ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
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■抱える課題の重み
財政難が新規事業を阻む


 もっとも、公立大学の現実には、厳しいものがある。
 第一に、地方財政の悪化と中央政府の三位一体と称する圧力がある。地方交付金の後退は、特に地方の小規模な自治体に重くのしかかっている。これらの自治体は従来、地域間の不均衡な発展を調整する地方交付金によって、相対的に大きな恩恵を受けてきており、その削減によって、強圧的に“自立”を求められているのが実情である。また三位一体という改革が、地方分権の推進というスローガンとは反対に、地方に対する中央の新しい形の統制力を作り出し、再強化する結果を招来していることも、否定できない。
 これら財政のマイナスの影響力は、特に大学教育の面において著しく表れている。今や新時代の大学に対するニーズにこたえる新規事業はほとんど不可能となり、研究費は大幅に削減され、教室の環境も悪化しつつある。たとえば光熱水道費節減のため、夏季の講座・講義において室内の温度が適温を保てず、教員ともども学生が苦しんだ例も少なくない。
 第二に、法人化という選択肢を持つようになった中、大学行政・運営・マネジメントの専門家がほとんど育っていない。この点に関し、自治体から派遣されてくる事務局員が2〜3年で交代してしまうマイナス面は計り知れないほど大きい。また教員の一般的傾向として(例外はあるが)、教育には当然のことながら熱意を示すものの、大学の行政・運営にはほとんど関心を示さないという点が挙げられる。関心を示すとしても主として“要求”であって、建設的な“提言”が少ない。
 第三に、各地域に教育の専門家ないし協力者層があまり育っていない。これは、そもそも大学というものの数が限られており、大学教授は地域のシンクタンクとしての役割を求められることが多く、民間の側から大学のカリキュラムや教育に対して発言するという習慣がなかったということとも関係しているであろう。
 しかし、これでは大学改革の主要な柱となるべき社会の側からの評価という文化は育たない。その意味で現在の大学改革には、人々を納得させる“公正な”基準もなく、成熟した評価方法もない。

■改革の模索
学長の指導力強化が課題


 それにもかかわらず、公立大学は改革と法人化という新しい時代に入っている。財政改善に直接関係するとの期待から、複数大学の統合が地方自治体から強く求められ、特に地方の場合には、四年制の公立大学以外の短期大学や特定の専門的学校との統合が焦眉の急となっている。
 法人化や統合を決めている公立大学の具体的な名前は、本誌でも別掲の予定と聞いているが、すでに04年度に発足した個性的な秋田国際教養大学を例外として、一般的には大都市での法人化・統合の進行が目立ち、05年度にこれらを予定しているところには、東京・大阪・横浜・広島、そして岩手・山梨・北九州・長崎の諸大学がある。また、その他の地方の大学でも計画が急進展しており、06年度から07年度にかけては、いわばなだれ現象といってもいいような激変が予想される。
 問題は、その改革の中身である。公立大学の場合には、地域による多様性と並立性が大きく、また地域密着の状況も多種多様で、学部・学科の再編、カリキュラムの再検討も容易ではない。このため法人化と統合の相互関係も多種多様である。
 また、教育の専門家といえる人材が地域に育っていない現在、どのようにして教育専門の教員・事務局員を分離・育成するかも、これからの数年間の課題である。はたしてアメリカのように、博士号を持っている研究者を教育専門のコースから教育行政専門のコースに移すことができるのか、あるいは教育に特化した職員を一般の行政職から切り離すことができるのか、その場合の政策決定はどうなるのか、難問は多い。
 当面は、設置者との連携を再強化しつつ、学長・理事長(あるいは理事長兼学長)のリーダーシップを相対的に強化していく選択肢が採用されていくであろう。その場合、教職員の意見を聴取した上で施策を進めるシステム・方法を確立していくことが望まれる。
 今後の国・公・私立大学の関係も微妙である。地方の場合には、法人化した国立大学との競合と棲み分け、相互補完が中心となるであろう。大都市の場合には、国・公・私立大学の入試方法の多様化と競合が中心となるであろう。いずれにせよ、今後、社会的ニーズのもと実学的教育が進む中で、なぜ教養を含む大学の公的教育・存在が有意義かを明示していくことが、公立大学の生き残りのカギである。



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