ベネッセ教育総合研究所
キャリア教育再考
IPUコーポレーション
チーフディレクター
松高 政(まさし)
PAGE 2/2 前ページ


大学固有の課題に着目を

 私たちにキャリアの授業や講座を依頼される大学も増えている。できるだけ学生のためになるプログラムを実施したいため、事前に十分な打ち合わせをさせていただく。授業を組み立てるために、より具体的に各論まで話を聞く。大学として学生の現状をどのように分析し、把握しているのか。その結果、何を課題と考えているのか、それはどうしてなのか。しかし結局、「大学生とはこうあるべき」「こういう意識をもたせなくては」、さらには「大学教育とは何ぞや」という、大学の側から見た一般論に落ち着くことも多い。
 こちらが探ろうとしているのは、「その大学で学ぶ学生」はどんな課題を抱え、何に戸惑っているのか、何を知りたがっているのか、どんな情報やきっかけがあればその課題を乗り越えられるのか、という学生の側に立った観点である。これらがつかめなくては、幕の内弁当的にあれもこれも盛り込んだ、狙いが不明確な、結局「やっただけのキャリア教育」となりかねない。
 キャリア教育を取り入れる理由は、大学によって様々だ。学ぶ意欲の低さ、職業観・勤労観の希薄さ、就職ガイダンスへの出席率の低下、人間関係が円滑に結べない等など。しかし、大きな理由としてよく挙げられる「職業観の希薄さ」という問題一つをとっても、大学によって状況はかなり異なるはずだ。職業観とは学生のどのような内的メカニズムなのか。入学時にはどんな意識レベルにあり、学年進行とともにどう変化するか。そして、そもそも学生のどのような「意識」がどんな状態になれば職業観が高まったといえるのか。
 このような議論はこれまであまりされてこなかった。効果に関する客観的な検証がないままキャリア教育が広がれば、資源の無駄遣いになるだけでなく将来の労働力(人的資源)の質にもかえって悪影響を及ぼしかねない。逆に、経験から学び優れたキャリア教育を構築すれば、職業に対する態度も基礎能力もしっかりした若年労働力を準備することができるだろう。

「あるべき論」からの脱却

 それぞれの大学がどんな課題を抱え、どんな取り組みで対応し、どんな成果を挙げているかという情報が外部に出てくることも少ない。そのため、客観的な議論によって検証され、キャリア教育に対する共通理解が形成されているとは言いがたい。大学により、関連している人により、捉え方が異なり、その中で試行錯誤が続いている。
 そのためにも、「あるべき論」でなく、キャリア教育の実態をみる「である論」を踏まえることが重要になる。それが冒頭の“Stop to Think”につながる。できるだけ実態を正しく捉え、データを使って議論すること。現実を知り、それを引き受けてのリアルな議論をくぐり抜けなくては、キャリア教育もいずれブームとしての終焉を迎えるかもしれない。そうならないためにも次回からは、可能な限りデータを活用しながら、キャリア教育の実態と課題、あるべき方向性を探っていきたい。
******************************
 この連載では、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと願っています。ご意見、ご感想、そしてご批判を編集部までお寄せください。その後の内容に、できる限り反映させていきたいと思います。


PAGE 2/2 前ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse