ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
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年代別に区切られた、3種類のリカレント講座

 東京オフィスの代表的な活動がリカレント講座の開設である。受講対象者を年代別で三つに区切り、それぞれに役立つテーマの講座を設置しているのが特色だ。同窓会活動への関心が薄い20〜30歳代の若い世代を取り込むねらいが、この試みの背景にはある。
 講座は一方通行的な講演方式ではなく、ディスカッションも取り入れた様々な内容を用意している。卒業生が講師を務める場合は、すべてボランティアだ。
 月1回、年間11回にわたる講座を開設しており、定員は約30人、原則として1年間の入れ替え制をとっている。
 中心となるのは、40歳代を対象として3年前にスタートした「三日月塾」で、同大学のシンボルマークからネーミングされた。講師は、オリックス会長・宮内義彦 氏をはじめ日本を代表する企業のトップを務めた卒業生などが交代で担当している。主要テーマは「モラル」。今後、ビジネスの中枢を担っていく人たちが対象だけに、「ビジネスの具体的なノウハウではなく、企業や社会での責任ある姿勢について説く内容になっている」という。
 一方、三日月塾を修了した人を対象に今年2月から始まった「弦月(げんげつ)塾」は、さらに知的レベルを向上させたいという卒業生の要望に応えたもの。「他の講演会では聞けない人の話を、車座になって聞くこと」が目的だ。ただし弦月塾の講師は卒業生ではなく、企業の部長クラスの人などを講師として招聘している。
 20〜30歳代の卒業生を対象に設置されているのが、弦月塾と同時にスタートした「新月塾」だ。三日月塾で学んだ卒業生が講師を務める。「先輩に教わったことを後輩たちに返していくべきではないかという発想」から始まったもので、2年間で延べ60人いる三日月塾修了生のうち10人が希望して交代で講師を務める。テーマは講師に任されており、マーケティングなどの話をする人が多いという。
 こうしたリカレント講座は、同窓生の異世代間ネットワークの強化につながる。さらには、この講座でビジネスパーソンとして成長した卒業生がそれぞれの職場で活躍することで、大学のイメージアップも期待できる。卒業生が、大学の力をPRするメディアの役割を果たすわけだ。

目先の就職支援ではなく、キャリア教育支援へ

 多くの大学が卒業生に期待するのは、財政支援、学生募集、さらに在学生に対する就職支援などだ。しかし、重名支部長は、「そうした目先の問題の対応ばかりに追われていては、情報収集や発信を行う戦略拠点として十分に機能しないのではないか」と疑問を投げかける。
 東京で就職活動を行う同大学の学生には、東京オフィスは会社訪問をする際の拠点としても活用されている。オフィス内には、スーツに着替えるためのロッカー、資料検索のためのIT機器など万全の設備が整えられている。
 オフィスのスタート当初は、訪問先の会社に知り合いがいる卒業生が、あらかじめ電話を入れておくなどの支援も行っていた。確かに同窓生の多くは企業に所属し、人脈も豊富に持っている。しかし、先輩のネットワークを頼りに就職活動をしても、結局は学生のためにはならないと考え、最近ではそうした支援をやめた。そして、「就職支援は、もっと根本的なところから行うべきだ」との結論に至ったのだという。
 そこで新たに構想されているのが、大学の新入生に対するキャリア教育への協力だ。実業界で経験と実績を積んできた先輩が後輩に対し、就職につながるキャリア教育を支援することは大きな意味があるはずだ。
 例えば、1年生を対象にしたキャリアプラン育成に役立つ冠講座を学部内に開設し、そこに東京オフィスから卒業生を講師として送り込む、といったことなどが検討されている。

首都圏の立地にこだわり、ブランド戦略を展開

 東京オフィスの設置においては、大手ファッションメーカーで海外有名ブランドのマーケティング戦略に長く関わってきた重名支部長の経験が生かされている。
 とくにこだわったのは立地だ。所在地は東京・丸の内、皇居のそばである。「マーケティングでは、ショップをオープンさせる場所はとても重要です。本学が満を持して東京に出てくるからには、それにふさわしい場所であるべき。この効果は今後必ず表れるはずです」。
 戦略拠点としての東京オフィスには、関西で定着している同大学のブランドイメージを、首都圏でも浸透させていくというもう一つの役割がある。そのため、「東京オフィスの立地から、オフィス内のレイアウト、活動内容に至るまで、ブランドイメージの統一を図った」のだという。
 現在、同窓会東京支部の会員は1500人ほどだが、東京オフィス開設と同時に、会員数も増え続けているという。
 東京オフィスでの成功を下敷きにして、大学では、今年度中に大阪オフィスを開設すべく準備を進めている。
 同大学のように、明確なビジョンの下で同窓会との連携を進めていく方法は、大学と同窓会の関係を考えていく上での好例といえるのではないだろうか。


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