| Report（6） 入学前サポート 京都精華大学 |
AO入学決定後の手厚いケアで
大学で学ぶ心構えを育成 |
| 京都精華大学は、人文学部と芸術学部にそれぞれ3学科を持つ。人文学部で行うAO制度の入学決定者には入学前にレポート課題を課し、一人ひとりにコメントを返送するなど、丁寧なサポートを行う。補習としてではなく、大学生になるための「心構え」の育成に主眼を置くことで、学生の満足度アップにも成功している。 |
| 講義とディスカッションをセットにした入試が出発点 |
京都精華大学人文学部は、AO制度の入学決定者に対して毎月3回のレポート提出やスクーリングを課すなど、入学前サポートに特に力を入れている。AO制度では、受験生と大学との接触がかなり早い時期から行われるが、この接触を通して、入学後の学修に必要な準備を進める。同学部の2003年度のAO入学者は、入学者の約4割にあたる216人。半数近くの新入生が、大学教育への準備を終えてから入学していることになる。
同学部のAO制度の流れは以下の通り。まず、年数回行われる人文学セミナーに出席したのち、そこで提示される課題レポートを提出する。このレポートとセミナーでのグループディスカッションなどから、出願資格が認定されると、チャレンジ講座に進む。一度で出願が認められなくても、何度でも挑戦できる。チャレンジ講座は1泊2日の日程で行われ、プレゼンテーション、グループディスカッション、個別面談を経て最終的に合格が決定される。この合格者に対して入学前サポートが適用される。
このような形式の前身ともいえる自由選抜入試が環境社会学科に導入されたのが00年度。2泊3日で講義とディスカッションを行い、そこで合格者を決めるものだった。02年度からは人文学科（当時）でもセミナーとプレゼンテーションで合否を決める入試が行われた。
これらの入試の狙いは、受験生に同大学の中身を知ってもらうと同時に、双方向のやりとりを通して受験生の意志や能力を直接確認することにあった。ところが実際に導入した結果、ディスカッションなどの入試プロセスそのものが従来の試験の枠を超えて、すでに「教育」となっていたことに気づいた。
ただし、ここでの教育は入試の過程という受験生との継続的な関係の中で成り立つものだった。だがAO入学者の数が増えれば、労力のかかる合宿形式の継続は難しくなり、セミナー形式では接触する時間が限られてしまう。そこで、03年度からはAO制度のプロセスに加え、合格者への入学前サポートの形で、教育を行うことになった。 |
| 社会と自分との関係を考えさせ「読む力」「書く力」を育成 |
入学前教育を実施する大学は増えているが、入学後に必要となる学力をつけさせるために、高校の補習的な内容を中心にしているところも多い。しかし京都精華大学では、こうした方向とは異なる独自の視点から取り組んでいる。「テスト的なもので測られるような学力を入学前に養成しようとはまったく考えていません。最も重要なのは、社会と自分をどう関係づけさせるかということです。そのため、社会的関心を広げ、大学で学ぶ『心構え』を育成し、考えることの意味を理解してもらうことを主眼にしています」（中尾ハジメ 学長）。
大学4年間の学習に必要な「読む力」と「書く力」の育成も目的の一つだ。そこで具体的なプログラムとして、近況報告レポート（毎月末提出）、ニュース・レポート（毎月10日提出）、課題図書レポート（毎月20日提出）という三つのレポートに加え、英語学習の課題と、スクーリングなどを盛り込んだ。チャレンジ講座への参加時期によって入学決定の日が異なるため、課題の提出回数は受験生ごとに違うが、課題が強制ではないことを伝えた上で、できるだけ提出や参加を求めた。
近況報告レポートは、最近勉強していることや関心を持っていること、入学に向けて準備していることなどを報告するものだ。高校で勉強している内容は大学にとって重要な情報であり、それも記入させた。また、課題の量やレベルが適切かどうかについての情報を得る手段でもあった。高校生がどんな生活を送っているのかを知ることが主目的だが、早期に合格が決まるAO入試や推薦入試などが高校現場で歓迎されない風潮への配慮から、合格後も気を抜かずに高校の勉強を続けてもらう狙いもあった。レポートには、必ずコメントをつけて返した。
ニュース・レポートは関心のある新聞記事を切り抜き、感想や、そこから関連して調べたことについて報告するものだ。毎回添削を行い、必要に応じて関連記事や推薦図書などを紹介した。単に郵送で返却するだけでなく、電話やファクス、メール、対面などの方法を使って、その後のフォローも行っている。
課題図書レポートは、本を一冊指定し、1カ月単位で決められた範囲を読み進めた感想をレポートにまとめるもの。「読む力をつけるには、ある程度の厚さのある本で、しかもきちんとした構造をもった文章を読むことが不可欠」（中尾学長）との認識があったためだ。03年度は西研著「大人のための哲学講座」を指定した。
しかし、抽象的な概念を長い文章から読みとることの難しさに加え、レポートに対するコメントも全員に返送できなかったことから、提出率は低かった。
スクーリングは、03年度は3回実施した。課題図書の内容をテーマにした講義とディスカッションのほか、英語の勉強方法や大学での学び方についての講義を行った。遠方で参加が難しい人には、内容をまとめた講義録を送った。スクーリングの目的について中尾学長は、「一つは大学4年間を見通して、この時期にはこういう核となる科目があるといった、学びに関する時間的展望を与えること。もう一つは、大学の構成員としての責任と、入学後に大学を牽引していくという自覚を促すこと」と語る。 |
