| Report（3） 低年次教育 湘南工科大学 |
興味・関心を高めた上で基礎を教え
学生の主体的な姿勢を引き出す |
| 湘南工科大学は工学部に6学科を持つ学生数3000人規模の単科大学だ。早期退学の防止を目的に始めた低年次教育は、コミュニケーションを密にし、学びのモチベーションを喚起、維持させる仕組み。中でも1学科から始まった少人数体験授業は成果を上げ、他学科へも広がっている。 |
| グループ作りや学習支援で学生を1人にしない教育 |
湘南工科大学では、早くから低年次教育に力を入れていた。その背景には、最近の工学系大学が共通して抱える問題、すなわち学業不振や単位不足、勉学意欲の減退などから早期退学が増加したことがある。
同大学では、その防止策の一つとして1998年度からコミュニケーション・サークル（以下CC）の制度を導入。入学してすぐに学生を約10人のグループに分け、1人の担当教員のもとに、定期的に集まったり連絡を取り合うなどの活動を行うものだ。学科によってはCC単位で授業を行う。
松本信雄工学部長は、導入の理由について、「要するに『学生を1人にしない』ことです。退学する学生は、学内でコミュニケーション不足に陥っていることが多いため、CCによって、学生同士、学生と教員のコミュニケーションを密接にしようというわけです」と説明する。
当初は、1年次だけの取り組みだったが、2003年度からは2年次、04年度には3年次に拡大する。CC単位で授業を受けることで、学生間の仲間意識が強くなるなどの効果が表れたからだ。基本的には同じ教員が連続的に担当するが、進級時には変更も可能だ。
学習面のケアにも力を注ぐ。03年6月から、授業で理解しづらい点やわからない点を相談できる学習相談室を、昼休みと放課後に毎日開設している。延べ十数人の大学院生が交代で常駐し、自分で答えられなければ、教員を紹介するなどのサポートを行う。2カ月余りで数十人が利用したという。
この夏休みには、予備校の講師による夏期講習も実施した。数学、特に微積分を復習するためで、約30人の学生が自主的に参加した。04年度以降は保護者へのDM送付でPRを強化したり、教科数を増やすなどの拡充を図る。
02年度から導入している資格取得講座も、学びのモチベーション向上を狙ったもの。CAD利用技術者、色彩検定などの講座を設置し、学生の関心も高い。資格を取ることで自信がつき、それが学習意欲につながるという。
ただ、松本学部長は、担任制やリメディアル教育、資格取得講座などは補完的なもので、本来ならカリキュラムを改善することが最大の課題だと言い切る。
そのために同大学が導入しようとしているのが、「逆転のカリキュラム」だ。工学系のカリキュラムは積み上げ方式が多い。基礎的な学問を一つ一つ学び、卒業研究になってようやく本当に面白い現実的なテーマにたどり着く。しかし、多くの学生はその過程で興味を失ってしまう。
そこで、まず現実的なテーマや課題を与え、具体的な体験を伴う授業を導入することを考えた。学生の興味が高まってから必要な基礎を教えていくという、従来とは逆の発想のカリキュラムだ。こうした体験授業はグループ単位で行うことを前提とした。「苦労を共有する中で、本当の仲間ができ、技術が身に付き、興味がさらに喚起されるという理想的な循環」（松本学部長）を築きたいからだ。 |
| 1年次から始まる卒業研究のエッセンス |
逆転のカリキュラムの典型といえるのが、システムコミュニケーション工学科が01年度の開設当初から導入した「チームプロジェクトラーニング（以下TPL）」だ。学生10人前後でチームを組み、講義よりも実物に触れることを優先する1～3年次の必修科目だ。
導入の動機について、同学科の鯉渕興二学科長は、「学問の楽しさを早い時期に味わい、やる気を引き出したかったのです。現在の学生は携帯電話やパソコンなどでバーチャルな世界に親しんでいるため、リアルな世界での感覚が不足しています。機械などの実物に触れることで、その感覚を身に付け、合わせて共同作業におけるコミュニケーション能力を育成しようと考えたのです」と言う。
TPLは3分野8テーマに分かれる（図表）。1年次はTPLの全容を理解することが目的のため、CC単位で8テーマを3週ごとにローテーションする。2年次になると、学生は自分の興味あるテーマを選択し、あらためてチームを編成し直した上で、本格的なプロジェクトをスタートさせる。 |
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| TPLでは、教員一人が1テーマを担当し、学生に課題やプログラムを提示するが、計画から運営、実行はすべて学生たちに任される。自分たちが興味をもつ課題を、自分なりに考えた方法で突き詰めていくスタイルだ。「卒業研究を1年次から始めているようなものです」と、鯉渕学科長が語るように、学生の興味と主体性を最大限に引き出す工夫がなされている。 |
