ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
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資格試験予備校として培った人材と手法を活用

 LEC東京リーガルマインド大学では、センター試験利用入試を除いて、高校での教科教育における学力を測る試験は実施せず、判断力、推理力、論理性などを見る適性試験、小論文、面接によって合格者を決定している。
 「資格試験の勉強で1カ月間何もしないことはあり得ないので、基本的に長期休暇がありません。広いキャンパスもなく、普通の大学生活を送りたいという学生には不向きなので、そこをきちんと理解した上で入学してもらうために、面接を重視しています」と白石課長は説明する。
 LEC東京リーガルマインド大学では、学生のライフスタイルの多様化に対応し、昼夜開講制を導入、土日・祝日も開講している。授業はビデオやカセットに記録され、学生の補講、自習や復習に利用することが可能だ。「誰がどこで勉強しても理解できるよう、長年にわたり指導法を工夫してきました。大学の授業でもそれを踏襲しています」。
 授業の教材化に当たっては、資格試験予備校で培った指導ノウハウが生かされている。授業には必ず記録員を配置し、ビデオ撮影と併せて、教員の発言や黒板に記した内容をすべて記録。カセット教材で耳から学習する場合にも配慮し、授業中には「これ」「そこ」といった指示語は一切使わないよう、教員に対する指導も徹底させている。
また、教員の下に何人ものスタッフがつくチーム制を採用。テキスト作成スタッフも含むチーム全体が連携し、常に授業内容を把握できるシステムになっている。従来の大学におけるFDに相当する試みだ。
 教員評価にも厳しい基準を設けている。学生に対しては、話し方、わかりやすさ、専門知識の有無、教材内容などについて、すべての授業でアンケートを行う。その結果を参考にして教員は改善に努め、実際に授業が改善されたかどうかを専門スタッフが審査。その評価に応じて、教員の処遇が決められる仕組みになっている。また、教員採用については、経験・実績が浅い場合には、書類審査と面接試験のほかに模擬授業審査を実施。採用後は講師研修、模擬授業研修を経た後に、実際の授業を担当するようになっている。
 学生を生活面・学習面で支える仕組みもユニークだ。33〜34人で構成されるクラスごとに、クラス担任を置き、チューター、キャリアコンサルタントも配備して、全面的に支援している。
 クラス担任は教員が務め、キャリア開発科目や教養科目の出席・成績管理、低学年次の学習支援や生活指導を担当。携帯メールを利用した「カウンセリングメール」を通じた相談にも対応しており、学生の利用率は非常に高いという。
 専門科目については、同じ資格を目指すLECで勉強した人がチューターとしてフォローする。現在指導を担当しているのは、同資格の講座を受講し、一定の能力レベルに到達したスタッフだが、将来的にはLEC大学の先輩が後輩を教える形を目指す。これとは別に、電話やインターネットで学習相談に応じるテレホンチューター・インターネットフォロー制度を設け、時間外の質問にも素早く回答している。
 注目されるのは、2クラスに1人程度の割合で、「キャリアコンサルタント」という厚生労働省の認定資格を得た専門相談員が配置されていることだ。高学年の場合は、具体的な就職先についての相談がメインになるが、低学年のうちは、将来の進路や目標をしっかり決めるためのナビゲーターとしての役割を果たしている。
 職員についても、既存のLEC職員を大学でも活用することで、マンパワーの流用を図っている。将来的にはLEC東京リーガルマインド大学で資格を取得した卒業生の採用も見込まれることから、学内の「循環型人材活用」という点でも注目できる。
 保護者との連携を密にしていることも、他大学にはあまり見られない点であろう。最近、学期末に成績を通知する大学も出てきたが、LEC東京リーガルマインド大学では月1回の頻度で「成績報告書」を送付している。本人や保護者の期待通りに学習が進まない場合には、大学が状況を判断してプログラム変更の勧告も行う。例えば、法曹養成プログラムの学生でも、成績によっては別の進路選択を促すわけだ。「学生に高いモチベーションを保ったまま勉強を続けてもらいたい」(白石課長)との願いからで、入学時には、勧告を受けることに同意する誓約書を学生と保護者に書いてもらっているという。

科目等履修生と単位互換で学習機会を広げる

 LEC東京リーガルマインド大学の経営のもう一つの柱が、科目等履修生の受け入れである。今年4月時点で120人が登録。年代は20・30歳代を中心に60歳代まで、目的は主にキャリアアップや生涯学習などだ。今後は、科目等履修生の中から、正規生として編入する学生の割合が増えていくことも予想される。
 提携大学との単位互換制度も実施している。現在はまだ埼玉県の1大学のみだが、国内外を含む数校と提携の話が進行中だ。提携校を増やすことで、「他大学と補完し合える関係を目指していきたい」と白石課長は強調する。
 国内初の株式会社大学として設置自体が注目を集めているが、教育内容の充実や学生満足度を向上させるための工夫など、様々な取り組みが行われている。今後の大学教育が向かうべき方向を先取りしている点も少なくない。



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