ベネッセ教育総合研究所
誌上セミナー 大学の財政と経営 第1回 ファンディング・システムの変化ついて理解し、備えよう
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2 公財政支出だけでなく民間資金にも関心を

 答申では、ファンディング・システムという言葉が使われています。ファンディングとは、財源、基金、資金調達、財政援助といった意味で、公的なものと私的なものに分けられます。答申ではそこの区別を明確にしないまま、主に公的なファンディングだけを念頭に置いた記述をしています。
 では、私的なファンディング・システムとはどんなものでしょうか。一言でいえば、「公的な財源以外から高等教育に資金を流れ込ませる何らかの仕掛け」のことです。高等教育に対する民間資金としては(1)家計(2)企業(3)大学、の三つが考えられます。家計からの資金を流入させるには、いろいろな進学促進策が有効です。国民の高等教育進学意欲がそれほど高くない国では、進学を促すための政策誘導型奨学金のほか、進学者の家計の減税策や所得控除などを講じます。さらに、個人が大学に寄付をしやすい寄付税制を整備することも考えられます。
 次に、企業から高等教育への流入資金を増加させるには、寄付、共同研究、研究契約などがあります。さらに、被雇用者を高等教育機関での教育訓練に派遣する形での投資も挙げられます。また規制緩和によって企業が大学教育市場に参入しやすくすることも考えられ、日本でも株式会社立大学ができています。さらに、大学の施設整備におけるPFI手法で民間資金を高等教育に流入させる方法もあります。PFIとは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力および技術能力を活用して行う新しい手法で、イギリスで始められました。今後は国立大学で、この手法による施設建築が増えると予想されます。
 三つ目に挙げた「大学による高等教育への資金流入」については、私立大学自体を挙げることができます。1960〜70年代の高等教育の拡大期には、私立大学の増加・充実が大きな役割を果たしました。設置基準の緩やかな運用を利用して、学校法人が自らの資金を高等教育につぎ込んだわけです。
 答申では、高等教育に対する公財政支出(対GDP比)の低さが強調されていますが、一方でこれまで挙げてきた民間資金が飛びぬけて大きいわけではありません。
図表
 (図表1)で分かるように、対GDP比で日本より民間資金流入が多い国は、韓国、アメリカ、オーストラリアなど。日本では民間資金を家計に極端に依存し、それ以外の私的ファンディング・システムはさほど整備されていません。高等教育関係者はこの点ももっと問題として取り上げていいのではないでしょうか。→視点・転換
視点・転換
●高等教育の公財政支出

 高等教育に対する対GDP比での公財政支出が少ないと、科学技術や教育における国際競争力が低下するとの指摘は以前から聞かれる。民間からの支出が十分あればその心配はないはずなのに、この点はほとんど議論されない。(図表1)で分かるように、日本は、政府と民間とを合わせた高等教育への支出は、フランス、ドイツ、イギリスとほぼ同額で、決して低いわけではない。これらの国では将来、政府以上に民間の負担が大きくなると思われる。
 高等教育費を政府にばかり依存するのはよくない。国家財政が逼迫する中、民間からの支出を増やす方策を考えないと、高等教育の停滞が起きる。また、高等教育を受ける学生は、どの国でも裕福な層の出身である。高等教育の公的助成がそのような層だけに利するのは、社会的公正の点からも問題があるはずだ。


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