ベネッセ教育総合研究所
特集 今、なぜキャリア教育か
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学生にキャリアプランを求めるのは無理

―大学でキャリア支援、あるいはキャリア教育の必要性が叫ばれていますが。
吉澤 従来の方法では学生の自主性に任されていたので、必ずしも全体に行き届かないという面があったのでしょう。最近は、正規のカリキュラムに組み込む例も出てきたようで期待しています。ただ、キャリア教育というと、どうしても資格取得の支援に偏る傾向があるので、その点はやや心配しています。実務経験のない学生が、たくさんの資格を持っていても説得力はありませんし、企業はそういう学生を敬遠する傾向があります。

―学生にしっかりとしたキャリアプランを立てるように指導する大学も増えているようですが。
吉澤 そこに大きな落とし穴があります。あらかじめ目標を定めて、計画を立て、そこへ向かって進んでいくというふうに教えるのでしょうが、実際にそんなふうにキャリアを築いてきた人はほとんどいません。キャリアとは、その人が手がけてきた仕事の実績に応じて、後からついてくるものです。初めからロードマップのようなものを作ろうとしても、容易な作業ではありません。企業でさえ、3年先、5年先の人材戦略を描けずにいるのに、学生に「自分のキャリアプランをはっきりさせてから就職しろ」と求めても無理です。

―では、どんな教育が必要なのでしょうか。
吉澤 仕事の面白さをもっと教えてほしいと思います。ものを作ったり売ったりすることは、こんなにも面白いことなんだと。仕事の面白さが学生に伝われば、就職活動に取り組む姿勢も変わってくるでしょう。その上で、学生たちがビジネスのプロセスを理解できるような教育が必要になるでしょう。それぞれの企業や仕事の内容によってプロセスは違うのですが、私が言っているのはそれらに共通した原理、原則のようなものです。キャリア教育では職種ごとにその位置付けや役割を学ぶことが多いようですが、企業は職種ではなく組織で動いています。組織としての行動原理と合わせて、ビジネスとは何か、職業生活とは何かを教えていくべきで、そのためにはインターンシップなどを十分利用する必要があります。

ビジネスの成果を伝えるため、インターンシップ期間拡大を

―企業はインターンシップをどう考えているのでしょうか。
吉澤 負担ばかりだとの不満が募り、多少熱が冷めているような状態だと思います。ただ、学生にとっては、仕事の面白さと組織行動を体験できる良い機会であることは間違いありません。これを効果的なものにするには、制度上の改善も必要だと思います。現在のインターンシップは2週間くらいの期間が主流ですが、これでは、仕事の面白さを実感させる仕掛けもできなければ、ビジネスの成果を伝えることも難しいと思います。企業としても3カ月くらいの期間があれば、「お客さん」としてではなく、スタッフの一員としての位置付けができるはずです。

―大学として何か改善すべき点はありますか。
吉澤 確かにインターンシップを実施している大学は増えていますが、参加するかどうかは学生の選択次第です。例えば、必修化して学生が職業現場に触れる機会をもっと増やしてほしい。また、大学入学前に勤労体験をさせるといったシステムも、検討していいかもしれません。一方、大手企業には社員数に応じた学生の受け入れを義務化させることも必要でしょう。

―職業現場に触れるという意味では、企業人が大学に出向いて自らの体験を話すという方法もありますが。
吉澤 大学が企業の人材を活用することのメリットは大きいと思います。彼らがビジネスの現場を最もよく知っているわけですから。ただし、現在の企業活動は、高度化や専門化が進み、自分がたどってきたキャリアを伝えることが難しくなっています。それを整理してうまく表現できる人であれば、学生にとってはビジネスのプロセスを学べるまたとないチャンスとなります。現在は経営者層が大部分を占めますが、部課長クラスなど、もっと現場に近い人たちが大学に入っていけば、教育的な効果はより大きなものになるでしょう。

―それ以外で大学のキャリア教育に何か要望はありますか。
吉澤 もちろんキャリア教育は重要ですが、企業で職業人生をスタートすることのメリットを、もっと学生に伝えてほしいと思います。最初からフリーターの道を選ぶ学生も増えていますが、それでは職業人としての能力向上は期待できません。やはり、就職をして企業の中で実際の仕事を通じて学んでいくことが大切です。そこにつなげる手段として、大学でのキャリア教育には大きな役割があります。


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