ベネッセ教育総合研究所
キャリア教育再考
IPUコーポレーション
チーフディレクター
松高 政(まさし)
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実践に動きだした大学も

 そうなるには時間がかかるが、まずはできることからやっていこうと動きだす大学も現れている。例えばある大学では05年度から、コミュニケーション能力を養うために、全入学生を対象に1年間、集中的に訓練する授業を始める。従来も入学時からの基礎ゼミ等でこの能力の向上を掲げていたが、担当する教員によって指導の方法や内容、意識がバラバラで、なかなか効果が上がらなかったようだ。そこで、書く・話すという基本的な能力のトレーニングを外部の専門家に任せることにした。
 一方、職員自らコミュニケーション能力を身に付けようと、研修に取り組む大学も増えてきた。ある大学の管理職対象の研修では、最後に3分間、全員の前でプレゼンテーションをしてもらった。講師の厳しい指摘を受けながらの努力は、必ず学生の教育にも生かされると確信した。
 しかし、問題意識の低い教員がいることも事実だ。ある大学の教員研修で、最近の学生の文章力について話した。私たちは年間2万5000枚ものエントリーシートの添削指導をしており、現実に即して説明したのだが、質疑応答で一人の教員が「基本的な文章を書く力は高校までにきちんと指導をしてほしい。私たちはそんなことまで指導する時間がない」と発言。当事者意識のない“感想”に、コメントする言葉を失ってしまった。ただ、一部の教員の「何を言ってるんだろう、この先生は」という表情には、励まされる思いだった。
 ビジネス誌で「就職できる大学」「大学と出世」といった特集が組まれることからも分かる通り、これまで大学と社会とのつながりは、大学ランク(合格偏差値)と内定先企業のスクリーニングとカップリングの議論に関心が寄せられていた。しかし、入学者の多様化や若年雇用問題を背景に、「学校歴と企業」の議論から「大学教育と仕事」の議論へと関心は移っている。この動きにキャリア教育が果たした役割は大きい。
 ただ、現状では関心の高まりにとどまり、日々の授業の中で職業的関係性が意識され実践される段階にはたどり着いていない。今後、少しずつでも関心から実践へと歩を進めていくことによって、職業訓練の意義についてあらためて説明しなければならないという異常な社会ではなくなる日が来るであろう。



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