| Report（8） 自律創発型ゼミ 高知大学 |
「プレゼン」を少人数ゼミに導入し
学習意欲向上や表現力を醸成 |
| 企業が新卒学生に求める素養として、「論理的思考力」「コミュニケーション力」などが挙げられる。これらを身に付けると同時に、学ぶ意欲の向上を目的に、高知大学人文学部社会経済学科では、正課外の取り組みとリンクさせつつ、プレゼンテーションを中核とした1年次の少人数ゼミを実施している。 |
| 自主プロジェクト組織の反省点を生かして新ゼミ導入へ |
高知大学の人文学部社会経済学科では、「自律創発型ゼミ」を教員任意で行っている。あるテーマに沿って、学生が企画立案やプレゼンテーションを行うものだ。
同大学はもともと、キャリア支援につながる実践的教育に力を入れていた。同ゼミもその試行錯誤の中でたどりついたものだった。全学生にノート型パソコンを持たせ授業で活用するという「パソコン必携」もその一環として1997年度から導入。国立大学としては最初の取り組みだった。
同学部同学科の池田啓実教授と石筒覚助教授は00年度に、大学公認の「S・O・S（Students' Organization for Self-help and Official Support）」という全学的な学生組織設立に関わった。これは、パソコン必携に伴って増加するシステムトラブルなどに、意欲のある学生が相談に乗るピア・サポートを目的としたボランタリー団体。ただし狙いはそれだけではない。スタッフを認定するシステムづくりや予算などの枠組みは大学側が担うが、活動内容は学生が自ら企画し運営する。自主プロジェクト型にすることで、学生の自発性を高めようというキャリア支援の試みの一つだ。現在、20人がスタッフ登録している。
当初S・O・Sでは、学生のパソコントラブルの相談に応じる学内のサポート・デスク活動を基盤に、学生企画によるホームページ制作など学内パソコン講習会を実施した。
しかし、活動を通じて自発性を高めるという当初の狙いは、なかなか実を結ばなかった。
「自主プロジェクト活動を進めるためには、 自律創発 （自己と社会のつながりを自覚して、自分自身で創造し、発見し、発展する）的な素養がある程度身に付いていることが前提となるが、その素養修得のための手法が自主プロジェクトという矛盾が生じてしまった」と池田教授は説明する。
軌道修正をするもう一つのきっかけは、池田教授が教育研究の一環として行った、企業が新規採用者に求める能力調査だった。
00年に、上場・店頭・未上場企業から290社を抽出して実施、41社から回答があったアンケート調査で、ITスキルを必要不可欠とした企業は少なく、上位を占めたのは「専門知識」「語学力」などの知識要素と並んで、「論理的思考力」「コミュニケーション力」「プレゼンテーション力」といった素養だった。
これらを踏まえ、自発性やプレゼンテーション力を養うために「自律創発型ゼミ」が導入された。 |
| 低年次での少人数ゼミが効果を上げる |
池田教授と石筒覚助教授は01年度から、社会経済学科の1年生に対して「自律創発型ゼミ」を実験的に開始した。10人前後の少人数で、身近なテーマ、例えば「学生同士が仲良くなれるゲーム」「高知の新名物開発プロジュクト」などの企画立案やプレゼンテーションを繰り返し行った。
「プレゼンでは相手の考え方を踏まえ、自分の考えを整理して分かりやすく表現することが求められます。これは企業の求める素養と一致しているので、キャリア支援の一環として一定期間を費やせる正課で実施したいと考えたのです」（池田教授）。
同学科では、以前から1年次に、「大学学」「日本語技法」といったキャリア支援を目的とした学内共通科目の少人数ゼミを正課で週1回設けていた。授業内容も比較的自由に設定できるため、同ゼミはこの枠を利用して始められた。
「自律創発型ゼミ」は当初、池田教授と石筒助教授の2人だけが行っていたが、今年度は学科13ゼミ中9ゼミが導入。この7月には、学科主催で、各ゼミの代表がその成果を競い合う「プレゼン選手権」「ディベート大会」も開催され、同学科挙げてのキャリア支援プログラムの一環となっている。
授業の手法は教員によって異なり、その場で学生一人ひとりにテーマを与え1分間でプレゼンさせたり、テーマを全く与えず、2、3人ずつのチームで企画立案からプレゼンまでを担わせるなど様々だ。共通しているのは、教員がほとんど口をはさまないこと。例えば池田教授のゼミの場合、「企画力・コミュニケーション力・プレゼン力のいずれかの向上に関わる内容」だけを条件に、自由に学生に企画を考えさせる。プレゼン前には、必ず学生との打ち合わせの場を設けるが、池田教授は企画の問題点だけを提示し、解決策を探すことは学生に任せる。
また、プレゼンの結果も、教員に加えゼミ生全員が5段階の点数とコメントで評価する。学生の評価は成績には反映されないが、高い支持を得られた企画は、ゼミ内でプロジェクトとして実施する。
初めは、「ゼミ生同士仲良くなろう」といったゲーム企画などが多いが、慣れていくうちに「企画力をアップするプレゼン大会」など、内容も幅広くなる。学生の評価も、初めは当り障りのないものが多いが、次第にプレゼンの手法についてなどの課題をついた鋭い指摘が増えるという。
「相互評価をさせることで、他の学生の発表時も『自分は関係ない』といういい加減な姿勢で聞くことがなくなります。発表する側も、仲間の評価が得られなければ悔しいですから、企画・プレゼン手法を練り直し、再度チャレンジする。このプロセスを繰り返すうちに、『自分の進化がわかる』など自分で学び考える面白みに気付き、後期には明らかに学生のモチベーションが変わります」（石筒助教授）。
夜遅くまで残ったり、休日に登校してプレゼンの準備をする学生も多いという。また、「いつも何か面白いアイデアはないかと考えるようになった」といった感想も寄せられている。このゼミが同学科で広がったのは、こうした学生の変化が他の教員の興味を引いたことが大きいという。 |
