ベネッセ教育総合研究所
キャリア教育再考
 
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「わかったつもり」を危惧

 では、そのためにどうすればいいのか。私は、講師として求められる力は、授業の「構成力」「実践力」であると思っている。この力は、何もキャリアの授業に限ったことではないが、この力が備わっていない方に講師を依頼することはありえないし、講師をやりたいという方々にはこの力を身に付けるようお願いしている。
 構成力とは、14〜15回の授業全体を構成する力(シラバス上にテーマを羅列することではない)で、毎回の授業を組み立てる力である。実践力とは、その構成した内容を、自分が話したいことではなく学生が聞きたいことを中心に、学生の反応を見ながら、学生の関心に沿って高いパフォーマンス性をもって授業を進める力である。
 私は、大学を卒業してすぐ公立中学校の教員をしていた。学習指導案を作るときはまず、単元全体の中での位置付けを考えた上で、その授業での導入、展開、まとめをどのように組み立てるか考えた。どのような発問をし、予想される生徒の反応はどのようなものか。資料は何をどのタイミングで使い、板書をどうするか。そして、授業の到達点は何なのか。たかが50分の授業でここまで考えなくてはいけないのかと思うこともあったが、それでも思う通りにはいかない。今でも、同じように考えて授業に臨むようにしているが、なかなかうまくいくことはない。
 キャリア教育の講師を対象にした研修では、キャリアの専門家である前にまず、「教える」ということはどういうことかきちんと理解してほしいと思い、多くの時間を使ってこのことを話している。しかし正直なところ、キャリアについて少し勉強しただけで、「自分は教えられる」と勘違いしている方も多い気がする。専門の研究者ですら「実態はまだよく分からない」と言っているフリーターやニートなどの若年問題についても、すべてを理解し分かったつもりになって自説を展開される方がいて、首をかしげたくなる。キャリア教育を実践できる講師が不足している現状で、「できるつもり」「分かったつもり」になって教育の場に出ていくことに危惧を感じる。「キャリアの専門家」が粗製濫造気味に生まれ、キャリア教育の成果や評価まで低くなっては本末転倒である。



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