ベネッセ教育総合研究所
高校改革のいま
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高校教育そのものを補完する第三世代の段階へ

 北海道大学高等教育機能開発総合センターの鈴木誠教授は、現在の高大連携の段階を「第二世代」と表現する。第一世代の段階は、出張授業などを通して大学の教育資産をアピールし、高校生のミスマッチのない進路選択を支援するのが目的だったという。
 その後、学びへの関心を高めることも新たな目的として付加され、高校生を大学の授業に参加させて、大学と高校の両方の修得単位として認定する第二世代の段階に入る。しかし、この第二世代の取り組みも、「ワンタイム・パフォーマンス」つまり、一回きりの動機付けに終わってしまうことが多い。例えば大学の授業を聴講した時は、高校生は目を輝かせ、「刺激を受けた」「明日からしっかり勉強したい」などの感想を持つが、それだけでは高大連携の効果としては不十分だと鈴木教授は指摘する。
 「第三世代の段階では、散発的な取り組みに終わらせず、事前に双方でカリキュラムを調整し、高校で不足している学習内容を大学で補完する必要があります。例えば、高校の生物の授業で『受精』を取り上げた場合、生徒がその瞬間を実際に見たいと思っても、設備面から高校では実験ができません。高校のカリキュラムの中でどの部分の理解を深めさせるかを明確にし、大学で学びの本質に触れる機会を設定する。そして、高校生に芽生えた興味・関心を大学の授業によって高め、高校での学びを充実させた上で将来の目標を見つけてもらう。高大連携においては、そんな役割分担が求められています」
 最近ではこのような第三世代の段階の取り組みも、一部で始まっている。例えば、愛媛大学は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定校の県立松山南高校と提携し、最先端分野の授業や実験を行う「理数セミナー」や、大学や高校の教員のもとで研究に取り組む「課題研究」を実施している。03年度の理数セミナーのテーマは「素粒子」「プルームテクトニクス(マントル対流による地殻変動)」「水の中の微生物の不思議」「結び目理論」であった。ほかに、2年生が週3回、大学の研究室に出向いて研究に参加する「大学研究室体験」も実施している。現在は、県教育委員会の主導で高大連携に関する協議会が設置され、北海道大学と他の高校の間でもこのような取り組みが広がりつつあるという。柳澤康信理学部長は「授業では非常によく質問をし、しかも的を射た内容が多いことに驚かされます。また、こちらの問いかけに対する答えも的確で感心します」と言う。
 また、岡山大学でもSSH指定校である県立岡山一宮高校(理数科)との連携を推進している。生徒は半年にわたり、毎週金曜日の5限目に理学部の授業を受講する。大学は、授業のたびに生徒に疑問や質問をカードに書かせ、次の授業までに回答を書いて返却するという手厚いケアを行っている。大阪大学でも理学部を中心に、大阪教育大学附属高校平野校舎や府立北野高校との間で連携活動を実施している。
 このように、大学と地域の高校が長期間にわたって継続的に連携授業を行うことで、より大きな教育効果を生むことは確かである。
 前述の鈴木教授は、「こうした第三世代の連携を充実させるには、小中高の教員の授業力、カリキュラムをつくる力の向上も不可欠です。教員への再教育もこれからの高大連携の一つであり、新しい形態を検討すべき時に来ている」と指摘する。
 高大連携のあるべき姿とは何か、教育の連続性を維持するためにカリキュラムをどのようにつくっていくべきか、共に利害得失を超えた視点で、協議すべき時代がきている。


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