ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
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学生の自己肯定感は有効な指標になる(藤田)

松高 低学年の時からキャリア教育を受けた学生が卒業を迎える大学もある中、成果をどう評価するかが問題になります。評価の指標としてどのようなものが考えられるでしょうか。
藤田 厚生労働省が今年から始めた「YESプログラム」は、コンピテンシーレベルの評価として非常に有効だと思います。コミュニケーション能力や職業人意識、基礎学力、ビジネスマナーなどを「就職基礎能力」と位置付け、民間の講座の修了者や資格試験の合格者に対して「若年者就職基礎能力修得証明書」を発行し能力を保証する仕組みです。小杉先生も開発に関わり、本来はNEETを対象に考えられたのでしょうが、ここで認定する能力は大学のキャリア教育でもミニマムな指標として使えるはずです。
 もう一つは、企業を対象にした調査の時系列データ。例えば、新入社員に対する評価が明確に変化していれば、キャリア教育が何らかの影響を及ぼしていると判断できるでしょう。
小杉 教育の成果が表れるには時間がかかるので、評価指標を挙げるのは難しい。変化する労働市場の中では本人の力でどうにもできない部分があるので、就職実績による評価もできません。学生が自分で意思決定ができ進路を決められるということがキャリア教育の目的ですから、それができるようになったかという自己評価が指標にならざるを得ないと思います。
藤田 そのような自己評価は多分に感覚的なものですが、データとしては非常に重要です。労働市場の変化に左右されない指標だし、数字にはそれだけで物語としてのインパクトがありますから。大学は、どの企業に何人入ったというデータだけでなく、学生の自己評価のデータも蓄積すべきです。
 さらに、心理学的なアプローチとして「自己肯定感」という指標がよく使われます。将来に対する不安や自信の喪失があるとこの指標が低くなり、キャリア意識が強くなれば高まるなど、キャリア教育との関連性が非常に強い。この自己肯定感の学生全体の変化と個人ごとの変化をフォローすることで、キャリア教育による成果を見ることができます。
松高 最近行った学生への聞き取り調査では、自分への漠然とした不安ゆえに進路選択や就職を考えようとしない、という印象を受けました。そもそも就職に意識が向かない学生に対して、キャリア教育は有効なのでしょうか。
小杉 自分に自信がない、だから将来のことを考えられないという問題にアプローチできるのは、キャリア教育以外にないと思います。
藤田 私も同感です。若者の「自分探し」ということがよく言われますよね。私見ですが、本当の自分なんて自分の中をいくら探しても見つからない。社会という鏡に映してみて初めて自分が見えるのであり、インターンシップをはじめとする社会体験、他者とのコミュニケーションが鏡の役割を果たします。その意味で、キャリア教育は内面に不安を抱える学生にこそ必要なんだと思います。
小杉 鏡の例えは私もよく使います。今の若者は心理主義的で不安が不安を呼ぶ悪循環になっている。だからこそ鏡である社会の側から迫っていくべきです。
松高 学生の社会へのスムーズな移行を促すために、大学に求められる機能は何でしょうか。
小杉 若者を自立した存在にする上で大きな責任を持つ教育の部分でしょう。その一つがレリバンスの明示であり、キャリア教育でもあると思います。
 もう一つは、職業へのパスウェイ(経路)を数多く提示すること。学卒一括採用という従来のパスウェイが細くなっている以上、別のルートも開拓すべきです。大学を出てしばらくしてから職に就く人や転職希望の卒業生への就職支援システムも整えてほしい。大学にとって卒業生は貴重な資源にもなる。卒業したら終わりではなく、長期的に関わることには意義があるはずです。
藤田 その中ではキャリアセンターの機能も大きく変わらざるを得ないと思います。在学生だけでなく卒業生にも充実したサービスを提供するために、新たなノウハウを積み上げこれまでとは違うネットワークも構築するべきです。


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