ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
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【レポート5】酪農学園大学
高校教員との対話
学長懇談会で緊密な関係づくり
 酪農学園大学では、卒業生の高校教員を対象に、学長らとの懇談会を毎年開いている。学科ごとの教育内容や入試の変更点について説明し、生徒たちに情報を発信してもらうことが狙いだ。

仙台を含む6〜7会場に、計60人が参加

 学生募集戦略において、高校への直接的なアプローチの重要性が指摘される中、酪農学園大学でも、年間のべ370の高校を訪問している。そこでは進路指導主任などが応対することが多いが、その場合は受験生一人ひとりに対する影響力はあまり期待できない。授業や他の業務の合間をぬって会ってもらうため、十分な意思疎通が難しく、大学案内や募集要項を置くだけで帰ることもあるようだ。
 そこで同大学では、受験生と直接結びついているクラス担任に着目した。といっても、高校では一般的に進路指導担当者が窓口になり、担任に直接アプローチすることは容易ではない。そこで、卒業生という独自のネットワークを生かそうと考えた。大谷俊昭学長は、「高校教員をしている卒業生は、農業高校を中心に道内にのべ410人おり、そのシェアはトップクラスです」と話す。高校での勤務時間外に学校外の会場に来てもらえば、密度の濃いコミュニケーションが可能になると考え、2001年度から「同窓生(高校教員)との教育懇談会」を実施することにした。
 道内を中心に6〜7ブロックに分けての巡回方式で、次年度の入試概要がほぼ固まる6月下旬から毎週金曜日に開催。近隣の高校に勤める卒業生に招待状を出し、大学側からは毎回、学長と学科長、入試担当者が出席する。04年度は、札幌、函館、旭川、帯広、美幌、静内、仙台で開く。各会場には毎年10人前後が集まり、全体では01年度が46人、02年度65人、03年度63人の卒業生が集まった。
 懇談会の内容について大谷学長は、「学生募集が思わしくない学科のテコ入れが主な目的」と説明する。また新しくできた環境システム学部について、高校側から「教育内容がよく分からない」という声が多く聞かれたため、その説明も主たる目的の一つだったという。「公式な発表だけではなく、大学の実情をざっくばらんに話しています」(大谷学長)ということができるのは、母校のために集まってくれる「身内」「応援団」だからこそともいえる。
 大学側が発信したい情報だけでなく、高校側から求められる情報も積極的に提供している。例えば、「自分が送り出した学生の近況が知りたい」と言われれば、担当の学科長が持ち帰って後日連絡を入れたりする。「こうした双方向のコミュニケーションが、信頼関係の強化につながっていくと思います」と大谷学長。

開催後の連絡、情報提供など、継続的な関係も生まれる

 4年間続いている懇談会で成果は上がっているのだろうか。大谷学長は、「従来の高校訪問も続けており、教員OB会などとのつながりなど様々なチャネルで働きかけているため、懇談会だけの効果を定量的に判断するのは難しい」という。
 しかし、参加した卒業生から大学の教員に質問や相談の電話があったり、入試課に受験する人数を伝えてくることは毎回ある。卒業生が校長や教頭を務める高校が、保護者をキャンパスに案内し研修会を開くなど、関係は密になりつつある。
 大谷学長は、懇談会の意義について次のように語る。「大学にとっては今や、一つの会場で1人とか2人の受験生を確実に確保することが大事です。たとえコストがかかっても、こうした地道な努力の積み重ねこそが、最終的に学生募集に反映されると思っています」。
 卒業生に高校教員が多い同大学ならではの取り組みといえるが、その特色をより強化する方策も打ち出している。03年度に教職センターを設置したのもその一例だ。教員志望の学生を支援する部署で、専任教員には高校の校長経験者や教員採用の実務に詳しい人を採用した。現場とつながりをもつ教員を迎えることで、教員採用率をさらに高めることが狙い。高校により多くの教員を送り出すことで、高校とのパイプを太くし、コミュニケーションを密にしようというわけだ。大学の特色を最大限に生かした、卒業生との関係作りといえそうだ。



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