと伝えれば、学生はわかってくれます」と、キャリアセンターの加藤敏子副部長は話す。
 さらに、低年次の学生支援について、キャリア形成の観点からこんな指摘も。「低年次からのキャリア教育は、学生が自分と向き合い主体的に学生生活を送れるようにするためのもの。ですから、就職のスキル指導に走るのではなく、職員が教学と連携して、日頃の授業のなかでどう学生を育てていくべきかを考えなければ、本来のキャリア指導はできません。大学としての再生の鍵もそこにあると思います」。
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