ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
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下関市大の財政改革の方向性

 一方、下関市立大学の予算は、市の予算の0.6%。過去の自主財源率は02年度102.3%、01年度99.9%、00年度84.2%となっている。学生納付金などで黒字になり市に還元された年もあることになる。このように特異な財政構造について、下関市大に話を聞いた。
 市の人口は25万人。下関市大は経済学部のみの単科で、学生数は2200人、教員は52人。教員一人あたりの学生数の多さについて、学生部長の米田昇平教授はこう説明する。「教員は委員会をかけ持ちして管理運営業務に奔走しながら、教育でも大きな負担を引き受けるなど、努力している。それでも教育の質という点で、学生にしわ寄せがいっていることは否定できない」。専門ゼミは1クラス14、15人で、「他の国公立と比べると厳しい環境だ」と指摘。
 今春着任した植田泰史事務局長は、これまで市の経済畑を歩み、下関市大の教員に助言を求めることも多かったという。「これほど厳しい環境で研究しているとは全く知らず、驚いた」。
 04年度の一般入試の志願倍率は12.5倍。入学定員の半数を中期日程入試で集める独特の募集形態で、国立志望者など優秀な学生が全国から集まり、地元以外からの入学者が半分を占める。「市の経済にも一定の波及効果をもたらしている一方で、充実した学生サービスを提供できないのは大きな問題」と植田事務局長。
 大学側は繰り返し市に支出を増やすよう求めてきたが、実現に至っていない。同事務局長は「市大を担当する部署が役所内に事実上なく、責任の所在があいまいなことも要因だった」と指摘する。このほど総務部が担当部署となり、交渉相手が明確になった。「財政が厳しい市から理解を引き出すには、説得力のある理由で戦略的に要求していく必要がある」と同事務局長。
 戦略のキーワードは地域貢献と地域性の発揮だという。米田教授は、社会的関心が高い朝鮮半島に関する研究の強化を例示。「下関市と釜山は姉妹都市で、隣町という感覚が市民の間にある。今は東アジアの専門家は非常勤の1人だけだが、朝鮮半島の言語や文化、経済の教育と研究を充実させ、大学の個性を打ち出したい」。
 今後、市との交渉では法人化もテーマになりそうだ。植田事務局長は「メリットとデメリットを明確にした上で、大学としての主張をしていきたい。行政改革的な視点に終始した実のない議論はすべきではない。少ない教員で公開講座にも力を入れており、今後は市民にも理解していただける改革を進めていきたい」と強調した。


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