ベネッセ教育総合研究所
特別企画  インタビュー 新課程や国立大学の日程一本化の影響
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早期合格者には入学前教育を

―近年、募集枠が拡大しているAO入試についてはどのような動きになりそうですか。

木野内
 入学者を早く確保したいという大学側の意向が強く、AO入試の募集人員を増やす傾向は今後も続くでしょう。04年度に一般入試で「全入」だった大学が、05年度入試で一般入試の募集人員を大幅に減らしてその分AOの枠を広げたため、一般入試の倍率が増えて「全入」が解消したケースもありました。
 このような大学は、一見、人気が復活したように見えますが、実際は「全入」が解消したわけではないので、AO入試でも志願者が集まらなくなった時は大変厳しい状況になることは間違いありません。

―AO入試の募集人員を増やす大学が増えると、入試の実態はますます見えづらくなりますね。

木野内
 その通りです。AO入試や推薦入試の結果は非公表とする大学が多いので、実態がなかなか把握できません。
 AO入試や推薦入試は学力試験を課さないか、課しても基礎学力試験ぐらいなので、学力レベルの低い入学者が増え、一般入試の入学者との学力格差がどんどん広がります。これは、大学にとって大きな問題です。
 実際、一般入試で入学した学生が、AO入試や推薦入試で入学した学生の学力レベルの低さに不満を持ち、もっと難易度の高い大学を目指そうと退学するケースが増えていると聞きます。また、大学教員からは、学生のレベルがあまりにも違うため授業の運営が難しいという声が聞かれます。

―何か対策はあるのでしょうか。

木野内
 まずはAO入試や推薦入試の合格者に対して、きちんと入学前教育を実施することです。早い段階で合格してしまうと、途端に高校の授業に身が入らなくなる生徒が多いことに高校教員は悩んでいます。それだけに、入学前教育をしっかり行ってくれる大学は、安心して生徒に薦められるという声をよく聞きます。
 入学後も、英語や数学については習熟度別クラス編成にしたり、リメディアル教育を充実させる必要があります。

―少子化が進む中、志願者数を維持するために今後、大学は何をすべきでしょうか。

木野内
 センター試験利用方式や後期入試の導入、地方試験会場の増加など、これまでどの大学も入試方式の様々な改定を行ってきました。しかし、これらを実施した年は志願者の増加に結び付いても、2年目以降は減少に転じるケースが増えています。
 一方、このような入試方式の改定はもちろんのこと、学部学科の新設や特色GPでの採択など、常に話題を提供している大学は、単年度では揺り戻しで志願者数が減ることはあっても、毎年減り続けることはありません。高校教員や高校生に「元気な大学」というイメージが定着し、人気が維持できているからです。
 そのような「元気な大学」にするためには、教育の中身や出口指導について改善を図り、成果や特色をもっと訴えていくべきです。例えば、JABEE(日本技術者教育認定制度)という技術者養成のためのプログラムがあります。認定大学の課程を卒業すると技術士補の資格を無試験で取得できるというメリットがあります。ところが、教員や高校生はこのことをほとんど知りません。こうした情報がしっかり伝われば、たとえ入試難易度が低くても、JABEEの認定プログラムがあることでその大学を評価し、受験を薦める高校が増えるはずです。
 また、キャリア教育や就職支援、資格取得支援を充実させ、「入学したらどのようなスキルやキャリアの向上が図れるのか」を明確に示すことも重要だと思います。



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