ベネッセ教育総合研究所
特集 高等教育分野への新規参入者たち
 
PAGE 14/22 前ページ次ページ


■職員養成の課題
行政の人事制度に縛られ、専門家が育たない構造に


 このように、大学が地域貢献を果たしていくためには、予算や施設管理と教員の補佐業務といった従来型の事務局機能から脱皮し、大学のミッションを踏まえ、大学の外との有機的連携を構築し、協働を推進していくためのより専門的で高度な能力と熱意を持つ大学事務職員が求められる。アメリカにおける「アカデミックアドミニストレーター」のような職能の確立が必要である。
 しかし、このような専門的大学経営人(アドミニストレーター)の確保という点で、公立大学は大きな問題をかかえている。国立大学法人の事務職員はこれまで大学間または大学と文部科学省との間を異動し、私立大学事務職員は原則として定年まで同じ大学に勤務する。これらに比べて、公立大学の事務職員の場合は、自治体の中の様々な部署からたまたま大学事務局に転入してきて、2、3年たつと自治体の他の部署に転出するというのが一般的である。
 そのため大学経営の専門家が育たないシステムとなっており、「素人による大学運営」というのが多くの公立大学の実態である。自治体の様々な部署でいろいろな種類の仕事を経験し、幅広い視点を持つ人材が大学運営にあたることには、メリットもあることは事実である。
 しかし、やっと大学経営の仕事に慣れたらすぐ異動で大学からいなくなり、後任者はまたゼロから大学経営を学び直す、という非効率は改善されるべきだ。このような事務局体制では、厳しさを増す大学間競争に勝ち抜くことはおぼつかないからである。

“広く浅い理解を求める”伝統的官僚観が壁に

 公立大学事務職員に適用される設置自治体の人事制度は、必ずしも大学経営にふさわしいものとはいえない。ジェネラリスト養成を柱とする地方公務員制度は、特定の職種に関する深い専門性を職員に求めていないからである。異なった職種体験を積み重ねることで、総合的な管理能力を向上させ、どのような行政領域でも管理者として仕事をこなすことのできる人材を養成するという、わが国の伝統的官僚制の考え方にもとづいている。特定の分野における専門的知見は、その都度専門家などの意見を聴取すればよいと考えられているのである。
 東大法学部長を務めた末弘厳太郎は、1931年に発表した「役人学三則」で、公務員の守るべき鉄則として「およそ役人たらんとする者は、万事につきなるべく広くかつ浅き理解を得ることに努むべく、狭隘なる特殊の事柄に特別の興味をいだきてこれに注意を集中するがごときことなきを要す」と、個別課題に必要以上の興味を持つことを戒める当時の官庁文化を皮肉をこめながら紹介しているが、この事情は現在に至るまで変わっていない。
 しかし、現代社会は、ますます専門化、国際化しており、これらに機動的に対応するためには、行政全般にわたり専門的知見に裏打ちされたより高度な企画立案能力が求められていることは言うまでもない。
 大学事務局職員の専門性の向上は、大学の自律的な経営にとって必須条件である。またそのことは、仮に公立大学が法人化された場合、大学の命運を決める重要な課題となるのである。例えば、今後わが国の護送船団的な大学保護政策が国際的に通用しなくなり、欧米の大学が進出してくるということも想定される。そうなると、大学アドミニストレーターは、単に国内市場だけを考えるのではなく、グローバルでより専門的な観点から大学経営を行っていくことが求められるようになる。



PAGE 14/22 前ページ次ページ
トップへもどる
目次へもどる
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse