ベネッセ教育総合研究所
特集 顧客・応援団としての卒業生
 
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ネットからのカード寄付も

 リポン大学では、寄付金集めでも卒業生から強力な支援を得ている。アメリカでは私立大学に対する国や州からの補助金がほとんどなく、自助努力で運営資金を確保しなければならない。一方で、授業料を抑えて公立大学との競争を少しでも優位にする必要があり、寄付集めの重要性が高まるわけだ。
 「寄付の依頼は、大学から直接するよりも同窓生からの方が効果的」と、卒業生リレーション担当室ディレクターのラリー・マルコ氏は話す。同窓生の頼みだと断りにくく、他の仲間がやっているなら自分も、という心理が働くようだ。大学が卒業生ユニオンを組織して理事を選出、仲間への働きかけを依頼している。もちろん、寄付による支出が控除対象になるという税制が、アメリカの大学における寄付文化の土壌となっているのは間違いない。
 近年は、ネット上からクレジットカードを使って寄付ができるシステムを導入する大学が増えている。缶ジュース1本の買い物もキャッシュレスで済ませるといわれるほどのカード社会・アメリカならではのシステムで、オンラインショッピングの気軽な感覚で母校を応援してもらえる有効な仕組みといえそうだ。
 導入したばかりの同大学では、利用は寄付金総額の1%に過ぎないが、書類作成の手間を省きコストが削減できるなどメリットが大きく、今後PRを強化したいという。委託先のコンピュータ会社によるセキュリティ管理で、個人情報の保護についても万全の体制をとっているという。
 これらの活動によって、大学総収入に占める寄付の割合は、卒業生からのものが8%、両親やその友人が6%。学外の教育基金からの寄付も27%あり、学生からの授業料は総収入の30%程度に収まっている。在学生の90%以上は、寄付を基金にした奨学金などの学費支援を受けており、平均すると一人あたり1万8000ドルになる。これは、一人分の学費の70%に相当するという。マルコ氏は、「在学中に学費支援を受けている学生は、卒業して経済的に安定したら大学に恩返しをしようという思いを抱いてくれます」と説明する。
 卒業生がボランティアで学生募集を手伝ったり、身銭を切って財政を支えたりする文化は、どのようにして醸成されるのか。一つの要因として、アメリカ社会におけるボランティア意識の浸透が挙げられる。しかし国勢調査局によると、アメリカの10代の若者でボランティアに関わっているのは29%に過ぎない。これに対し同大学では、65%の学生が何らかの活動に参加。大学が、教育理念に基づきボランティア活動を推奨しているからだ。マルコ氏が「ボランティアや寄付は始めると習慣になる」と解説するように、在学中の経験が卒業後の意識をも育んでいる面がありそうだ。
 母校への帰属意識は同窓生の結束力とも関係している。学生の90%がキャンパス内の寮に住む同大学の場合、授業以外でも学生同士が密に関わり合い、卒業後も力を合わせて大学を盛り上げていこうという機運が継承されやすい。

卒業生にもメリットを

 もちろん、大学側からも積極的に卒業生に働きかける。各種イベントの案内や季節ごとのグリーティングカード、広報誌の送付等で継続的に大学や在学生、卒業生の情報を提供している。卒業生向けホームページでは、オンラインコミュニティを設け、ネット上での名刺交換や同窓生の情報検索ができるようにした。
 大学が卒業年度を5年ごとに区切って頻繁に開く同窓会には、毎回600〜700人が参加する。さらに、スペシャル・アニバーサリー・イベントとして、卒業生が在学生や学長と会う機会を年間100回も設けている。多くは会費制で、収益事業でもある。
 こうしたイベントは、卒業生にとって親睦以上のメリットがなければ、毎回大勢を集めることはできない。転職の多いアメリカでは、母校でのイベントを情報収集や人脈作りの場として活用する人も多いという。同窓生組織や母校が有益なコミュニティとして機能しているわけだ。イベントに参加できなくても、寄付をして関係を維持する人もいる。転職時には大学が相談に応じ、企業などに提出するレジュメを発行するため、緊密な関係を保ちたいと考える人が多いようだ。
 こうしたコミュニケーションを円滑にする上で、大学にとって重要なのが卒業生情報の管理である。およそ1万人の卒業生のうち正確な情報を把握しているのは1500人。転職に伴う転居などが頻繁にあるため、いかにして最新情報を入手し更新をかけるかが課題だ。
 そこで、大学では卒業生に広報誌などを発送する際に、切り離し式の情報更新カードを添付したり、寄付金申込書の裏に情報記入欄を設けるなど、目に触れやすい部分で最新情報の提供を呼びかけている。もちろんホームページ上でも更新できるようにしている。
 リポン大学ではこのように、卒業生がボランティア活動や寄付によって学生募集や学費の支援を担い、支援を受けた学生は卒業したら自分が支援する側に回るという連鎖、循環ができている。「卒業生にとって大学は一生付き合うコミュニティであり、家族のようなものなのです」とマルコ氏。
 今後は、GEO CODE MAP(地理情報コードによるマッピングシステム※)を、学生募集や寄付集めのツールとして活用していく方向だという。
※GEO CODE MAP
 測地専門会社のDes Lauriers & Associates,Inc.がGIS(地図情報システム)を使って開発した。卒業生、在学生、大学への資料請求者の住所等のデータを入力し、地図上で様々な情報を表示できる。例えば、ある学部への資料請求者の自宅から5マイル圏内に住むその学部の卒業生を検索し、大学はその中でボランティア協力に同意している人に資料請求者へのアプローチを依頼することができる。


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