ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
PAGE 11/22 前ページ次ページ


様々な設置主体による学校教育の活性化に期待

――特区では、株式会社による学校の設置も認められましたが、学校法人以外が運営母体となることでどんな影響があるのでしょうか。
檜木 基本的には文部行政全体の中で評価することでしょうが、新しい設置主体が入ることによって、これまでの学校法人とは違った視点で教育を行うようになります。それが、既存の学校の教育にも刺激を与えるということだと思います。  もちろん教育機関ですから、継続性や安定性などの条件はクリアしなくてはなりません。そのため特区法では、株式会社立の学校の設置にあたっては一定の条件を設けています。すなわち株式会社の経営が悪化したときには、自治体が学生の転学の斡旋なども含めたセーフティネットを用意するよう義務づけています。
 現在、10以上の自治体で株式会社などが運営する学校の設置が認められていますが、それだけ自治体の期待も高いということなのでしょう。今後もこのような株式会社立の大学や大学院は増えると思います。

――高等教育の分野では、株式会社立の大学や大学院の設置以外にどのような規制改革が行われているのですか。
檜木 最も多いのは、学校をつくりやすくしてほしいという要望です。高等教育機関は初等・中等教育機関と比べて、教員資格についての自由度は高いため、例えば、校地・校舎の自己所有原則や、運動場や空き地の確保などの規制をはずしてほしいという、物理的な設置基準を緩和する方向への要望が出され、認められました。
 また物理的な設置基準以外にも、実際に大学を設置した主体から専任教員の問題などが提示されており、こういう提案も増えてくると思います。

――そのような規制緩和によって高等教育への新規参入が容易になったことを、既存の大学はどう考えればいいのでしょうか。
檜木 高等教育に関する教育特区では、株式会社立の大学が誕生したことだけがクローズアップされ、既存の大学に対する脅威のように思われている面もあるようです。
 しかし特区法が目指したのは、従来の大学の枠組みを壊すことではなく、大学教育に対するニーズをできるだけ反映させることです。特区は新規参入者だけにメリットのある制度ではありません。例えば大学設置基準では、校舎面積の3倍以上の校地を確保し、しかも自己所有でなくてはなりませんでしたが、特区ではそのような自己所有の必要はなくなりました。自治体に働きかけて特区計画を作成すれば、自分たちもその緩和された基準が適用されるのです。
 また、教育分野以外でも大学が利用できる規制緩和はいろいろとあります。そうしたメリットの方に目を向けてもらいたいと思います。
 例えば、大分県と別府市が共同申請した「留学生特区」では、当該特区における留学生が公営住宅を利用できるように措置されています。公営住宅は家族世帯向けに設置されたもので、本来なら単身の留学生は入居できません。しかし、この留学生特区では、空室を留学生宿舎として利用することができます。物価の高い日本で住まいの確保に苦労している留学生を数多く抱える大学では、この規制緩和は十分に利用価値が高いと思われます。
 また、外国人の在留資格についても特区では制限が緩和されています。一般には海外の研究者の在留資格は3年間で、その研究者がベンチャー企業を興す場合には在留資格の変更が必要ですが、特区では、起業もできるような幅広い在留資格とし、有効期限を最大5年間にできることになっています。この規制緩和も、外国人研究者の多い大学では有効に利用できるはずです。

――特区の規制緩和はすべて利用できるということですね。
檜木 そうです。規制緩和のメニューはホームページにも掲載されています。それらをうまく組み合わせれば、既存の大学であっても、新しい教育の工夫は十分に可能です。特区制度は、株式会社だけのものではないということをぜひ強調しておきたいと思います。



PAGE 11/22 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse