ベネッセ教育総合研究所
教育力の時代
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テーマ設定から発表まで、学生主導を狙い教員は聞き役に

 同大学の方針は、自学、実践という二つの言葉に集約される。1〜3年次には実習・実験などを除いてほとんど必修科目を設けず、教養、工学基礎、専門といった科目群から自由に選択させる。自立的に学習する姿勢を持たせることが狙いで、学生一人ひとりのアカデミック・アドバイザーを教員が受け持ち、適性や全体的な専門性のバランスを考慮した履修を支援する。
 機械システム、電子情報、物質工学の三つの分野に分かれるのは研究室に配属される4年次。卒業(就職)、進学のいずれかのコースも選び、就職希望者は卒業研究を、進学希望者は必要な基礎科目の履修や、修士の予備的研究としての課題研究を行う。
「細い煙突でなく裾野の広い富士山のように、幅広く学んで最終的に専門を身に付けるというイメージです。機械も情報技術も材料もわかる幅広い基礎学力を背景に持った技術者、研究者の育成が目標なので、単科大学を貫き、学際的なプログラムとしているのです」と、成清(なりきよ)辰生教授は話す。
 実践的教育という方針は、1年次から強く表れている。化学、物理などの実験のみならず、設立当初から導入している学外実習(企業でのインターンシップ)など実践的な科目が、集中的に配置されているのだ。
 「医学生が付属病院で学ぶように、工学部でも企業や学内の工場で、まず『臨床』的な視点を養うわけです。トヨタの創業理念の『現地現物主義(実地主義)』を受け継いだ方針です」(成清教授)
 入学直後の4月の第1週から、工学セミナーが週1コマ14回にわたり必修で開講される。身近な工学関連の技術などを追求する授業で、7、8人程度の小グループ単位でテーマを自由に設定し、調査、検討の後、全員を前にしたプレゼンテーションまでを行う。これまでの例を見ると、「太陽電池、燃料電池withナノテク」「センサーについて―生卵とゆで卵の判別」「ビリヤード―軌道計算への挑戦」といった多彩なテーマが並ぶ。製品を自作することもあり、発表会で手製のホバークラフトを見事宙に浮かせた例もある。セミナーの成果は専門的知識の把握とまではいかないが、技術の概要をつかむレベルには達するという。
 このセミナーは、一般学生の受け入れをきっかけに、96年度に導入教育として始まった。「1年次のカリキュラムは、微分積分や力学など基礎的な科目が中心なので、なぜこれらの知識が必要なのか学習の動機付けをするのが狙いです。また、チームプレーを経験することで、個人の力をチームに融和させていく手法も学べる。オリエンテーション的な位置付けもあります」と、成清教授は話す。
 そのため、学生が議論を通じて自分たちで問題を発見・解決していくことを重視。各グループに1人教員がつくが、調査の進め方を指導したり、研究・製作の場として研究室を提供する程度にとどめ、議論の場などでは聞き役に徹する。しかし、学生主導にするとまとまりがなくなる恐れもある。そこで、毎年セミナーの開講前に、担当教員全員で授業の進め方や評価の視点などを徹底して話し合う。年齢が少し高く、実務を経験している社会人学生を各グループに最低1人は配置し牽引役とするなど、細かい配慮もしている。授業は、議論や報告、製作などの時間と位置付け、資料探しには課外の時間を使うよう指導。その点では全寮制である強みが発揮され、寮で作業するなどより多くの時間を費やさせることが可能になっている。


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