ベネッセ教育総合研究所
特集 教育の質をどう保証するか
 
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多様なステークホルダーを意識し、取り組み改善と説明を

 中教審答申では、高等教育の質の保証が重要な課題とされており、質の保証のためには個々の教育機関において、教育・研究活動の改善と充実への不断の努力とともに、学習者や社会の信頼を保持する上で、情報の開示を含めた質の保証の仕組みを整えることが極めて重要とされた。大学の社会的責任を考える上でも、この指摘は非常に重要であろう。
 大学が社会的責任を果たすためには、高等教育機関として高度な教育研究を行うと同時に、安定した財政の下で運営を行い、環境問題や社会問題にも取り組み、それらを社会に対してきちんと説明し、社会から評価を得ることが必要であろう。まさに、中教審答申の指摘を実践することに他ならないのではないだろうか。
 USR実践のポイントは、ステークホルダーを意識したマネジメントと情報公開・説明責任にあり、ステークホルダーを常に意識して大学の諸活動を見直すことである。
 大学におけるステークホルダーとしては、学生、学生の父母等、教職員、受験生、卒業生、予備校、後援会、高校、企業、研究者、寄付者、監督官庁、債権者、金融機関、取引先、マスコミ、評価機関、市民団体(NPO・NGO)等幅広く捉えなければならない。これらの位置づけは、国公私立等の設置形態や各大学の置かれた状況によって異なるだろう。例えば国立大学は監督官庁の影響を強く受け、私立大学なら学生の父母等がより強く意識される。アメリカでは、大学は寄付者への対応が重要とされている。
 各大学においてステークホルダーの分析を行い、そこに対応したマネジメントと情報公開を行うことが、USRの取り組みへの第一歩となる。
 国立大学法人化と私立学校法改正により、各大学は情報公開と説明責任を求められるようになった。大学は、受験生獲得に関しては新聞広告や車内広告、学校案内等様々な媒体を使った広報戦略に力を入れてきた。しかし一方で、財務諸表をホームページ等で広く社会に公開している大学は多くなく、不祥事や定員割れ等の情報の公開に対しては消極的であった。大学が社会から信頼を得るため、こうした姿勢を見直すべき時に来ているのではないだろうか。
 幅広いステークホルダーに対して情報開示を果たすための手段として、企業におけるCSR報告書に対応するUSR報告書について考えてみたい。中教審答申においては「教育内容・方法や財務状況等に関する情報や設置審査、認証評価、自己点検・評価により明らかになった課題や情報を当該機関が積極的に提供するなど、社会に対する説明責任を果たすことが求められている」と指摘しているが、USR報告書は、大学が社会に対する説明責任を果たす手段となりうるものである。
 USR報告書の作成の際には、大学が社会に対してどのような目標・戦略を掲げて、それをどのように実践しているかという具体的な取り組みのプロセスを開示することが必要である。例えば経営者や大学として社会的責任を果たすための理念や方針の明記、その理念や方針を実践するための体制(例えばガバナンス体制やリスクマネジメント体制、コンプライアンス体制など)を、構築・運用するための具体的な取り組みの明示、取り組みの結果の報告、その評価と課題についても、報告書に記述することが必要と考えている。
 これらの取り組みとそれを広く社会に公開することが、社会から評価を受け、結果として大学のブランド価値の向上、ひいては持続的成長につながるのではないだろうか。社会や第三者評価機関が、大学の社会的責任への取り組みに対して積極的に評価をすることも、非常に重要である。



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